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1はじめては卵サンド(1)

 卵は、ふたつ使った。


 ひとつは茹でている途中に殻が割れて、中身が少し飛び出したけど、関係ない。どうせ、ぐちゃぐちゃにつぶして、ぐるんぐるんにまぜて、ふわふわに挟んで、口の中に放り込むんだから――。


 と、渋谷(しぶや)カナコはぶつぶつ言いながら、ゆで卵の殻をむき始めた。


「マヨネーズに塩とこしょう。粒マスタードも入れよう」


 大きいフォークでゆで卵をつぶし、マヨネーズと塩こしょう、粒マスタード、そして小瓶に入った乾燥バジルを振る。イタリアンな香りが鼻に届いた。パセリの代用としてバジルを使ってみたのだが、これはこれで美味しそうだ。


 卵をパンに挟み、半分にカットする。


「サンドイッチ用のパンなんて買ったの何年ぶりだろう? うん、いい感じに出来た」


 卵サンドを作り終えたら、スープジャーに熱湯を入れて準備完了。それらをお気に入りのトートバッグに詰め込んだ。


「いざ、でっかい公園へ!」


 なぜ「でっかい公園」なのかというと、人の密集を避けたかったから。



 支度を終えてスプリングコートを羽織る。玄関で靴を履こうとした時、カナコの手が止まった。


 ふと我に返ったのである。


「……やっぱりやめようかな。この歳でひとりピクニックとか、もしも知り合いに見つかったりしたら、恥ずかしすぎてトラウマになりそうじゃない?」


 青空の下、ピクニックシートの上にひとりで座る自分を想像してみる。


 家族連れ、カップル、友だちのグループ、老夫婦……そんな人たちが楽しんでいる中、完全なるおひとりさまピクニックとは――。


「いやっ、いやいやっ、日和るなっ! 私は行くんだ! 婚活に成功するために! そして……あの男を見返してやるためにっ!」


 靴を履き、肩にかけたトートバッグの持ち手をグッと掴む。そしてアパートの部屋を出た。


 四月中旬の土曜日、午前十時過ぎ。

 空は青く、小さな雲がふわふわと浮かんでいる。木々の合間から鳥のさえずりが聞こえ、爽やかな春のそよ風が吹く休日は、ピクニック日和として満点だ。


 しかし今のカナコには、優しげな春の陽気でさえ、胸に痛い。夏でもないのに太陽が眩しすぎると感じるくらいに、心が荒んでいるのだ。


 その原因は一ヶ月前。


 同棲していた彼に、突然フラれたことにあった。


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