表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/116

093:「福島ムシ情報サイト」オフ会(2)

本日の二話目です。

◇2039年12月@福島県郡山市 <関口仁志>


「あの、管理人の立場で言わせて頂きますと、僕は『ムシ』というのを、『人間の少女が後発的に獲得した能力である』という前提で、このサイトを運営して行きたいと思うんです」


そんな風に「福島ムシ情報サイト」の管理人、関口仁志せきぐちひとしが発言した後、社会人で今日の参加者の最年長者である菊地が、すぐに反論を口にした。


「それは、君だけの意見だろ? 僕としては、いろんな意見の人が集まって活発な議論がされる環境にした方が、面白いと思うんだけどね」


菊地の言葉に被せるようにして発言したのは、社会人の横田だった。


「お、良いこと言うねえ。要するにオレも、面白いサイトにしてやりたいとは思ってんだ」

「ですが、その『面白い』の方向性というのがですね……」

「お前らは、もっと女を呼び込みたいって言うんだろ? でもな、オレらが考えてるのは、そういうのとは違うんだな。さっきも言ったけどよ、オレだって、『ムシ』が人間の女の子だって意見には、賛成なんだわ。だけど、何度も言うように、そいつらは化け物だ。化け物は捕まえて、縛り上げて、いたぶってやっても罪にはなんねえ。なにせ、人類の敵だからな……。な、すげえだろ? つまり、女を合法的にいたぶって、犯してやる事ができる。これって、最高にハッピーだと思わねえか? 『ムシ』には、そういう男の夢っていうか、ロマンっていうか、そういうもんがあるって訳よ」


横田は、嗜虐的な笑みを口に浮かべて先を続けた。


「今の所、全部の『ムシ』が女だってのが良いよな。あはは……。オレが想像する未来はだな、女の一定数が思春期ぐらいの年齢になると、『ムシ』に変異できる能力を発現するんだ。そんでな、そうなった女は、もう人間とは認められねえ。要するに、『ムシ』は駆除の対象って事だ。そんでもって、ライセンスとかを入手すると、『ムシ』を自由に駆除する事が認められる。で、そういう連中が、でっけえ網でもって空を飛ぶ『ムシ』を捕まえるんだ。捕まえた『ムシ』は網の中で変異が解けて、ハダカの女に戻る。そんでも、その女は人間じゃねえから、犯して殺しても自由って訳だ。逆に報奨金なんかも出るから、どんどん犯して殺してやるんだ。なあ、オレらにとっちゃ、最高の未来だろ?」

「なるほど、そりゃあ面白い妄想だな」

「あ、菊地さん。もし、そういう未来になった時は、一緒に『ムシ』を捕まえに行きましょうよ」

「いや、あんまりグロいの、僕は駄目なんで遠慮しとくよ」


横田の妄想に厳しいコメントをしたのは、菊地だった。その彼は、自分のコーヒーにブラックのまま口を付けると、関口の方を向いて先を続けた。


「僕はさ、今の段階では、横田さんの考えだってアリだと思うんだよね。だって、考えるのは自由だからさ。まあでも、本当に『ムシ』が人間の女の子だと分かった時点で、もう一度、議論が必要だとは思うけどね。要は、『ムシ』になる事での人類に対する危険性を、どう判断するかって事になるのかな?」

「『人類に対する』ですか?」

「あ、もちろん、社会に対する危険性だってあるよね。だけど、僕は人類に対する危険性の方が重要だって気がしてて……。まあ、それは『ムシ』ってのを人類の進化した姿って捉えた場合なんだけど……、要は、人類が徐々に『ムシ』に置き換わって行くと、従来の人という『種』が絶望するかもって意味だけど……、当然、そうした進化を肯定する考えもあって……って、こういう話は、君らには退屈なのかな?」

「いや、おっしゃる事は分かるんですけど、なんか、捉え所のない話だなって……」

「あはは。まあ、そうだろうね……。僕はさ、昔から古いSF小説とか好きで、色々と読んでたんだ。だから、そういう発想になった訳なんだけど……、まあ、どのみち今の段階では情報が足りなくて、そういう議論をするのだって時期尚早なんだよ。つまりは、今はまだ誰もが、『ムシ』っていう存在に自分なりの思い入れっていうか、夢ってのを語っていられる時期なんじゃないかな」


菊地の話を聞いた感じでは、彼も彼なりの「ムシ」に対しての思いを持っているようだった。だけど、それもまた関口が知る「ムシ」達の実体とは、少々ズレているのは否めない。それは、彼が持つ情報が限られているからでもある訳だが、当面は、矢吹天音やぶきあまね達の事を打ち明けるつもりなど毛頭なかった。

とはいえ、関口は、社会人の意見に押されがちな状況に、内心で焦っていた。


「あの、菊地さんが言われた事は分かりますけど、それでも、サイトに多少の方向性とか最低限の品位とかは必要だと思うんです」

「まあ、成人向けのR18指定のサイトじゃないんだから、最低限の品位は必要だろうね。だけど、それさえ守ってれば、どんな意見でも自由に思ったまま書き込んで良いんじゃないの? そういうのを縛るのって、僕は反対だなあ」


そこで、今まで黙っていた二瓶にへいが唐突に声を上げた。


「あの、僕は、朝香高校三年の二瓶丈晃にへいたけあきって言います。あの、率直に言って僕は菊地さんの、『どんな意見でも、自由に思ったまま書き込んで良い』ってのには、反対です」

「ほう、理由は何だね?」

「本音で言うと、さっきの『「ムシ」が女の子だったら、捕まえて犯しちゃえ』みたいなノリのコメントばかりじゃ、女の子の閲覧者ビューアが逃げちゃうからです」

「あはは、君は正直だね」

「はい。それと、サイトの方向性についても、僕は関口さんの案に賛同します。と言うのは、僕の目的っていうか、朝香高校UFO研究会の目標も、『「ムシ」の子と友達になる』だからです」

「あれ、二瓶さん。うちの目標って、『宇宙人と友達になる』じゃなかったでしたっけ?」

「いや、今、僕が変えた。ついでに、クラブの名称も、『朝香高校UFG研究会』に変更したい」

「えっ、ひょっとして、そのUFGっていうのは?」

「Gはガール。つまり、『未確認飛行少女』だよ」

「あはは。そのネーミング、良いね。『ムシ』なんかよりもずっと良い」

「早く、その『未確認』ってのが取れると良いなあ」

「僕らが卒業するまでに、取れると良いけどな」

「それで、その女の子と仲良くなるんだよな」

「でもなあ、今の僕らって、『ムシ』逹のパパラッチみたいな事をやってる訳じゃん。本当に友達になれるかどうか分かんないぞ」

「あはは。君達を見てると、アイドルの追っかけみたいだね」

「とにかく、僕らは全員、二瓶さんの意見に賛成です」

「俺も二瓶さんの意見に賛成です」

「あ、オレも賛成させて下さい」


関口の隣で、おずおずと江尻貴志えじりたかし蛭田健吾ひるたけんごが声を上げた。

その直後、中高生組のほとんどがパチパチと拍手を始めた。そして、その音が次第に大きくなって行った時、社会人の横田と鈴木がギーと耳障りな音を立てて席を立ったかと思うと、テーブルに千円札の紙幣を置いて、無言のまま店から出て行った。最近は電子マネーが主流なので、久しぶりに見た紙幣だった。

関口は、咄嗟に彼らを呼び留めようと立ち上がり掛けたものの、江尻に腕を掴まれて思い留まった。

菊地が関口のテーブルに移動して来て、「良かったのかい、彼らを追わなくて?」と訊いてくる。関口は躊躇ためらわずに、「はい。どのみち、あの二人と僕らは相容れませんから」と答えた。


「菊地さんこそ、横田さん達とはお知り合いじゃなかったんですか?」

「いや、この店に早く着いちゃって、入ろうか迷ってたら声を掛けられたんで、ちょっと立ち話しただけだよ」

「なるほど」

「まあ、僕なりに今日のオフ会には期待してて、色々と情報を仕入れたいと思ってたからさ。逆に言うと、それだけなんだ」

「そうですか」


すると、そこにミニスカメイド姿の店員がコーヒーサーバー片手に近付いて来て、お替りを勧めてきた。菊地は、自分の席から空のカップを持って来て、注いでもらっている。どうやら、コーヒーのお替りは、サービスのようだ。

前の席では関口の友人の蛭田が二瓶に、「ここって、メイド喫茶とは違うんですよね?」と訊いている。二瓶の答えは、「違うと思うよ」だった。


「ミニスカメイドの衣装コスは、ここの店長の趣味なんだよ」

「そうなんですね。あ、でも、メイドの恰好した女の子が見られるんなら、オレはメイド喫茶だと思います」

「あはは。確かに、そうかもな。だけど、時々、別の衣装の子もいるんだよなあ」

「あ、あっちの子、ネコミミですよ」

「そうだね。たぶん、あれは彼女の趣味なんじゃないかな」

「えっ、ひょっとして、あの子、二瓶さんの知り合いなんすか?」

「ああ、うちの高校の後輩なんだ。この店、うちの女子には、バイト先として人気でさ。好きにコスプレができるってのも、人気の理由なんだよね。まあ、店長が慕われてるってのが一番の理由ではあるんだけど……」

「なるほど」


関口は、彼らの雑談が終わるのを待って、再び菊地に声を掛けた。


「あの、菊地さん。実は、このサイトを立ち上げた当初、僕も菊地さんと同じように思ってました。僕は、このサイトを利用して、『ムシ』に関する情報を幅広く集めようと思ったんです。特に、『ムシ』が女の子の変身した姿かもしれないって意見が出た時は、それが事実かどうかを、すぐにでも証明したかった……」


関口は、さっきメイド衣装コスの店員が入れてくれたお替りのコーヒーに口を付けてから、その先を続けた。


「だけど、ある日、ふと思ったんです。もちろん、『ムシ』が本当に女の子ってのが前提なんで、妄想って言われたらその通りなんですけど……、僕は、彼女達が置かれた状況って、ひどく危うい事に気付いちゃって……、それで、心配になったっていうか……。ふふっ、おかしいですよね。たとえ、そうだとしても、赤の他人の女の子に、そんなにも思い入れをするなんて……」

「いや、そうは思わないよ。君は、このサイトを立ち上げてから、ずっと彼女達を見守って来た訳だからね」

「そうなんです。あ、それで、そうなると今度は、彼女達に対する世間の人の見方っていうのが気になり出して、色んな立場の人の反応を知りたいと思いまして……。実は、さっきの横田さんみたいな発送をする人だって、一定数はいるだろうって予想もしてました」

「へえ、そうなんだ」

「はい……。だけど、そうした段階は、今日までにします。今日の集まりで、僕は決めました」

「それが、さっき、二瓶君が言ったような方向性の事なのかな?」

「はい。今後、『福島ムシ情報サイト』は、『ムシ』逹のサポーターになろうと思います。僕も、『ムシ』逹とは友達になりたいからです」


関口の発言は、そこにいるメンバー全員が聞いていたようで、再び拍手が起こった。

そして、その拍手が治まり掛けた時、ようやく納得したといった様子で菊地が言った。


「分かったよ。僕も君達を応援しようと思う。と言っても、『ムシ』が本当に人間の女の子かどうか分からない以上、君達の思いが無駄になる事もありうるんだけど……、それを言っても野暮ってもんだよね」


そこで、今度は二瓶が声を上げた。


「あの、菊地さんの目標は『ムシ』の正体を暴く事で、『友達になる』ってのじゃなかったと思うんですけど、そんでも、僕らの活動に賛同してくれるんですか?」

「そうだね。当初の僕の希望からは外れる訳だけど、それはそれで悪くない考えだと思う。だから、今後とも僕は、関口君の運営するこのサイトをフォローして行きたいかな。まあ、君達には期待してるよ」


その後、菊地は関口に名刺を渡してくれた。まだ高校生の関口にとっては、初めてもらう名刺だった。

そして、そこには地上波の地元テレビ局の会社名が記載してあった。


こうして、この日、「福島ムシ情報サイト」は、目的を従来の「ムシ」に関する情報を幅広く集める事から、「『ムシ』逹のサポーターになる事」に変更し、目標を「『ムシ』と友達になる事」と定めた。

もっとも、関口個人としては既に目標を達成している訳だが、当面、それは黙秘である。


その一方で関口は、このオフ会で朝香高校UFO研究会(UFG研究会?)との知己を得る事ができた。

更に、この日の事は来年度、朝香高校UFO研の新入部員となる早坂柊耶はやさかしゅうやと佐々木淳にとっても、大きなターニングポイントとなったのだった。




END093


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「初めてのシジミ」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ