表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/96

16グランピングでお泊まり(4)

 披露宴が終わり、会場を後にする。出口にいた新婦の従姉妹と新郎に挨拶をし、少し離れた場所でカナコは両親の背中を叩いた。


「じゃあ私、このまま帰るね」


「ああ、そうだったわね。気を付けて帰るのよ」


「うん、ありがと」


 心配そうな顔をする母に、カナコは笑顔でうなずいた。

 この後、新郎新婦は友人たちとの二次会があり、親戚はホテルの上階にあるバーで宴会をするらしい。カナコの両親も参加する予定だ。


「カナコ、気にしなくていいからな。叔父さんたちはカナコと何を話していいかわからなくて、あんなことしか言えないんだ。お父さんが、この後よく言っておくから」


「わかってるって。みんな私のことを心配してくれてるだけだもんね。お父さんもお母さんも……、でしょ?」


 申し訳なさそうに言う父に笑いかけ、母にも明るい笑みを見せた。


「じゃあね」


「またいつでも帰ってきなさいよ」


「ありがとう」


 父母に手を振ったカナコは、急いで更衣室に向かった。



 普段着に着替え、スーツケースを引いてホテルを出る。

 時間は午後二時過ぎ。天気は良く、今日は久しぶりに涼しい風が吹いていた。


(凪沙に会いたいし、久しぶりにピクニックもしたい……! なんかもう、いろいろスッキリしたい!)


 悶々とした気持ちを抱えながら早足で歩いていたが、ふと自分の言葉に気づいて立ち止まる。


「あ、そういえば近くに大きい公園があるじゃん。……行っちゃう?」


 隣の駅で降りれば、海が見える公園があるのだ。


 うじうじ考えていても、他人を変えることなどできないし、時間の無駄でしかない。


 電車に乗り込んだカナコは隣の駅で降り、コンビニへ急ぐ。披露宴でしっかり食べたので、お酒と軽いおつまみだけ購入した。


 スマホ以外はコインロッカーに入れ、コンビニで商品を入れてもらったビニール袋を手にして、歩き出した。


「はー……、身軽でいい。なんか心まで軽くなった感じ」


 秋に近づいた空は青く、高いところにいわし雲が広がっている。


 道に建てられた表示通りに進むと、三分もしないで海が見える公園の入口にたどり着いた。


 日曜日ということもあり、家族連れが多くいる。それでも広さがあるので、混み合っている印象はなかった。


「どこにしようかな~」


 のんびり歩きながら、空いているベンチを探した。公園内の道を進んでいると、ピンクや白の花がついた背の高い草が、風に揺れていた。


「コスモスね。暑さは残ってるけど、もう秋なんだな……」


 しみじみ呟いたと同時に、ちょうど良い場所のベンチを見つけた。


「よいしょ、っと。……うっ」


 ベンチに座りながら、自分の言葉にハッとする。


(なんの違和感もなくひとりごとで『よいしょ、っと』は、ないわ。……まさか凪沙といる時も無意識に言ってた……!?)


 一瞬焦ったが、これから気を付ければいいだけのことだ。今さら恥ずかしがってもしょうがない。


「いいお天気。いただきます」


 涼やかな秋の風を感じながら、初めて購入する缶入りレモンサワーのフタを開ける。プシュッといい音が響き、シュワシュワと炭酸が弾ける音が後からついてきた。


「わ~、本当にレモンスライスが浮いてきた、すご~い」


 丸いレモンスライスを眺めてから、ひとくち飲む。レモンの香りが広がり、鼻を抜けていった。


「炭酸とレモンの酸味が素晴らしくマッチしていて、思わず目を閉じる美味しさ……。曇った気持ちを、爽やかな風味がかき消してくれるよう……」


 うっとりしつつ、もうひとくち飲み、目の前に広がる海を見つめる。


「なんでみんな、放っといてくれないんだろ。日吉も、親戚のおじさんたちも」


 本音がぽつりと口からこぼれた。


(私だって、婚活頑張るって言ってたけどさ……)


 それは透から理不尽にフラれて、彼を見返してやろうと思っていたからだ。

 今は凪沙がいるのだから、婚活の必要はない。

 凪沙とは付き合い初めて間もないけれど、とても好きになった人だから大切にしていきたい……。


 カナコはおつまみの包装を開け、ひとつ手に取って口へ放り込んだ。

 まろやかなクリームチーズを、ほどよい塩味の生ハムでくるんでいる、お気に入りのおつまみだ。


 レモンサワーを飲み、もうひとつ生ハムチーズを口に入れようとして、手が止まる。


(でも……確かに日吉が言ったように、凪沙からしたら結婚なんて、先の先のずっと先の話よね)


 自分の年齢を考えると、不安がよぎるのは正直なところだった。

 凪沙と上手くいって、付き合いも長く続けて、もしも結婚、そして出産となった時、自分はいったい何歳になっているのか――。


「だーかーら! まだ始まったばかりなの! 私は凪沙と一緒にいる時間を大切にするの! それをこれから作っていくの!」


 周りに誰もいないのをいいことに、カナコは力強く自分に言い聞かせた。


 先のことなんて誰にもわからないのだ。

 半年前の自分だって、フラれることなど思ってもみなかった。そしてまさか自分が年下男子と付き合うなんて、想像もしなかったことだ。


「そういうことよ。なるように、なる。今が大切」


 いよいよ今週末は凪沙と一緒に一日中、いや、二日間ずっと一緒に過ごせるのだ。その甘い時間を楽しみだけで、仕事も頑張れる。


 カナコはレモンサワーを飲み、秋の美しい空を見つめた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ