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12夏だ、山だ、波乱のバーベキューだ(8)

「カナコ」


「えっ、はい」


「無理言って申し訳ないんだけど……」


 大倉は眉を下げてカナコを見つめていた。カナコの緊張が伝わり、心配になったのだろう。


「ううん、大丈夫よ。頑張ります!」


「ありがとう」


 笑顔でうなずきあい、準備をしている人たちのほうへ歩みを進めた。



 奥の方でテキパキと用意をしている人たちが社員のようだ。そのだいぶ手前に、数人の女性たちがいる。


 彼女たちはカメラやスマホで自撮りをしており、見た目も華やかだ。その横で、同じように目立つ男性たちが撮影をしていた。


(アウトドア系のインフルエンサーの人たちかな? みんなオーラがあるというか、目立ってる……! しかも女性はみんな可愛くて綺麗……!)


 その彼女たちがこちらに気づき、一斉に声を上げた。


「ちょっ、リアルナギサくん、やば……っ!」


「ガチでメロ男じゃん!」


「ナギサくんと一緒に写真撮りたい……!」


 結構な音量の声だったので、男性らもこちらを見る。そして声を上げていた三人の女性が一斉に駆け寄ってきた。



「あのっ、ナギサくんですよね? 私、SNS全部フォローしてて……!」


「私もフォローしてます! ナギサくんに憧れてキャンプを始めたんです! 今日はいろいろ教えてくださいっ!」


「ナギサくんに沼ってる友達も多くて、もちろん私もなんですが、あの……めっちゃ推してます!」


 バッチリメイクをキメた、キラキラな女性たち三人はカナコに目もくれず、大倉を取り囲んだ。


 カナコは驚きつつも、彼女たちの服装をしっかりチェックする。

 アウトドア用の服を着ているのだが、みんなとてもオシャレで可愛いのだ。


(動きやすそうだし、この暑さの中でも涼しそう。どこで買っているのか、あとで教えてもらおう)


 そう、今日のカナコは、ただバーベキューを食べに来ただけではないのだ。


 ピクニック初心者にとって、アウトドア猛者たちが集合しているここは、勉強に最適な場所なのだから、この機会を逃す手はない。


 彼女らの帽子や靴、時計などを興味深げに眺めていると、大倉の声が耳に届いた。


「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。では」


「あっ、一緒に写真だけでも!」


「全員で撮影の時間があると思いますので、それでお願いします」


 ニコリともせずに、大倉は会釈だけした。

 

(大倉さん、塩対応すぎてこっちが心配になる~……)


 愛想がなくて先輩に叱られると、大倉本人が言っていたのを思い出す。

 普段からこうなのだろうけれど、それにしてもまったく笑みも見せずによく会話ができるものだ。


 と、そこまで思って気づいた。


(もしかして大倉さん、こういうふうに騒がれるのを想定していた? だから私を彼女ということにして、彼女らを不用意に近寄らせないようにしたのかも……)


 大倉はサービスエリアでも女性たちに注目されていたが、今はその比ではない。アウトドア系のインフルエンサーの女性たちは、全員どう見ても浮き足立っていた。


 過去に何度もこういうことがあったのだとすれば、その対策としてカナコを連れてきたのもわかる。


「行こうか、カナコ」


「あ、うん」


 大倉に背中を押されたカナコは、彼女らに会釈をしてその場から離れた。そして奥のほうで作業をしている社員たちに近づいていく。


「お疲れ様でーす」


 大倉が声を掛けると、みんなが一斉にこちらを見た。


「あー来た来た、大倉くん、お疲れ様~! 休みなのに悪いな、ありがとう」


 体格のいい男性がこちらへ笑顔を向ける。


「大倉くん、今日はひとりじゃないのね。こんにちは!」


 男性の隣にいた女性が、カナコに笑いかけた。優しそうな笑みにホッとする。


「こんにちは! 渋谷と言います。今日はお邪魔します――」


「俺の彼女です」


 カナコの挨拶後、間髪入れずに大倉が言った。


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