16グランピングでお泊まり(3)
食事と歓談を楽しんだ後、美佐紀と昌樹にお祝いの品をあげて、一次会は終了となった。
カナコはこのあと実家に帰るため、同期たちとはここでお別れだ。
「気をつけてな」
「カナコありがとう。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしくね。ふたりともお幸せに……! お先にごめんね」
美佐紀たちと挨拶を交わし、幸江や他の同期たちに手を振り、背を向けた瞬間――。
「わっ」
「おっ、悪い」
ぶつかった人を見上げると、日吉だった。なぜよりによって彼なのだと、眉をしかめたカナコは、バッグを持ち直した。
「渋谷、もう帰るの?」
「ちょっと実家に用があって。じゃあね」
「ああ、またな。近いうちに」
意味深に笑う日吉に向かって、カナコは愛想笑いをしながら棒読みで返事をする。
「そうねー、社内でたまーに、偶然、会うかもねー。まぁそれだけね、お先に」
そして日吉の脇を通り過ぎ、サッサと駅へ向かった。
駅のロッカーに預けておいた荷物を手にし、いったん東京駅へ向かう。
スーツケースを引き、電車に乗ったカナコは、モヤモヤとイライラを抑えながらドア際に立った。
(なんなのよ、日吉のあの態度は。私があいつになびくの前提で、話しかけてきてない!?)
そんなつもりはサラサラないと言っているのに、バカにするにも程がある。
(私にあんなこと言っておいて、どうせすぐに他の人と社内恋愛を始めるに決まってるんだから)
ため息をついてから何気なくスマホを手に取ると、凪沙からメッセージが入っていた。
『カナコ楽しんでる? 俺は今、カナコと行くグランピング周辺の観光を調べてる。楽しもうね』
「くっ……」
彼の文面を見たとたん、胸がキューンと痛くなり、愛しさが爆発しそうになる。
(凪沙、好き。はぁ……癒やされる……)
カナコは素早い動作で画面をタップし、凪沙に返事をした。
『調べてくれてありがとう。私もすごーくすごーく楽しみだよ』
ふだん使わないハートを連打し、続けてラブなスタンプを三個も押したせいか、凪沙に『そっちでなんかあったでしょ』とツッコまれてしまった。
『イラッとしたことはあったけど、今度話すね』
文字では上手く伝えられずに誤解されそうだったので、彼と会った時に直接話したい。
『次に会うのは、やっぱりグランピングの時になりそうだね』
『お互い仕事が忙しいから……、残念だけど』
『じゃあ俺、夜中に押しかけようかな』
「えっ」
電車内だというのに、思わず声が出てしまった。
『冗談だよ。これから実家だよね?』
『うん。もう電車に乗ってる』
凪沙お気に入りのスタンプが送られてきた。なんとも言えないキャラクターが手を振っているものだ。
カナコも行ってきますのスタンプを送り、メッセージは終了した。
(たったこれだけの会話なのに心が安定した……。私、本当に凪沙のことが好きなのね)
カナコは窓の外を見つめ、スマホを握りしめる。
早く次の土曜日が来て欲しい、そして凪沙と一日中ゆっくり過ごしたい、そう思いながら。
実家に到着し、一泊する。
そして翌日は地元近くにある結婚式場に両親と行き、従姉妹の挙式と披露宴に参加した。
(二日連続で結婚のお祝いなんて、幸せのお裾分けをたくさんいただけた気持ちだわ。それだけなら全然疲れないんだけどね……)
幸せそうな新郎新婦から親戚たちに視線を移したカナコは、小さくため息を吐いた。
同じテーブルに着いている親戚たち……、特に男性陣の目が、時折こちらに向いているのが気になった。
そして宴もたけなわ、イヤな予感がその通りになる。
「――さすがに次は、カナコちゃんかぁ~?」
「カナコちゃん、いくつになったんだっけ? あれっ、もう三十になったの? 月日が流れるのは早いねぇ~」
「最近は婚期が遅れてるのが普通みたいだけど、後悔する前になんとかしないとな? いい人はいるんだろう?」
案の定、酒が回ってきたとたん、そんなことを口々に言われた。
(昭和生まれのおっさんたちの、凝り固まった考えを一方的に向けられるのが本当にイヤ。親戚には独身の男性だっているのに、なんで私にばかり言ってくるのよ)
日吉の時と同じく、ここはお祝いの席だからと、カナコは必死に愛想笑いをして耐えた。近くにいる両親も同じような顔をして困っている。
(披露宴の席じゃなかったら言い返してやるのに。職場ではそういう話がセクハラになるのはわかってるだろうに、親戚ならオーケーってどういう神経してるんだろう)
カナコは料理をせっせと食べ、美味しい飲み物をグイグイ飲んで、聞こえないふりをしてやり過ごした。




