16グランピングでお泊まり(4)
披露宴が終わり、会場を後にする。出口にいた新婦の従姉妹と新郎に挨拶をし、少し離れた場所でカナコは両親の背中を叩いた。
「じゃあ私、このまま帰るね」
「ああ、そうだったわね。気を付けて帰るのよ」
「うん、ありがと」
心配そうな顔をする母に、カナコは笑顔でうなずいた。
この後、新郎新婦は友人たちとの二次会があり、親戚はホテルの上階にあるバーで宴会をするらしい。カナコの両親も参加する予定だ。
「カナコ、気にしなくていいからな。叔父さんたちはカナコと何を話していいかわからなくて、あんなことしか言えないんだ。お父さんが、この後よく言っておくから」
「わかってるって。みんな私のことを心配してくれてるだけだもんね。お父さんもお母さんも……、でしょ?」
申し訳なさそうに言う父に笑いかけ、母にも明るい笑みを見せた。
「じゃあね」
「またいつでも帰ってきなさいよ」
「ありがとう」
父母に手を振ったカナコは、急いで更衣室に向かった。
普段着に着替え、スーツケースを引いてホテルを出る。
時間は午後二時過ぎ。天気は良く、今日は久しぶりに涼しい風が吹いていた。
(凪沙に会いたいし、久しぶりにピクニックもしたい……! なんかもう、いろいろスッキリしたい!)
悶々とした気持ちを抱えながら早足で歩いていたが、ふと自分の言葉に気づいて立ち止まる。
「あ、そういえば近くに大きい公園があるじゃん。……行っちゃう?」
隣の駅で降りれば、海が見える公園があるのだ。
うじうじ考えていても、他人を変えることなどできないし、時間の無駄でしかない。
電車に乗り込んだカナコは隣の駅で降り、コンビニへ急ぐ。披露宴でしっかり食べたので、お酒と軽いおつまみだけ購入した。
スマホ以外はコインロッカーに入れ、コンビニで商品を入れてもらったビニール袋を手にして、歩き出した。
「はー……、身軽でいい。なんか心まで軽くなった感じ」
秋に近づいた空は青く、高いところにいわし雲が広がっている。
道に建てられた表示通りに進むと、三分もしないで海が見える公園の入口にたどり着いた。
日曜日ということもあり、家族連れが多くいる。それでも広さがあるので、混み合っている印象はなかった。
「どこにしようかな~」
のんびり歩きながら、空いているベンチを探した。公園内の道を進んでいると、ピンクや白の花がついた背の高い草が、風に揺れていた。
「コスモスね。暑さは残ってるけど、もう秋なんだな……」
しみじみ呟いたと同時に、ちょうど良い場所のベンチを見つけた。
「よいしょ、っと。……うっ」
ベンチに座りながら、自分の言葉にハッとする。
(なんの違和感もなくひとりごとで『よいしょ、っと』は、ないわ。……まさか凪沙といる時も無意識に言ってた……!?)
一瞬焦ったが、これから気を付ければいいだけのことだ。今さら恥ずかしがってもしょうがない。
「いいお天気。いただきます」
涼やかな秋の風を感じながら、初めて購入する缶入りレモンサワーのフタを開ける。プシュッといい音が響き、シュワシュワと炭酸が弾ける音が後からついてきた。
「わ~、本当にレモンスライスが浮いてきた、すご~い」
丸いレモンスライスを眺めてから、ひとくち飲む。レモンの香りが広がり、鼻を抜けていった。
「炭酸とレモンの酸味が素晴らしくマッチしていて、思わず目を閉じる美味しさ……。曇った気持ちを、爽やかな風味がかき消してくれるよう……」
うっとりしつつ、もうひとくち飲み、目の前に広がる海を見つめる。
「なんでみんな、放っといてくれないんだろ。日吉も、親戚のおじさんたちも」
本音がぽつりと口からこぼれた。
(私だって、婚活頑張るって言ってたけどさ……)
それは透から理不尽にフラれて、彼を見返してやろうと思っていたからだ。
今は凪沙がいるのだから、婚活の必要はない。
凪沙とは付き合い初めて間もないけれど、とても好きになった人だから大切にしていきたい……。
カナコはおつまみの包装を開け、ひとつ手に取って口へ放り込んだ。
まろやかなクリームチーズを、ほどよい塩味の生ハムでくるんでいる、お気に入りのおつまみだ。
レモンサワーを飲み、もうひとつ生ハムチーズを口に入れようとして、手が止まる。
(でも……確かに日吉が言ったように、凪沙からしたら結婚なんて、先の先のずっと先の話よね)
自分の年齢を考えると、不安がよぎるのは正直なところだった。
凪沙と上手くいって、付き合いも長く続けて、もしも結婚、そして出産となった時、自分はいったい何歳になっているのか――。
「だーかーら! まだ始まったばかりなの! 私は凪沙と一緒にいる時間を大切にするの! それをこれから作っていくの!」
周りに誰もいないのをいいことに、カナコは力強く自分に言い聞かせた。
先のことなんて誰にもわからないのだ。
半年前の自分だって、フラれることなど思ってもみなかった。そしてまさか自分が年下男子と付き合うなんて、想像もしなかったことだ。
「そういうことよ。なるように、なる。今が大切」
いよいよ今週末は凪沙と一緒に一日中、いや、二日間ずっと一緒に過ごせるのだ。その甘い時間を楽しみだけで、仕事も頑張れる。
カナコはレモンサワーを飲み、秋の美しい空を見つめた。




