4おにぎりとウィンナーとブロッコリーと卵焼き(1)
「みんな素敵なピクニックしてるのねえ」
カナコは写真がメインのSNSや、ショート動画を見ながら、ぶつぶつとひとりごとを言っていた。
仕事が終わってマンションに帰り、湯船の中で一日の終わりを過ごすのは至福の時だ。
今まではゆっくりのんびりお湯に浸かっているだけだったのだが、最近はこうしてスマホを持ち込み、ピクニックについての研究に余念がない。
「このVlogすごっ!! 何もかも美しすぎる……っ!!」
綺麗な公園を歩いているところから、可愛らしいピクニックシートを敷いて、これまた可愛いお弁当を並べ、フォトジェニックなスイーツを楽しげに頬張っている様子が、短い動画の中に収まっていた。
風景も音楽も美しく、ほうっとため息が漏れてしまう。
しかしカナコはそこで動画を見るのを止め、ペットボトルの水をグイッと飲んだ。
「ま、すごい人と比べても仕方なし。っていうか、私のピクニックの目的はインフルエンサーになることじゃなくて婚活なわけですから、ここまでしなくても大丈夫」
気を取り直したカナコは、再びスマホを手にした。
「次はどんなお弁当を作ろうかな~。どこでピクニックしようかな~。小さい公園はファミリーが多そうだから、大きいところを探そう。この前の公園は最高だったけど……」
お隣のイケメン男子、大倉さんを思い出す。
結局、このマンションで再会した夜から、一度も会ってはいない。
「さすがに同じ公園でまた会うことはないだろうけど、ね」
もう一度行きたいが、それはまた今度にして、別の場所を開拓することにした。
「よし、ここに決ーめた!」
二回目のピクニックは、ゴールデンウィーク前の日曜日。
都内の公園に来てみた。今回は都心にある公園なので、アクセスが良いのが利点だ。
(とはいえ……、前回よりも人が多く感じるから、また恥ずかしくなってきた)
周りはほとんどが若いファミリーばかり。あとは学生のグループが多かった。結構な混み具合なので、年配の人は平日に訪れるのだろう。
(ちょっとリサーチ不足だったかも。もっと奥に行って空いているところを探そう)
芝生の間を縫うように通る歩道を歩いていく。
周りは気になるが、自然の中にいるのは気持ちがいい。新緑が青々と茂り、手入れをされた花々が彩りを添えている。
(一瞬、来たことを後悔しそうになったけど、やっぱりいいな)
カナコは散歩を楽しみながら、比較的空いている場所へ到着することができた。
ちょうど良い大きさの木があったので、木陰に陣を取ることにした。
シートを敷いて靴を脱ぐ。これは前回経験したばかりなので、もう恥ずかしくはない。
「お邪魔します……なーんてね」
割と近くに人はいるが、それぞれ会話を楽しんでいるので、カナコのことなど気に留めていない。ひとりごとをつぶやいても、小声なら大丈夫そうだ。
シートの上に座ったカナコは、トートバッグから水筒とランチバッグを取り出した。
水筒のふたを開けて口に運び、緑茶を飲む。ふんわりとお茶のいい香りが鼻を抜けていった。
「は~~、美味しい……」
周りの風景を堪能しながら人心地つく。
ひとりでいることに多少そわそわするものの、前回よりはずっと落ち着いている。
それにしても、とカナコは思った。




