089:福島ムシ情報サイトのやっかい事
◇2039年10月@福島県岩木市 <矢吹天音>
再び、少しだけ日を遡る。「下山田天志からの告白を、矢吹天音がアッサリと断った」という噂が、一気に学校中に広まって日の深夜、久しぶりに彼女は、「福島ムシ情報サイト」の管理人である関口仁志と、スマホで話していた。その日はイライラしていた事もあって、気が付くと天音は、ここ数日の間に起こった下山田との出来事を、あらかた関口にも打ち明けていたのだった。
『それで天音ちゃんは、どうするつもりなんだい?』
「どうもしませんよ。元から学校になんて何にも期待してませんから。少なくとも先生方は、噂が嘘だって分かっておられますから、内申点には影響しません。だったら、別に問題ありませんよ」
『そうかい? それにしては、今日の女神様は、少々ご機嫌斜めに思えるんだけど」
「もう、関口さんまで、そんな風に呼ばないで下さい……。あ、そうだ。今回の噂で、そうやって私の事を女神とか言って茶化す男子もいなくなると思うんで、むしろラッキーだったと思います」
『うーん、その男子達、別に茶化してる訳じゃないと思うんだけどなあ……』
「それより、七人目の『ムシ』の子の情報が、その日のうちにサイトにアップされるなんて、ちょっと早すぎませんか?」
『それだけ、君達が注目されてるって事だと思うよ』
「そうでしょうか? 注目してるのって、蒐集家さんを始めとした一部の閲覧者さんだけだと思うんですけど」
『いや、そうでもないんじゃないかな。最近は、徐々に他のサイトにも「ムシ」の事が載るようになってきてるからね』
「それでも、あまり気持ちの良いもんじゃないですね。四六時中監視されてるみたいで」
『実際、蒐集家さんなんかは、郡山の繁華街とかで毎晩のように待機してると思うんだけどね』
「案外、その辺のタワマンとかに住んでおられる方なのかもしれませんよ」
『有り得るね』
「まあ、写真を撮られるくらいなら良いんですけど、問題はコメントの方ですよ。最近、性的なっていうか、エッチなのが増えてるじゃないですか? 書き込んでる人は冗談だと思ってるのかもしれませんけど、私の妹達って、そういうの苦手そうな女の子ばっかりでして、年齢制限に引っ掛かるような表現は困るんです。それに親達も見てますので、そっちからもクレームが来てまして……、何とかなりませんかね?」
そうなのだ。最近、「福島ムシ情報サイト」に過激というか、エッチな書き込みが増える傾向にあって、天音自身、気分を悪くする事が多々あるのだ。特に、女性蔑視というか、女性をオモチャか何かのように考えていそうな輩には、心底ゾッとするし、強い嫌悪感を覚える。男の人が全員そんなのじゃないと頭では分かっていても、男性不信になったっておかしくないレベルだと思う。
一応、管理人の関口も注意を促してくれており、あまりに酷い書き込みは削除してくれているのだが、なかなか減らないし、次々と新しいのが書き込まれてしまうので、まるでイタチごっこなのが現状だ。
それと問題は、単なる書き込みだけなら良いけど、画像や動画と一体になったコメントの場合だ。それでも、コメントの内容次第では、関口も容赦なく削除してくれているのだが、画像や動画が優れた物であった場合、他の閲覧者達からの批判が相次いで、瞬く間に炎上してしまう。
『……何とか、僕の方から問題ある書き込みをしてる連中とコンタクトが取れれば良いんだけど……、えーと、これは前々から考えてた事なんだけど、一度、オフ会でも提案してみようかと思ってるんだ。僕が「福島ナゾの光情報サイト』という名前で自分のサイトを立ち上げたのが、去年の十一月でさ。来月で一周年だから、それを記念しての開催って事にすれば名目が立つからさ」
「そうですか。私がムシになって半年後なんですね。思えば、その頃は私も独りぼっちで、なーんにも考えずに色々とやらかしてました」
『あはは。そんでも、それが慎重な天音ちゃんで良かったと思うよ。他の子だったら、もっと酷い事になってたんじゃないの?』
「うーん、どうなんでしょう?」
『少なくとも、中通りで最初に「ムシ」になった真凛ちゃんよりは、やらかしが少ない方だったと思うよ』
「彼女、元気ですもんね……。あ、そのオフ会って、私も出た方が良いですか?」
『それは有難い申し出なんだけど、当然、「ムシ」だってのは黙ってるにしても、見合わせてもらった方が良いと思う。万が一、「ムシ」だというのがバレて天音ちゃんの身に危険が及んだりしたら、目も当てられないからさ』
「でも、そんなに簡単にはバレないでしょうし、ただの閲覧者って事だったら良いんじゃ……」
『いや、駄目だと思う。僕のサイトの閲覧者って男性が多い筈だから、女の子ってだけで目立っちゃうと思うんだ。それに、年齢層だって、もっと上だと思うよ』
「そうですか。分かりました。じゃあ、今回は関口さんにお任せしますね。宜しくお願いします」
『分かった。頑張ってみるよ。と言っても、すぐにって訳には行かないから、まずは準備からだな。やっぱり、何とか蒐集家さんとコンタクトを取らないと……』
という訳で、関口仁志との通話を切った天音は、この夜も「福島ムシ情報サイト」への投稿を丁寧にチェックしてから、夜遅くに眠りについた。
★★★
そうこうするうちに暦は十一月になり、天音が住むアパートの周囲にある銀杏の葉も黄色くなった。
中学での天音の評判は相変わらず「不良のヤンキー娘」といった扱いで、教室内でも話し掛けてくる子は僅かしかいない。春にクラス替えがされた頃、仲良くなった子達が、人の目を気にしながら時々声を掛けてくれるぐらいだ。
それでも、面と向かって罵倒される事はめったに無いので、天音の日常は平穏と言える。
変わった点と言えば、最近の天音は、体育の授業でも徐々に目立つようになり出した事だ。今までの天音は運動が苦手だったのだが、「ムシ」になって以来、少しずつ体力が向上しているようなのだ。長距離走とかは、軽く走っているだけでも、気が付くと集団の戦闘を走っていたりする。最近やったバスケでは、スリーポイントを何本も入れた上に、相手チームのボールを奪ってのドリブルシュートだって決められた。
「私、矢吹さんって、運動は苦手だと思ってたんだけど……」
「あの子、前は地味な子だったから、ワザと目立たなくしてただけなんじゃない?」
「そういや、そうかも……。でも、そうなると、あの子に欠点とか無くなっちゃわない?」
「あるじゃん。性格ブスだとか、素行の悪さだとか……」
「それって、下山田くんのグループが言いふらしてるだけなんじゃない? 私、矢吹さんが人に意地悪したり、乱暴な口を利いたりしてるの、見た事ないよ」
「そういや、そうかも」
そんな感じで、女子の一部では天音に好意的な子も増えつつあるのだが、大半は下山田グループの報復とかを恐れてか、やっぱり話しかけて来ない。だから天音の近くは、いつだって静かなのだった。
★★★
〈ねえ、天音さん。昨日、ムシサイトにあった、「モクレン」と「ブルー」のイラスト、酷いと思いません?〉
そう言って口を尖らせているのは、樫村沙良。つまり、白い翅を持つ「モクレン」の方だ。一方の「ブルー」は、門馬里香の事である。彼女達に天音を加えた三人は、タダで湯本温泉のとある露天風呂に浸かりながら心話で話していた。
尚、最近、「ムシ」達の間では、「福島ムシ情報サイト」の事を、省略して「ムシサイト」と呼ぶ事が多い。
〈そっかなあ。意外と可愛く描けてると思ったんだけどなあ〉
〈それは同意ですけど、ハダカだったじゃないですかあ。私、里香さんとハダカで抱き合ったりしたくないですし、ファーストキッスは男の子が良いです〉
〈ふふっ、里香ちゃんったら、フラれちゃったね〉
〈あのね、天音さん。私だって、百合っ気は皆無ですから。まあ、沙良ちゃんは嫌いじゃないけど〉
三人の話題に上がっているイラストそは、ハダカの女の子二人が、両膝をついた形で抱き合ってキスしている物で、その二人の背中には、それぞれ白と青のチョウの翅が生えていた。
ただし、イラストそのものは秀逸で、決して嫌らしい感じではない。だから、関口に削除されなかった訳だが、問題は、それに対するコメントである。そのほとんどが卑猥で、とても読む気にならない物ばかり……。いくら関口が削除しても、どんどんと増える一方なのだ。
〈でも、エッチなコメントだけは、何とかして欲しいよねえ……〉
天音の呟きに沙良も里香も一様に頷いて、それぞれに顔を見合わせては深く溜め息を吐いたのだった。
END089
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「真凛についてのあれこれ」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
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