インディアンは消えた
俺は踊る。
頭を特大の羽根で飾り、土で化粧を施し、赤く焼いた身体をリズムに乗せる。
手が足が胴が、全身が独特の音楽とリンクし躍動する。
日本の商店街で、だ。
奇異の目が刺さる。
しかし俺のiPhoneは音楽を流し続けたし、彼らの視線は俺のリズムを止める理由にならない。
「インディアン」は消えた。
世界から消された。
差別的で、相応しくないからだ。
そうしてインディアンは、ネイティブアメリカンとなり、ファーストネーションとなり、インディヘナとなった。
ハイダになり、クリーになり、そうして散り散りになって、霧散した。
しかし俺は忘れられなかった。
子供の頃見た、アニメに出てくる「インディアン」たちを。
動物の骨で作った巨大なパイプで如何にも怪しげな煙草をポッカリとふかし、もうもうと燃える焚き火の周りを酩酊しながら脈打つように踊る彼らは、エキゾチックで、奔放で、獰猛で、怪しい魅力を放っていた。
俺はビデオテープが擦り切れるまで、あのシーンを何度も、何度も再生した。テープが壊れる頃には、全てのシーンが鮮明に脳内再生できた。
俺は大人になり、スーツを着て、金を貯めた。いつか、彼らに会いに行こうと思った。
しかし、彼らは消えた。
消えたものに、会いに行くことはできない。永遠に。
気がついたら俺は、肌を焼くようになった。
髪が伸び始めて、部長が眉をひそめた。大ぶりのピアスを開けた頃には、自主退職を迫られていた。それでも俺は止まれなかった。
「ちょっとあなた!!!そんな…!!!この令和に!そんな不謹慎で差別的な恰好で!!!ネイティブアメリカンの方をバカにしているの!?そんな差別が許されるはずがないじゃない!!!!」
激昂した中年女が俺の羽根を毟る。
「こんな不道徳な男を野放しにしておくなんて差別の温床だ!!」
男が俺の身体を抑えつける。
カシャ!!
無数のスマホのシャッター音が残酷に俺を切り取る。
群衆に踏みしめられたiPhoneはとうに音楽を止めていた。
「俺がインディアンだ!!!!」
俺は抑えつけられたまま、咆哮していた。
目の奥に焼き付いた「インディアン」が、ポッカリ、ポッカリと煙草をふかして笑った。




