11師匠にお礼を(3)
「大倉さんがそう言ってくださるなら、これからも褒めさせてください。私も不快じゃないです、嬉しかったです」
「じゃあ、もっと欲しいですか?」
大倉の言葉に、カナコはドキッとする。
恥ずかしいが、今の気持ちを素直に伝えることにした。
遠慮したり、謙遜したり……そういうのは一度捨ててみる。以前の自分とは違う自分になるために、変わるのだ。
「欲しいです。……ください」
「オッケーです。……あげます」
カナコと同じ温度で答える彼の声に、カナコは頬が熱くなる。
照れなのか、恥ずかしいのか。……この感情はいったいなんなのか。
とにかく今日もまた、大人の余裕はどこかへ行ってしまったようだ。
「結構いい物、使ってるな……。これなんだ? これは知ってる、これは――」
レンタルスペースに着いたとたん、大倉はあちこち見て回りながら、この調子でずっとブツブツ言っていた。
カナコが借りたアウトドアレンタルスペースは80㎡ほどあり、二十人は収容できるらしい。
広々とした空間に大型のテントがひとつ、タープという布状の屋根が張られた下にアウトドア用の大型テーブルとチェアが置かれている。
部屋の奥にキッチンがついていて、ホットプレートなどの調理器具や、紙類の食器が豊富に用意されていた。
(この部屋しか空きがなかったからだけど、やっぱりここにして良かった。疑似キャンプっぽいから、初心者の私にはこれくらいがちょうどいいものね)
カナコは用意してきたお弁当をテーブルに置き、冷蔵庫に入れるものをいくつか入れてから、テントを触っている大倉のそばに行く。
室内に流れるゆったりした洋楽が、チルな雰囲気の効果を高めていた。
「最近のテントってこんな感じなんですか?」
「そうですね。ポールの形が――」
彼に尋ねると、とてもとてもとても詳しい説明が返ってきた……。
十五分ほど彼の解説を聞いた後で、カナコは食事の準備をする。
キッチン用品をくまなく手に取っていた大倉に声をかけると、テーブルに来た彼が目を丸くして言った。
「すげーっ! 映え映えじゃないですか!」
「あはは、ありがとうございます。一度、オシャレピクニックっていうのをやってみたかったんですよね~」
「オシャピクいいですよね。俺は関わってないんですが、会社のウェブサイトで何度か特集組んでました。人気の記事でしたよ」
言いながら椅子に座る大倉と一緒に、カナコも彼の正面に座る。
「私にはオシャレなものは作れないって決めつけてたんですけど、師匠に見てもらえるならと思って頑張ってみました。いかがでしょうか?」
「完璧っす。師匠の俺が言うんだから、間違いない」
大倉はサムズアップして、口の端を上げた。嬉しくなったカナコが「やったー」と両手を叩いて喜びを伝えると、彼がお弁当を指さす。
「これ、撮ってもいいですか? 勝手にどこかに載せたりはしないんで」
「載せても大丈夫ですよ。私の顔を出さないでいただければ」
「いいんですか? ありがとうございます!」
大倉は礼を言ってから、持参していた一眼レフのカメラを手に、カナコのお弁当を撮り始めた。
メインは家で作ってきたホットドッグだ。




