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1はじめては卵サンド(4)

「私ってば、アウトドが趣味……ってこと!?」


 とつぶやいて、すぐに首を横に振る。


「いやいや、アウトドアとか面倒くさすぎるでしょ。道具とか揃えなきゃならないし、キャンプどころかバーベキューもしたことないし。そもそもベランダで何かを食べるのが好きってくらいで趣味とかさぁ……」


 そうぼやいたところでハッとしたカナコは、自分の右頬を片手でパチンと叩いた。


「だからそういうとこ! そういうところがダメなのよ! ぶつぶつ言ってないで行動を変えないと、この先、男も幸せも、何にも掴めないでしょうが!」


 カナコは部屋に戻ってコーヒーカップをテーブルに置き、ノートPCをひらいた。


 アウトドア、おひとりさま、外で食べる……等、検索してみる。


 趣味は「ひとりで」できるものがいい。

 婚活のために友人を付き合わせるのは申し訳ない。というか、そもそも彼女たちは結婚しており、子どもがいたりもする。


 そんな彼女たちの存在が、結婚に焦っている要因のひとつでもあるのだが……。


「何これ……ソロ、ピクニック? ソロキャンプじゃなくて? え、ひとりでピクニックするの……?」


 SNSを徘徊していると、突然現われた「ソロピクニック」というタグ。


 オシャレなバスケットや飾り付けられたお弁当などがシートの上に並び、ひとりで満喫する女性の投稿が、わんさか出てきたのである。


 確かにこれもアウトドアだ。


 外で飲んで食べて、のんびりする。

 ただそれだけで「ピクニック」というジャンルが成立している。


「い……いいじゃん、これ……! お弁当を持っていくだけなら私にもできそう! こんなふうにおしゃれには作れなさそうだけど、でもそうか~、ピクニックか~、これは盲点だったわ」


 さらにスマホのアプリからチャットのAIに質問を重ね、調査をした。


 キャンプにはデイキャンプという、宿泊せずとも料理や自然を楽しむことができるものもある。


 ピクニックと変わりないように思えるが、簡易テントを張ったり、調理をしたり、そのための道具を用意したりとハードルが高い。

 その場で作った料理を失敗させたらおしまいだ。


 それに比べればピクニックは準備が少ない。お弁当と飲み物とシートさえ持って行けば完成である。


「こんな私でも、いける……!」


 ソロピクニックに一筋の光……希望を見出したカナコは、早速次の休日に出かけることにし、今に至ったのだ――。



「――私が向かうのは……『おおきいひろば』だから、こっちかな?」


 巨大な公園はいくつかのエリアに分かれており、カナコが目指している広場はその中でも一番広い場所。


「へえ……、自転車で園内を回る人もいるのね」


 レンタサイクルもできるらしく、自転車専用の道もある。次に来るときは利用してみようか。


 ゲートでは多くの人で賑わっていたが、それぞれ目的の場所に散っていくため、十分ほど歩けば人との距離がずいぶん離れていた。


 鳥のさえずりを聞き、緑の匂いを吸い込みながら進んでいくと、突然視界がひらける。


「えっ、うわ、広い……!」


 立ち止まったカナコは目の前の光景を前に、思わず声をあげていた。


 どこまでも続く芝生のエリアの中心に、大きな木がそびえており、その周りに人が集まっている。お弁当を食べたり、遊んだり、のんびりしたりとさまざまだ。


 すぐそばに人がいないのを確かめてから、もう一度声を出す。


「いや、恥っず……!」


 湧き上がる羞恥にいても立ってもいられず、そんな言葉を口にしていた。


 もちろん芝生エリアにもたくさん人がいて、同じように過ごしている。

 カナコが期待した通り、広さがあるので他人と干渉しあうことはほぼない。ないのだが……。


 いざ、そんな人たちを目の前にすると、ひとりでピクニックをする勇気が打ち砕かれそうになったのだ。


(ソロピクニックを楽しむ女子がSNSにはたくさんいたけど、すごくない? 私には日が当たるあんなキラキラした場所で、ひとりでピクニックが出来る自信がない……!)


 カナコは後ずさりしそうになったが、足を止めた。

 ここで怯むわけにはいかない。自分を変えるために、逃げてはいられない。


 とりあえず、カナコは広場の中心部から視線を移した。


 芝生エリアを囲むように小道が一周している。さらにその周り……、今カナコがいる場所にも芝生はあるのだが、ちょうどいい具合に木々があるため、ひとは少なく落ち着いた雰囲気だ。


 どこで過ごしても景色は良さそうなので、中心から一番離れた大きめの木がある場所に目標を定めた。



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