9雨の日はおうちで(2)
「な、なぜ……、大倉さんのお部屋に……?」
カナコは落としそうになったスマホを慌てて掴み、一度天井を見上げた。
雨で部屋が薄暗いため、明かりが点いているシーリングライトの眩しさに顔をしかめる。
「……いや、落ち着いて。私は彼より五歳も年上なんだから、ここは大人の余裕を見せないと。そもそも理由を聞いてないんだし、余計なこと考えないの……!」
すうはぁと深呼吸したカナコは、返信内容をタップする。
「大倉さんのお部屋に雨の日のヒントがあるんですね? ……と。なんか変な返信だったかな……」
追いメッセージしようかと迷った時、返信が来た。
『実は今日、同僚とウチで実験するはずだったんですが、体調を崩して来られなくなってしまって。その実験が、渋谷さんの答えになりそうなのでお誘いしました』
「実験? 同僚ということはアウトドアメーカーの人なのよね? いったい何をするんだろう?」
カナコはこわごわメッセージを返す。
『実験というと、なんとなく怖いんですが……』
『いや、昼飯を作る実験なので怖いことはないです。焼き肉はお好きですか?』
「行きます、と」
思わず即レスしてしまったカナコに、大倉からウサギのキャラが爆笑しているスタンプが送られてきた。
『では12時半頃にいらしてください。飲み物もありますので手ぶらで大丈夫ですよ』
『ありがとうございます。よろしくお願いします』
カナコが返信をし、そこでやり取りは終わった。
「また手ぶらでいいとは言われてものの、前回もお世話になったんだし、お礼がてら何か持って行こう」
お昼まで二時間はある。
「浅漬けを仕込んで……、食後のデザートを買いに行って……よし、間に合う」
カナコは立ち上がり、急いでキッチンに向かった。
ピンポンとインターホンを鳴らすと、ドタバタという音が聞こえて、すぐに扉が開いた。
「はいっ!」
「こ、こんにちは」
インターホンに出ずに直接ドアから登場した大倉の勢いに、カナコは少々たじろぐ。
「こんにちは。なんか急にお誘いしちゃって、すみません……」
今の勢いはどこへやら、大倉は申し訳なさそうに目を泳がせた。
「いえ、そんなこと……! こちらがご相談させていただいたんですから。実験、楽しみです」
カナコは緊張している胸中を隠し、ここでもまた「大人の余裕」を前面に押し出すため、笑顔で答えた。
「実験、楽しみにしてくれたんですね。どうぞ、散らかっていますが」
「お邪魔します」
ホッとした顔を見せた大倉の後をついて、玄関に上がる。
(あ、ウチとは違う匂いがする……)
意識しないようにしていたのに、大人の余裕はどこかへ行ってしまい、カナコの心臓が急にドキドキと大きな音を立て始めた。
「私のお部屋と反転しているんですね」
カナコは案内された洗面所で手を洗いながら、後ろにいる大倉に問いかけた。
「あ、そうだったんですか。じゃあこの裏側に、渋谷さんの部屋の洗面所があるんですかね?」
「たぶんそうだと思います。キッチンも反対にあるので。ここは角部屋だから、雨でも明るいですね」
キッチンに窓があるだけで、こうも違うのかと驚く。
「そこが気に入って借りたんです。ただ、夏は日差しがきついのと、冬は窓がたくさんあるので寒いですけどね」
苦笑する大倉と鏡越しに目が合い、カナコも笑った。




