11師匠にお礼を(5)
「今年の盆休みはロングトレイルをするつもりです。前に話した、高校時代からの友人と一緒に。場所は……まぁまぁ涼しいところですかね」
「大倉さんのSNSを見たときにも思ったんですけど、トレイルってなんですか?」
以前、チェックした時にわからなかった単語のひとつである。
「簡単に言うと、自然の中を歩く道、ですね。長距離をロングトレイルと言います。その道を歩いて行くことをトレイルする、とも言います」
「自然の中を歩いて行く……。登山とは違うんですか?」
「登山は頂上を目指しますが、トレイルは自然の中を歩いて行くことが目的なんです。だから道中に街があったり、神社や温泉があったり、もちろん登山道を行くこともあったりします」
「楽しそうですね。私も挑戦できるものでしょうか?」
ゆっくり行くのなら、カナコにもできそうだ。
「もちろんできますよ。日帰りなら気軽に楽しめますし、一泊二日でも街が近ければ、疲れたら公共交通機関を使って帰れますしね」
「一泊二日程度ということは、もっと長いのも……?」
ただ歩くだけなのに何日もかけるのだろうか?
大倉の説明に不安がよぎり、恐る恐る聞いてみる。
「そうですね。今度俺が行くのは、四泊五日のロングトレイルです」
「よ、四泊五日って、その間ずっと歩くんですか?」
「はい。学生の頃は一週間とか十日とか行ってたんですけど、さすがに今はそこまで長い休暇が取れないので……」
「す、すごいですね」
「そこまで長いのは安易にオススメできないです。よっぽど好きじゃないと、女性には厳しいかもしれないので」
「やっぱり体力的に難しい……とか?」
「歩くのは一日15㎞~20㎞くらいの距離ですから、それは大丈夫かもしれません。ですが、俺がしているようなロングトレイルは、テント泊をしながら進むので何日も風呂に入れないですし、服も最低限しか持ち歩けないので臭います。あと、街に降りれる場所に来るまで、ろくなメシが食えないですね」
「な、なるほど……、過酷ですね……」
さすがにこれは想像すらできず、カナコは顔を引きつらせた。そんなカナコに気づいたのか、大倉が笑顔を見せる。
「大変ですけど、最高にいい景色がたくさん見られるんですよ。達成感もすごいですしね。まぁ……途中で必ず、何やってんだ俺? って気持ちにはなりますけど」
ハハハと苦笑した大倉はドリンクを口にしてから、カナコに質問を返した。
「渋谷さんのお盆は、どのように?」
「私は実家に二泊して、あとは滞っていた婚活もそろそろ復活してみようと思っています。と言っても、まだ本格的なものじゃなくて、オフ会あたりがいいのかなって」
大倉に気持ちを吐き出した後、カナコはだいぶ落ち着きを取り戻せた。
そして無理矢理前に進むのをやめて、気持ちが落ち着いた頃に復活するつもりでいたのだ。
来月の帰省後であれば、今よりもさらにいい感じに、心は落ち着いているだろう。
「……あ、ああ、なるほど」
一拍置いて返事をした大倉は、カナコから視線を外してドリンクを手にした。
無言でドリンクを飲み、カナコに視線を戻さない。
(引かれたのかな? でも、婚活のためにピクニックを始めたのは、大倉さんも知ってるんだし……)
気のせいだろうと思うことにした。




