10焼き肉とビールと涙(3)
「謝らないでくださいよ。俺が持って行っただけなんですから。強要したわけじゃありませんし」
「でも、大倉さんの貴重な時間をいただいておいて――」
「俺はすごく楽しかったんでいいんです。渋谷さんは楽しくなかったんですか?」
「いえっ、すごく楽しかったです!」
ニコッと笑った大倉は、焼けた茄子を口に放り込み、美味しそうに食べてから続けた。
「あなたが楽しかったのなら、大成功のピクニックです。つまらなかったら、誘った俺の責任。……それよりも」
大倉の顔つきが深刻なものに変わった。
「今後、しばらくピクニックは厳しいかもです」
「え……」
「食べながら話しましょう」
「あ、はい」
次の肉に箸をつけて、鉄板の上に置く。ジュワーッといい音がして、香ばしい匂いが立ちのぼった。
(なんだろう。もしかして私、ピクニックにあるまじきことをしでかしていた?)
ピクニックガイドなるものがあるのだろうか。
思案しながら焼けた野菜をモグモグしていると、大倉が人差し指を立てて説明を始めた。
「厳しい条件ひとつめ。もうすぐ梅雨が来ます」
「あ……確かに、雨の中は無理ですよね」
五月の気候に浮かれていたが、すでに沖縄は梅雨入りしていたはずだ。となれば、関東も例年通りに来るだろう。梅雨入り前から曇り空の日も多くなる。
うなずいているカナコに大倉が中指も追加し、ピースを見せる。
「厳しい条件ふたつめ。梅雨のあと、すぐに夏が来る。ここ数年はヤバい暑さの夏が梅雨の直後から来ているので、この近辺でピクニックをするのは地獄です。というか生死に関わります。日陰でも暑いので」
地獄の暑さを日本全国で味わっていると言っても過言ではない。
「最近は夏が長すぎますもんね。せっかく楽しくピクニックできそうだったのにな……。私、水筒は買わなかったんですけど、アウトドア用のチェアは欲しくなったので、買いに行こうと思ってたんです」
「えっ! そうだったんですか!? 一緒に買いに行きます!?」
ガタッと椅子から立ち上がる勢いで大倉が前のめりになった。
「いいんですか?」
「俺が一緒なら、変な物買わせませんから! 見た目が良くて安いけどすぐ壊れるとか、組み立てづらいとか、持ちにくいとか、そういうの買わせませんし、全部アドバイスしますっ!!」
「嬉しいです~! でも、しばらくピクニックはできないんですよね……」
せっかく買ってもすぐには使えないと意気消沈するカナコに、大倉は肉を頬張りながら言った。
「涼しいところでやればいいんですよ」
「涼しいところ?」
「高原が最適ですね。八ヶ岳あたりが俺は好きですけど」
「八ヶ岳でピクニックですか?」
カナコが持つ八ヶ岳のイメージは、ここから遠くて、高い山が連なっていて……と、気軽に行けそうな場所ではないが……。
「山に登っても構いませんが、高原がいいと思います。なだらかな丘をのんびり歩いて、木陰にシートを敷いて、弁当を食べ――」
「すっごくいいですね、それっ!!」
「あ、燃えますよ、髪」
素晴らしい提案に心が沸き立つカナコに、大倉の手が伸びた。彼はカナコの髪を固形燃料に触れないよう、そっと押さえる。
「す、すみません、ありがとうございます」
思わずビクッと体が震えてしまったカナコは、目を泳がせて礼をつぶやく。




