15パンとスープとコーヒー(2)
カナコは、凪沙が手にしているホットサンドメーカーを見つめながら言った。
四角いフライパンは、同じ大きさの四角いフタで、サンドイッチを挟めるようになっており、パンの両面が一気に焼ける物だ。
「作りたては、めっちゃ美味いよ。簡単だし」
凪沙は手際よく、五徳が点いているシングルバーナーというガスの上にそれを置き、パンを載せた。ガス缶が丸出しになっているタイプだ。
「私もホットサンド用のフライパン買おうかな。お家でもできるよね?」
カナコがカットしたベーコンをパンに載せると、凪沙がとろけるチーズを振りかける。そしてもう一枚パンを載せて、フタをした。
「もちろん。これは直火用だけど、電気式もあるんだ。そっちのほうが火力が安定してるから扱いやすいかもね」
凪沙がバーナーのつまみをクルクルと回すと、シューというガスが出る音が聞こえた。そこで、彼がカチカチとスイッチを押す。
「ホットプレートみたいな感じ?」
ボワッという音とともに、火が点いたようだった。明るいので火の色がほとんど見えない。
「そうそう。家だと食材もいろいろ試せて、すぐ出来るから便利だよ。俺の場合、実験で変な食材入れまくって失敗したこともあったけど」
「何を入れたの……?」
「ん~……、イカの塩辛と、帆立の貝柱」
「えっ!!」
「帆立の貝柱は、乾燥してるやつね。マヨネーズぶっかけてパンで挟んで焼いた」
「お、お味は……?」
「マズい。終了。で、次にさ……」
凪沙は淡々と話しながら、ホットサンドメーカーをひっくり返している。
カナコは笑いたくなるのを堪え、まだ続く彼の話に耳を傾けた。スープは順調にコトコト煮えている。
「スイーツにも挑戦してみようと思って、カップのバニラアイス一個分をパンに挟んだ」
「……ど、どうなったの?」
「ホットサンドメーカーからアイスが全部はみ出して、パンがベチョベチョになって終わり」
「……ぷっ、くくっ」
「片付けるのクッソ面倒だったよ」
「考えればわかっ、おかし……っ、あははっ!」
「俺、その時はすごい真剣だったんだけど、マジでバカだよな、はははっ!」
お腹を抱えて笑うカナコと一緒に、凪沙も声を上げて笑った。
いつもしっかりしていて、冷静で、アウトドアのことなら何でも知っている凪沙。そんな彼の意外な姿を知って、ますます好きになってしまうカナコだった。
笑っているうちにホットサンドが焼けたようだ。
凪沙はホットサンドメーカーをひらき、きつね色に焼けたパンを取りだした。
彼は食べやすいように小型のナイフでホットサンドを半分にカットし、皿にのせてカナコに差し出す。
「お先にどうぞ。熱いから気を付けて」
「ありがとう、いただきます」
お皿を受取ると、凪沙は先ほどの要領で、もうひとつのホットサンドを焼き始めた。
カナコは焼きたてのそれを口に入れる。カリカリに焼けたパンの間からトロリと溶けたチーズが、舌の上に乗った。
「わっ、あつっ、美味しいっ」
ベーコンとチーズの塩味がちょうど良く、パンも美味しく焼けている。
カナコはひとくち食べた後、半分にカットされたもうひとつのほうを皿ごと凪沙に差し出した。
「凪沙も半分食べて。また焼けたら、それも半分こしよう」
「……ありがとう」
彼は嬉しそうな顔をしてカナコからホットサンドを受取り、頬張った。
「うん、美味い。やっぱさぁ……」
手に持つホットサンドを眺めながら、凪沙がしみじみとつぶやく。
「うん?」
「スタンダードなのが一番美味いよね」
「……イカの塩辛のこと?」
「それ」
凪沙がニヤリと笑ったので、カナコは再び笑いがこみ上げた。
「……ダメ、耐えられない……ふふっ」
「あははっ、俺も」
ふたりで笑いながら、朝の空を見上げた。
すでに日は山の上までのぼり、夏の空には真っ白い雲が浮かんでいる。すぐ上を鳥が飛んでいき、木々の向こうへ消えていった。
美しい自然の中で吸い込む朝の清々しい空気。美味しい食事。大好きな人が隣で笑っている――。
なんと贅沢な時間だろうと、カナコは体中で幸せを感じながら、温かいホットサンドを味わった。
ふたつめのホットサンドは、出来上がったスープと一緒にいただく。
山の冷たい空気にさらされた体を、スープが温めてくれる。あっさりした素朴な味が本当に美味しく、お代わりもペロリと平らげてしまった。




