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10焼き肉とビールと涙(5)

「ええ、そうです。それぞれテントを張って、別々に好きなものを作って食べて、でもそばで一緒に話して、好きな時間にそれぞれ寝る、みたいな。ひとりでキャンプするようにもなりました。ギアにこだわりだしたのも、そのあたりからです。低山だけですが、登山にハマった時期もありますね」


 知らない世界がカナコの頭に浮かび、目の前にいる大倉と結びつく。アウトドアを大切に思うがゆえに、カナコにも熱心に教えてくれるのだと。


「で、ここからはおこがましい話なんですけど、俺、渋谷さんのこと放っておけないって言うか。聞いちゃったじゃないですか、最初に会った公園で」


「あ……え、ええ、そうですね」


 元カレのことで猛烈に腹が立ち、大きな声で文句を言っていたのを、木の裏側にいた大倉に聞かれたのだ。


 まだ内容を覚えているらしい彼の言動に恥ずかしさがこみ上げる。


「きっと今の状況を変えたくて、ひとりで来てるんだろうなと」


「っ!」


 核心を突かれたカナコの胸がズキッと痛む。


「愚痴りたいだけなら友人と飲みに行ったり、SNSで吐き出したりすればいいのに、わざわざ弁当作ってデカい公園に来てるなんて、相当のことなんだと思いました」


「お恥ずかしいですが、その通りです……。モヤモヤをぶつけるところがなかったから」


 カナコは缶ビールをグイッと飲んだ。


 あの頃の惨めさが吹っ切れたつもりでも、ふとした瞬間に思い出す。

 同棲して楽しかった頃もあったはずなのに、傷ついたことばかりが頭に浮かんで、苦しくて、夢にまで見て……。


「その渋谷さんの思いを、俺が潰すことになったんじゃないかと心配だったんです。故意ではないとはいえ、俺が聞いてしまったことで渋谷さんが傷ついて、もう二度とピクニックに行かなくなったら、せっかく変わろうとしているチャンスを逃すわけですから」


「大倉さん……」


 鉄板を見つめていた大倉が顔を上げ、カナコに優しく笑いかける。


「あの……、俺も変われたんで。渋谷さんも一歩踏み出せているから、もう大丈夫っすよ。これからいいことしかないですから――」


「……」


 カナコの目に涙が溢れ、ぽろぽろと零れた。


 大倉の言葉と笑みが胸に刺さったようだが、自分でもわからないうちに泣いていて戸惑う。


「うわっ、すみません……! わかってるふうなこと言っちゃって、ムカつきますよね」


「ちっ、違っ! う……嬉しくて、っうう……うぇっ、うう~~っ」


 慌てて謝罪する大倉に、違うと言いたいのだが、涙を拭っても、後から後からこみ上げてきて泣くのが止まらない。


 これはもう、吐き出させてもらうしかないのだろうか。


「うっ、ウザいと思いますが、ぐ、愚痴っていいですか……っ」


 カナコは自分に素直になって、大倉に言った。


「もちろんですよ。俺の長くてウザい語りを散々聞いてくれたんですから、今度は渋谷さんの番です。何でも聞きますから、話して下さい……!」


「うっ、ありがとう、ございます……、うう」


 大倉が差し出したティッシュペーパーを受取り、涙を拭いて、ついでに鼻もかんだ。


「……私、けっ、結婚するつもりで、同棲してました。彼も最初は、結婚したら、こんな感じかなんて、嬉しそうに言うから、てっきり……そのつもりなんだろう、って、……ひっ、ひっく」


「大丈夫ですよ、聞いてますから、ゆっくりで」


 大倉が静かな声で言ってくれたので、カナコはうなずいて深呼吸をした。


「……でも、一緒に暮らすうちに、彼に何でもバカにされるようになって……、私の言うこともやることも、いちいち、気に入らない感じに言われて、私が悪いのかなって……、直すようにしていたんですが」


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