12夏だ、山だ、波乱のバーベキューだ(3)
朝から良く晴れた、バーベキュー当日。
カナコは大倉の車の助手席に乗り込み、ハンカチで額の汗を拭きながら挨拶をした。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。朝から暑いっすね。冷房、これくらいで大丈夫ですか?」
「ええ、とっても涼しいです。ありがとうございます」
お盆を過ぎても、まだまだ酷暑が続いている。日中、三十五度を超えるのが当たり前という夏の事情にも、最近は慣れてしまった。
「今日向かうキャンプ場は木陰が多くて涼しいんですけど、熱中症には気を付けてくださいね」
駐車場から車を発進させながら、大倉が言った。
「わかりました。水分補給します」
「俺も気をつけますので」
久しぶりに会った彼だが、いつも通り淡々としていて、そこがカナコを安心させる。
彼は日焼けをしていて、少し痩せた感じがした。もともと細身の体型だが、ロングトレイルで体が絞られたのだろう。
「車、変わったんですね」
「そうなんですよ。前の車も良かったんですが、提供の期限がきたので、そのタイミングで別の企業が提案してくれた車に替えたんです」
カナコの問いかけに、大倉の声がパッと明るくなる。車についてもっと話したいのか、声色がウズウズしているのが伝わった。
「たくさん荷物が積めますね~。後ろが広くて驚きました」
カナコはチラッと後部座席を見た。座席の後ろのスペースがかなり広くできているのだ。
「これ、車中泊用に工夫されてて、すげぇロマンがあるんですよね。テンション上がっちゃって、いろんなギア買い込んで積んでます。もうここで生活できるくらいですよ」
明らかに楽しげな声を聞いて、目の前に広がる高い雲のようにカナコの気持ちも上昇していく。
「車中泊ということは、後ろで寝るんですか?」
「ええ、そうです。座席がフルフラットになるんですけど、この車専用に作られた折りたたみのマットレスが、マジでシンデレラフィットで――」
説明を始めた大倉の横顔を見て、カナコは頬を緩めた。
(そうそう、この顔が見たかったの。そしてこういう長い説明も聞きたかった……!)
先日のオフ会の時からずっと、大倉に会いたいと思っていた。
自分の趣味をやんわりと否定してくる男性たちの言葉を、払拭したかったのかもしれない。これでいいんだと、大倉のそばで感じたかったからかもしれない。
(彼と話していると安心する。これでいいんだって、自信をもらえるから……)
なんといっても、人生で初めてできた師匠なのだ。
師匠の言葉は絶対である。だから安心するわけで……。
(……それはそうよ。どの世界においても、その道を行く達人イコール師匠。私にとってピクニックの師匠は大倉さん。だから彼の言葉に絶大な信頼を持っているし、安心できる。……師匠だから、よね?)
カナコの心に引っかかるものが生まれた。
それが何なのか自分でもわからないのだが、今はそれを確かめる時ではないような気がする。
「そういえばアレ、どうなりました?」
「アレ? ですか?」
「婚活のオフ会です。行かれたんですよね?」
首都高に乗ってすぐの大倉の質問に、カナコの心臓がドキッと音を立てた。
(師匠だから知る権利があるって言ってたんだっけ。本当に聞いてくるとは思わなかったけど……、見栄を張らずに話そう)
カナコは前を向き、呼吸を整えてから答える。
「ええ、行きましたが……、どうもなりませんでした、アハハ……」
乾いた笑いでごまかす自分がなんとなく恥ずかしくなって、大倉のほうを向けない。




