12夏だ、山だ、波乱のバーベキューだ(9)
「……え」
「ええーーーっ!!!」
他の社員からも驚きの声が上がるが、大倉は淡々と続けた。
「彼女連れはダメでしたっけ?」
「いやいやいや、いいに決まってるだろ! 彼女さんでしたか……! こちらこそよろしくお願いします……!」
男性はカナコに深々とお辞儀をする。
「渋谷さん、よろしくお願いします! 大倉くんにこんな素敵な彼女さんがいたなんて~! 秘密主義者だと思ってたのにやるわねぇ」
女性も満面の笑みでカナコに言った。周りの社員たちも、女性に同意してうなずいている。
「こちらこそよろしくお願いします。あの、良かったらこれ、皆さんでどうぞ」
本当の彼女ではないのにここまで歓迎されて、カナコは心苦しく思いながら、笑顔で手土産を差し出した。
「いいんですか!? ありがとうございます!!」
「これ、食べてみたかったチーズだ!」
「このララスクも気になってたのよ! 可愛いんだよね! 渋谷さん、ありがとうございます!」
全員、喜びのリアクションが大きく、カナコも嬉しい気持ちでいっぱいになった……のだが。
「嘘でしょ……、ナギサくんの彼女?」
「匂わせも一切なかったのに……信じられない」
カナコのすぐ後ろから、先ほどのインフルエンサー女子たちの小声が届いた。
(いつの間に後ろに? こわ~……、いけど、本当は違うんですなんて言えないし……。というか、大倉さんに聞こえてないよね?)
カナコより一歩前に出た大倉を見ると、たぶん聞こえていないようでホッとする。
「準備手伝いますよ。あとは何したらいいですか?」
「もうほとんど終わってるから大丈夫よ。というか、T社さんとB出版さんがほぼ準備して待っていてくださったから、助かっちゃったの」
「そうでしたか」
今日はアウトドア食品メーカーとのコラボで、雑誌社も入っている。大倉が言った「撮影」は、雑誌に載せるためのものだろう。
「うん、だから彼女さんとゆっくりしてて」
女性はカナコを見て、「ね?」と優しく笑った。
「ありがとうございます。じゃお言葉に甘えて、ちょっと挨拶回りしてきますね。俺が知らないギアがたくさんあったので、気になっちゃって」
「どうぞどうぞ。行ってらっしゃーい」
「行こう、カナコ」
「はい」
まず、コラボをする食品メーカーと雑誌社に挨拶をしに行く。
どちらも明るい人たちでノリも良く、大倉のことも知っているようだった。
カナコにアウトドアで便利に使える食品を見せてくれ、たくさん食べましょうと言ってくれる。
「どれも美味しそうね」
「ああ。俺も普段から使わせてもらってるんだけど、今日は新商品の紹介がたくさんあるから楽しみなんだ。あとは社長からの差し入れで、極上の和牛が入ってる予定だよ」
「極上の和牛!?」
「ははっ、カナコの顔、輝きすぎ……!」
大倉が声を上げて笑うと、そばにいた男性が驚いた顔で声をかけてくる。
「大倉くんが大笑いしてるの、初めて見ましたよ……!」
「え……、そうなんですか?」
「打ち合わせの時にみんなで盛り上がってても、クスッと笑うぐらいしか見たことないです」
アウトドア食品メーカーの男性がスパイスの瓶を持ったまま、大倉を見て驚いていた。
「俺だって人間なんだから楽しければ笑いますよ。だから今、すごく楽しかったってことですね」
「ほうほう、なるほど。彼女さんの力はすごいなぁ……!」
「ですね」
男性の言葉にニヤッと笑った大倉が、カナコを見下ろした。
「カナコといると楽しいから」
「あ、ありがとう。私も凪沙といると楽しいな」
「ありがと」
笑った凪沙に手を取られ、ぎゅっと強く握られる。とたん、カナコの顔がかっと熱くなった。
(これは演技なんだから、いちいちドギマギしないの!)
「はいはい、ごちそうさま。彼女さん、美味しいの作るんで、たくさん食べてくださいね~」




