5初夏の鴨葱そば(3)
大倉にメッセージを送ったあと、カナコはおやつの団子を手にした。
乗り継ぎ駅の駅ビルで購入した、和菓子屋のお団子である。
「こしあんの美しいこと……! ではいただきま――」
大きな口を開けた時、スマホに通知が届いた。
「えっ、大倉さん? 返信はやっ!」
彼のSNSには万単位のフォロワーがいる。
だからカナコのDMなど後回しになって、返信が来たとしても数日後になるだろうと思っていたのだ。
「とりあえずひとくち食べよう」
四つあるうちのひとつめを、ぱくりと口に入れた。
ねっとりした団子と、上品な味のこしあんが、口の中で優しく混ざり合う。
「ほんのりした甘さがちょうどいい……。言うことなしです……」
などと、浸っている場合ではなかった。
「ええと……、ええっ!? ちょ、ちょっと待ってよ」
左手にお団子を、右手でスマホを眺めていたカナコは、大倉からのメッセージに動揺して、どちらも落としそうになった。
大倉のメッセージをもう一度読み返す。
『渋谷さん、ご連絡をありがとうございます。俺が開発に携わった商品で良さそうな物があります。他にもおすすめの水筒やジャーがたくさんあるので、ぜひ試していただきたいのですが、もしお時間があれば、今度一緒にピクニックへ行きませんか? そこで実際に商品を使って、良さを知ってくださればと思います』
「い、一緒に!? ピクニックするの!? って……うわっ!」
大倉から追加でメッセージが来た。
『今、千葉でキャンプをした帰りなので、お返事いただけた際は返信が遅れます。申し訳ありませんが、必ず返信しますのでお待ちいただければと思います』
「……ぷっ」
カナコは笑いがこみ上げて吹き出してしまった。
あまりにも丁寧、あまりにも業務的な彼の言葉に、行ってみようかという気にさせられたのである。
馴れ馴れしい言葉使いだったり、売りたい物のURLを並べてきたりしたら、そんな気持ちにはならなかっただろう。
さらに現在キャンプ帰りという、本当にアウトドアが好きなのだとわかったことも、カナコを安心させた。
「ピクニックはいつでも構いませんので、ぜひお願いします。そのオススメを使って飲み物や汁物を持って行きたいので、お時間があるときに取りに行かせてください、と」
カナコが返信をすると、すぐにまた返信が来た。
移動中ということだったが、どこかで休憩している最中なのだろうか?
『いえ、俺が作った料理や飲み物を入れていきますので、渋谷さんは何も準備しなくていいです。シートやその他のギアも俺が持って行きますので。では、また後ほど連絡しますね』
「え、え、え……。手ぶらでいいの? そんなのって最高じゃん……」
大倉からの提案を受けて、カナコの顔がニヤけるが、その笑みも一瞬で消えた。
「……いや、手ぶらということは、水筒に限らず大倉さんが持ってきた道具をすべてオススメされる可能性があるわけで……」
また眉間に皺が寄っていることに気づいたカナコは、スマホから顔を上げてふーと深呼吸した。
濃い緑の葉が美しく、蝶が舞い、足元にはアリがチョコチョコと歩いて、鳥が鳴いている。
そんな自然の豊かさを前にすると、自分のちっぽけな悩みが心底バカバカしくなった。
「ま、オススメされたらそれはそれでいいじゃない。とにかく新しい世界に飛び込むんだもの。私よりずっと詳しい大倉さんに頼るのが正解、でしょ?」
カナコは「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお願いします」と返信し、食べかけのお団子を口に入れた。




