2芝生の上でピクニック!(2)
カナコはトートバッグを探り、スープジャーを掴んだ。
お湯が入ったジャーにインスタントのコーンスープの素を入れ、スプーンでぐるぐるとかき混ぜた。
お湯はあっと言う間に優しい黄色のスープとなり、コーンの甘い香りを立て始める。
しかしカナコはスプーンを止めず、なおもかき混ぜながら元カレに対するイライラを吐き出すことにした。
「なーにが食事の感想がキモいだ、結婚が重いだ。結婚なんて重いに決まってんだろ、軽く結婚しようとする奴なんているのかよ。大体、お前が同棲しようって言ってきたんだろ、結婚ってこんな感じかな~なんて思わせぶりなことばっかり言いやがってふざけんなよ、自分が浮気したくせに私が悪いみたいに言ってるお前のほうがよっぽどキモいだろ! あーっ、スープおいしいっ!! 卵サンドもさいこうっ!!!」
ちょうどいい温度のスープを飲み、卵サンドを頬張る。
クサクサとトゲトゲとイライラした気持ちが、おいしいものたちで浄化されていく気がした。
「私はこの初心者ピクニックを成功させて、ちゃんとした趣味にして、婚活を成功させて、あいつを見返してやるんだっ!!」
ペットボトルのお水を飲み、ふうと大きく息を吐く。
「はーーっ、すっきりした。この勢いで全部食べちゃお――」
大きな口を開けてもうひとくち卵サンドを食べようとした時、すぐ後ろでガサッという音がした。
「えっ」
驚いたカナコは慌てて振り向く。
「うまいっすよね、卵サンド」
背の高い男性がこちらを見下ろして言った。
「えっ、あ、あ」
あまりにも驚きすぎて言葉が出てこない。
カナコは口をアワアワしながら、こちらに視線を置いたままの彼を凝視した。
確実にカナコより若い年下男子だ。綺麗な肌だからすぐにわかる。しかも高身長のイケメンだった。
「ま、まさかずっと、そこに……?」
「ええ、まぁ」
答えた彼は大きな木の陰に行き、すぐに戻ってきた。手にはリュックとシートを持っている。
「移動しますので、気にせず食べてください」
「いえ、私があっちに行きます! ごめんなさい、邪魔しちゃって!!」
「いや、もう起きなきゃいけない時間だったんで、ちょうど良かったです」
どうしようという言葉で頭の中が埋め尽くされる。
彼はシートの上で寝ていたのだ。カナコが到着する前から木の裏側にいて、カナコのひとりごとで目が覚めて、その内容を聞いていたらとんでもないことを言い始めて――
恥ずかしさでクラクラしながら立ち上がろうとしたが、彼に制される。
「ほんとに大丈夫ですから」
「でも……」
慌てるカナコの前でしゃがんだ彼が、ニヤリと笑った。
「何もキモくなかったですよ。文学的で俺はいいと思いますけど」
「えっ!」
「では失礼します」
彼はペコリと頭を下げてから立ち上がり、カナコに背を向けて歩き出した。




