4おにぎりとウィンナーとブロッコリーと卵焼き(3)
「お取り寄せをした日本海の粗塩が、冷めたごはんにちょうどいい塩味を残している。もちもちと、しかし口の中でパラリとほどけていくお米。そこから現われる香ばしく焼けたたらこが、ぷちぷち弾けて私を幸せにしてくれる……!」
味わいながらため息をついた後で、お箸で皮なしウィンナーをつまむ。
ここはチラッと動画を撮った。食べているところを撮るのも重要だろう。
「なんて可愛らしいの。幼稚園、小学校のお弁当の定番と言っても過言ではない、柔らかなウィンナー。タコさんにしてもよし、斜めに飾りをいれてもよし。そして味はもちろん……っ!」
パクンと口に入れて、柔らかなウィンナーをもぐもぐする。
「おいしーっ! 黒こしょうが効いてる!」
そしておにぎりを頬張った。卵焼きとブロッコリーのサラダも食べる。合間に熱いお茶を啜る。
周りの人たちの楽しそうな声、木の上にいる小鳥たちのさえずり、先週よりも暖かな春の陽気、そして美味しいお弁当。
何度も思うが、これぞ至福の時間と言っていいだろう。
今日は気温がだいぶ上がっていて、半袖を着ている人もいるくらいだ。
光りがまばゆく、暖かく、みんな楽しげで、カナコのお腹は満たされている。
(こんな幸せがあったなんてね。ああ、食後に食べる和菓子も買っておけば良かったなぁ)
足を伸ばしてぼんやりしているカナコのそばに、タタタッという小さな足音が届いた。
「これあげるっ!」
「えっ?」
驚いて顔を上げると、小さな男の子が個包装された飴を差し出している。
「はい、どうぞっ!!」
すごい勢いでこちらへ飴を向けるので、カナコはおののきつつも、男の子に尋ねた。
「もらっていいの?」
「うんっ! おいしいよ、あげる!」
「わぁ、すみませんっ! ようちゃんダメだよ、お姉さんビックリしてるよ」
男の子が笑ったのと同時に、お父さんらしき人物が慌てて飛び込んできた。
「すみません。最近、アメをあげるブームが来ちゃってて……」
「いえ――」
「あーげーるの!! はいっ!!」
必死に飴を渡そうとする男の子の表情が可愛くて、カナコは思わず笑って両手を出した。
「ありがとう。嬉しいな」
男の子も満面の笑みを見せて、そうっとカナコの手の上に飴を落とす。
「もらってもいいですか?」
心配そうに様子を見守っていたお父さんに向けて問うと、彼も嬉しそうに笑った。
「ええ、もちろんです。良ければもらってください」
何度もお辞儀をするお父さんに連れられて、男の子は「バイバーイ」と元気に手を振って去って行く。
よく見ると、赤ちゃんを連れたお母さんが、ふたりのことを待っていた。そのお母さんもカナコに遠くからお辞儀をしている。
カナコも笑顔で会釈をし、家族の後ろ姿を遠くなるまで見つめていた。
男の子がくれた飴は、甘酸っぱい苺味だった。
帰路についたカナコは、不思議な満足感を覚えながら歩いていた。
男の子が飴をくれた時、今までのカナコだったら「早く結婚したいな」とか、「私も子どもが欲しいな」とか、「こんなふうに家族で仲良くピクニックをする未来があったかもしれないのに」とか……、いちいち羨ましさや卑屈さが先に出る気持ちになっていたと思う。
でも今日は違った。




