8もっと教えて(2)
「お、思いませんし、嫌いませんよ! 私が大倉さんを師匠としてお願いしているんですから」
カナコが言うと、彼はホッとしたような横顔を見せる。
「じゃあ、渋谷さんに恥ずかしい思いをさせないように、俺、師匠として頑張ります。渋谷さんが聞いてきたことに何でも答えられるように、これまで以上に勉強します」
「あの、負担じゃないですか? 真剣に言ってくださるのは嬉しいんですが……」
「負担だったらその場で断ります。俺、無理なことは引き受けないんで」
淡々と答える大倉の声を聞いて、彼はたぶんそうだろうなと妙に納得してしまった。
「じゃあよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。あ、渋谷さんの下の名前、聞いてもいいでしょうか?」
なんてことない質問なのにドキッとした。下の名前を聞かれることなんて久しぶりだからだろう。
「カナコ、です。カタカナでカナコ」
「……渋谷カナコさん。覚えました」
「大倉凪沙、師匠」
カナコも大倉の名前をつぶやくと、彼が驚いた声で言う。
「フルネーム覚えてくれてたんですね。ありがとうございます」
「綺麗な名前で印象的だったので、名刺を見てすぐに覚えました」
「綺麗ですかね? でも……、師匠を付けるとクソダサいですよね、はははっ」
「そんなことないですよ」
と言いつつ、カナコも大倉の笑いに誘われて一緒に笑ってしまった。
「あーーっ!」
笑い声から一変、大倉が大声を上げた。
「ど、どうしました!?」
「めんつゆ使うの忘れました! 俺、そば茹でてきたのに~!」
「あ、そういえば、めんつゆって言ってましたね」
「アイスコーヒーとバニラアイスに浮かれて、すっかり忘れてました。……夕飯に食います」
「ふ、くくっ」
「笑いましたね?」
「ごめんなさい、だって大倉さん、すごくしっかりした感じなのに、意外で……ふふっ」
「しっかりしたように見せたかったのに、悔しいなぁ~」
大倉もカナコと一緒に声を上げて笑った。
こんなにも頼もしい師匠がいるなら、この先は明るい。
カナコは大倉の隣で笑いながら、これからのピクニックについて思いを巡らせ始めた。




