098:クリスマスパーティーの準備
◇2039年12月@福島県本宮市&猪苗代町 <玉根凜華>
今年のクリスマスは日曜日、イブが土曜日という理想的な組み合わせの為、本番まで残り一週間となった現在、この異国のイベントは既に例年以上の盛り上がりを見せていた。郡山市も福島市も、そして二本松や本宮といった小都市でさえ、街中はカラフルな飾りで彩られ、キラキラした電飾が周囲を明るく照らし出している。
もはや見慣れた巨大ツリーに、トナカイのモニュメント。街角ではサンタコスの若いお姉さんが笑顔でビラをバラ撒き、それを受け取った男達は、揃ってニヤけた顔をする。そんな彼らを視界にも入れず、友達同士で騒ぎながら通り過ぎる女子高生達。堂々と恋人繋ぎの手を見せびらかしながら、颯爽と歩く恋人達……。
そんな浮かれた光景が街の至る所に溢れた夜のまだ早い時間、郡山市の繁華街にある雑居ビルの屋上の端には、薄っすらと光る身体を持つ五人の少女が並んで座っていた。
〈もう、この申し出を最初に受けたのって、真凛さんなんだから、もっと真面目に考えて下さいよ〉
その彼女達、中通りの「ムシ」達五人は、目下、次の週末のクリスマスパーティーで、「ムシ」達が行う出し物の企画を話しているのだ。
〈……何でよー? アタシが出したのだって、ちゃんとした意見じゃん〉
〈あの、「ムシ」になってダンスを披露だなんて、あたし、ぜーったいにやりませんからねっ〉
〈だったら、「ムシ」にならずにやってみたらー? メイド衣装にでもなって踊れば、珠姫の頑固親父だって、メロメロになっちゃうと思うよー〉
〈ふふっ、珠姫ちゃんのメイド姿だと、お遊戯会みたいになっちゃうかもね〉
〈もう、凜華さんまで、酷いです〉
〈でも、真凛、「ムシ」になって踊るとしても、いったい何処でやるつもり? どう考えたって、部屋の中じゃムリなんじゃないの?〉
〈そうですよ、真凛さん。部屋の中なら、翅を出さずにミニマムの光を纏って踊るのも最悪アリでしょうけど……〉
〈それだと、迫力に欠けるんだよねー……となると、屋外かあ。いっそ、猪苗代湖の上でダイナミックに踊ってみよっか?〉
〈却下です!〉
〈何でよー。八人でやったら、カラフルで綺麗になって、ぜーったいに受けると思うよー。湖の上だったら、宙返りだとかのアクロバティックな技だって、いくらでも披露できるじゃん〉〉
〈ふふっ、真凛さんの発想、時々だいだんで面白いです〉
〈あ、郁代ちゃんの発言、久しぶりね〉
〈でも、郁代ちゃんの意見って、意外と鋭い事が多いんですよね。真凛さんと違って……〉
〈だからー、郁代もアタシのアイディア、気に入ってくれてるんじゃん〉
〈まあ、今回はそうみたいですけど〉
〈ええーっ、鈴音ちゃんまで、真凛さんの案に乗っちゃうのー?さっきは却下って言ったじゃん。あたし、人前で踊るの嫌いなんだけどー。今までだって、「ちっちゃいのが、一人だけいる」とか言われてたってのに、「ムシ」になって踊ったりしたら、その差がますます大きくなって、あたしだけちっちゃいのが目立っちゃう……〉
〈珠姫ちゃん、うるさい!〉
〈あはは。郁代の言う通りだよねー。、案外、郁代と珠姫を足して二で割ると、ちょうど良いかもー〉
〈ひっどーい。真凛さん、今度こそ本当に口を利いてあげませんからねっ!〉
〈時々、アタシ、その方が良いって思う事があるんだけどー〉
〈ますます酷いっ!〉
〈それより、凜華。何で「ムシ」になって踊るの、駄目なのー?〉
〈駄目に決まってんじゃない。鈴音ちゃん家の別荘の周りに他の別荘やペンションがあったら、大騒ぎになっちゃうでしょうが。最悪、鈴音ちゃんの別荘が「『ムシ』の館」とか言われちゃったら、どうすんの?〉
〈あ、それなら、たぶん大丈夫だと思います。うちの別荘って、林の中に孤立して立ってるんで、周囲に家とか無いですから〉
とはいえ、せっかく別荘を提供してもらえるんだから、変な噂が立たないように気を付ける必要はありそうだ。
〈分かったわよ。一応、真凛の案で天音さんに相談してみる〉
〈たぶん、「湖畔で『ムシ』になって踊る」っていうよりは、「湖上での空中演舞」って感じになりそうですね〉
〈まあ、そうなるのかな。他は、何かある?〉
〈あの、自己紹介の後、ちょっとだけ「ムシ」になって翅を見てもらったら、盛り上がると思います〉
〈あ、郁代ちゃん。それ、凄く良いかも〉
〈ですよねー。私達の場合、「ムシ」になってみないと、自己紹介にならないですから〉
〈ねえ、鈴音。ひょっとして、アタシも自己紹介やるのー? 郁代と珠姫だけで良いじゃん〉
〈もう、やっぱり、真凛さんですね。初めて参加される郁代ちゃんと珠姫ちゃんのご家族だっているんだから、全員が自己紹介しなきゃ、駄目に決まってるじゃないですか〉
〈あ、そっか〉
という訳で天音への提案は、「『ムシ』になっての湖上での空中演舞」と、「自己紹介の時に、一瞬だけ『ムシ』になる」に決定したのだった。
★★★
今回のクリスマスパーティーの参加メンバーは、総勢二十六名。夏のキャンプの時よりも、二家族分が増えて居る。
福島市から安斎真凛と紺野鈴音の他に、菅野彩佳と咲彩の母子。鈴音の両親は仕事が忙しく、今回も結成である。尚、この四人は、事前の準備を兼ねて前日の午後に移動している。
他に中通りからは、安斎真凛、玉根凜華とその両親、穂積郁代とその両親に妹の桔花、国分珠姫とその両親に妹の姫織、大谷真希と知行の母子が参加予定。尚、凜華の両親は、郁代や珠姫の家族と同じく今回が初参加である。
それ以外の福島県浜通り地方と茨城県からは、矢吹天音とその両親、門馬里香と母親の紀香、樫村沙良とその両親が参加。この地域からの欠席者は無しとなっていた。
以上の他に、「福島ムシ情報サイト」の管理人、関口仁志が今回も参加する。当初、彼は拒んでいたそうなのだが、天音が「一緒の車で行きましょう」と強引に誘ったようだ。本人が自覚しているかは疑問だけど、彼女は紛れもない金髪色白の美少女。その天音に誘われたら、陰キャ男子高校生の関口なんかに、断り切れる筈がない。
更に、この別荘には、管理人の小椋夫婦が住み込みで働いており、その彼らにも色々と手伝って頂く事になっている。
当初、鈴音の両親からは、もっと多くの使用人やコンパニオンを派遣する申し出があったのだが、彩佳の方で断ったそうだ。理由は、「ムシ」に関する情報の流出を最小限に抑える為。管理人の小椋夫妻に関しては、古くから紺野家に仕えてくれており、決して情報を漏らさない信頼があるので、問題ないそうだ。
そうして、いよいよパーティー当日の午後となり、前泊組の四人以外のメンバーも次々と紺野家の別荘に集まり出す。そんな中、凜華もまた両親や大谷家の二人と同じミニバンに乗って、その別荘にやって来たのだった。
★★★
ところで、真凛の両親の安斎希美と芳賀力哉についても、一応、彩佳の方から招待状を送ったとの事だが、二人とも不参加の回答だったそうだ。
「欠席で良かったと思うよー。あの人達が来ると、絶対にトラブル起こすに決まってるからさあ」
そんな風に真凛から言われたら、それ以上、凜華は何も言えなくなってしまう。いつもなら、平気で真凛に辛辣な言葉を放つ鈴音でさえ、真凛の両親の事となると常にスルーだ。
「まあ、真凛には、知之がいるもんね」
真凛は知之の前だと大人しいので、凜華は今回も知行を連れて来る事にした。だけど、相変わらず未成年の男子は、彼と関口だけだ。その関口にしても、天音が強引に頼みこんで参加してもらった経緯がある。
『誰か、男の兄弟とかいれば良いのに』と思うのだが、あいにく、郁代も珠姫も妹しかいない。後の六人は一人っ子。案外、「ムシ」は、一人っ子が多い傾向にあるのかもしれない。
そんな事を凜華が考えていると、急に玄関ホールの方が騒がしくなった。どうやら、矢吹天音と関口仁志の一行が到着したようだ。
それで凜華は、いち早く天音に挨拶しようと、急ぎ足で玄関ホールの方へと向かって行った。
END098
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「クリスマスパーティー開始」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
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