10焼き肉とビールと涙(4)
「いえ、油も付きそうでしたけど平気ですか?」
「ええ、大丈夫です」
大倉に淡々と尋ねられて、意識してしまった自分が恥ずかしくなる。
(年上の余裕どころか焦ってるなんて、恥ずかしすぎるんですけど……)
カナコはコホンと咳払いをし、話題を変えた。
「あの、大倉さんはいつからアウトドアが趣味というか、お好きなんですか?」
まるでお見合いのような聞き方をして余計に恥ずかしくなるが、そんなカナコを気にもせず、彼は肉を焼きながら答える。
「きっかけは……、俺が受験で死にそうだった頃、ですかね……。あれは俺の……、二度と戻りたくない……暗黒時代でした……」
「え」
急激に暗い顔になった大倉を見て、しまったと気づいた時には、彼の長~い過去話が開幕していた。
「……とまぁ……こんな感じです」
要約すると、大学受験を前に人生に悩み、自分を客観視できず、何もかも投げ出したくなったという……、誰しも一度は訪れる若さゆえの葛藤の話だった。
そんなさなか、友人に連れて行かれたキャンプで自分の小ささに気づき、悩みを吹っ切ることができたらしい。
「ありがとうございます。詳しく聞かせてくださって」
「長々と疲れましたよね、すみません。でもなんか俺、渋谷さんにだと話しやすくて……上手く言えないんですが。聞いてくださってありがとうございます」
大倉がペコリと頭を下げた。
「話しやすいって言われるのは嬉しいですから、遠慮せずに話してください。そのお友達とのキャンプのお話、もっと聞きたいです」
彼の葛藤がメインだったので、友人とのキャンプについては端折られていた。
大倉はお代わりのビールを冷蔵庫から持ってきて、カナコの前にも置いてくれ、おもむろに話し始めた。
「俺、キャンプって初めてだったんですよ。その友人が家族とキャンプするから一緒に来いって、半ば強制的に連れて行かれたんです。うちの親も、友人のご両親がいるなら心配ないし、たまには息抜きしてこいって。そもそも俺は乗り気じゃなかったんです」
話しながら、彼は缶ビールを開けた。カナコも一緒に開ける。
「あまり設備が整っていない山のキャンプ場でした。夏のシーズンが終わって人もそんなにいなくて、俺たちだけで広いスペースを借りることができたんですが……」
大倉はビールを飲み、肉と野菜を焼き始めた。
「火をおこすのも大変だし、焚き火の煙はすごいし、なんか火が強すぎて肉は焼けすぎるし、夜は暗いし、トイレは怖いし、風呂はないし、虫が明かりに寄ってくるし、食べてる皿にも入ってくるし。途中までは、何が楽しいんだって思ってました」
カナコにキャンプの経験はないが、大倉の説明がリアルなので容易に想像できた。
「でも、こっちに来いって言われて、火のそばから少し離れた場所に行ったら、星がすごかったんです。プラネタリウムかよ、ってぐらいの星の数で。ずっと空を見上げていたら吸い込まれそうになって、美しいというよりも怖くなりました」
カナコはビールの缶を置き、彼の顔を見つめて話に聞き入った。
「その時……、世界観が変わったと言ったら大げさかもしれませんが、いろいろと吹っ切れて、気づいたんです。ついさっきまで心の中でタラタラ文句言ってた、自分の小ささに。自分が恵まれている状況とか、そんな中で悩んでいることが、いかにくだらないのか、そういうのを全部」
「全部……ですか」
「ええ、全部です。そこからキャンプが急に楽しくなって、ひとつも面倒じゃなくなりました。単純なんですけどね。それでハマって、大学受験に合格後からキャンプに行きまくりました」
「そのお友達とですか?」
穏やかな表情に変わった大倉に尋ねる。




