080: 夏休みのあれこれ
◇2039年8月@福島県岩木市 <矢吹天音>
「ムシ」達全員集合による楽しかった海水浴とキャンプが終わり、それぞれの「ムシ」は自分の家へ帰って行った。
その後も、「ムシ」達は近くの仲間同士で一緒にあちこちを飛び回っては、様々な騒動を引き起こしていたのだが、それでも、この時点ではマスコミとかに大きく取り上げられる事は無かった。
岩木市の矢吹天音の場合、相変わらず茨城県高萩市の樫村沙良と一緒にいる事が多かった。そして、時々は南相馬市の門馬里香が二人に加わって、岩木駅前の繁華街や新たに整備された城山周辺を中心に、空からの散策を楽しんだ。
三人とも「ムシ」になる事が親達の公認となった為、「危険な行為はしない事」や「他の人に迷惑を掛けない事」を条件に、自由に夜空を飛び回れるようになった。もっとも、以前よりも飛行時間が増えて睡眠時間が減ったのを知った親達が話し合って、「勉学に支障をきたさない事」を追加の条件とするのを了承させられた。
ところが、「ムシ」になった事は知能にも影響を与えていたようで、「私、頭が良くなったみたい」といった感想が天音の所に多く寄せられている。ただし、まだムシになって間もないメンバーが多い事から、具体的な成果が上がっているのは郡山の玉根凜華と天音だけ。と言っても、この二人は元から成績が良いので、本当の所は分からない。
問題は二本松市岳温泉の安斎真凛だけど、彼女の場合、本人にやる気が無いのと学校でも色々とトラブルがあるようで、やはり本当の事は分からない。
ところで、こないだ天音が中通りの「ムシ」の子達と会った感想は、『なんか、個性ある子ばっかりだなあ』というもの。天音の場合、今まで人との付き合いが限定的だった事もあって、そんな感想になったのだけど、『案外、私って一番まともなのかな』と密かに自信を持つ事ができたのだった。
★★★
「ムシ」達との海水浴とキャンプを楽しんだ翌週の事、お盆になり、『今年は来ないかも』と思った伯父一家がやって来てしまった。
今でも矢吹家のお墓は天音逹が住むアパートの近くにあり、そこへお参りした際に立ち寄ったとの事だった。
中学の二年生になっても、天音は学年一桁の好成績を維持している。「このまま行けば、地域の一番校である岩木高校合格は間違いない」との、先生方のお墨付きも頂いていた。
そんな状況の中で伯父の勝正は、正月にあんなトラブルがあったにも関わらず、「天音は、商業高校へ進学するんだよな?」と訊いてきた。面倒くさくなった天音は、「一応、普通科に進学するつもりですけど」と、素直に返してしまう。
「はあ? 普通科へ行った方が、就職先が少ないんじゃないのか?」
「別に、就職しようとは思いませんけど」
「家事手伝いって事か?」
「普通に進学するつもりですけど」
「金はどうするんだ?」
「奨学金を貰うつもりです」
「奨学金だけじゃ駄目だろうが。生活費だって掛かるんだぞ」
「アルバイトするつもりです」
「そんなもん、時間の無駄だろう。そもそも、奨学金だって返せるのか?」
「私の勝手なんだから、放っておいて下さい」
そこで母の涼子が堪りかねてか、口を挟んだ。
「はいはい。まだ先の話だから、ゆっくり考えますよ」
「涼子さん。あんた、娘に甘いんじゃないのか?」
今度は、父の正史が口を出す。
「兄さん。こないだも言ったけど、うちの事に口を出さんでもらえるか?」
「何だとお」
いきなり激昂した伯父を、伯母の紘衣が宥めに入った。
「あなた、ここにいても気分が悪くなるだけですから、さっさとお暇しましょうよ」
「そうだな」
そんな風に伯父夫婦は言いたいことだけ言って帰ってくれたのだが、帰り際、アパートの外まで見送った天音に対して、従兄の丈流がキッと睨み付けてきた。天音は軽く肩を竦めていなしてやったのだが、それが逆に反感を買った様子。「お前、生意気なんだよ!」と怒鳴りながら殴り掛かってきたので、サッと光を纏った所、案の定、彼の拳は天音の身体をすり抜けてしまい、バランスを崩した丈流は勢い良く倒れ込む。海水浴の時と同じパターンだが、違っていたのは地面がコンクリートであった事。顔からダイブした為、額を擦り剝いて血が流れ出た。
慌てたのは伯母の紘衣で、天音に向かって「あんたっ、うちの丈流に何したのよっ!」と凄い剣幕で突っ掛かって来る。そこにたまたま現れたのは、意外な事に「福島ムシ情報サイト」の管理人、関口仁志だった。
「あのー、僕、たまたま通り掛かった者ですけど、そっちの子が一方的に殴り掛かったのを、彼女が避けたってだけですよ」
「はあ? あんたには関係ないでしょうが」
「いや、一応、目撃者ですから、これから警察に行って証言しても良いですけど」
「警察なんか行く訳ないでしょうが。他人事に首を突っ込まないでくれる?」
「でも、どう見たって、あんたがそっちの女の子に言いがかりを付けてる感じですよ。それに、そっちの男の子は無防備な彼女にグーで殴り掛かってましたから、傷害事件です。警察沙汰にするのが普通じゃないですか?」
「君、高校生だろ。あんまり生意気な事を言うと……」
「だから、警察に行きましょうよ。こういう時の為に、税金を払ってるんでしょう? 僕、連絡しても良いですか?」
「いや、それはちょっと……」
「だいたい、屋外で大声で怒鳴っているだけでも、警察案件だと思うんですけど……。あの、僕が被害者って事で呼んでも良いんですよ。多少は事情聴取で時間は取られちゃいますけど、まあ、夏休みだし、構いませんよ。呼びますね?」
天音に軽く目配せした関口は、ポケットからスマホを取り出して警察を呼び出そうとする。すると、さすがの伯父の勝正もマズいと思ったのか、「分かった、分かった。悪かったよ。すまん。この通りだ」と言って天音の前で頭を下げると、妻と息子を残してスタスタと車の方へ向かって行く。
伯母の紘衣は息子の額のケガを懸命にハンカチで押さえていたが、単なる擦り傷だったようで、思った程は血が出ていない様子。天音の母の涼子が濡れたタオルを持って来て紘衣に渡した所、それを彼女は奪い取ったかと思うと、丈流の傷を拭い始めた。
「それじゃあ、お義姉さん、我々は失礼します」
父の正史が声を掛けて、天音に戻るように促してきた。天音は何も言わない伯母の紘衣に向かって一礼し、関口にも「ありがとうございました」とお礼を言ってから、アパートへと戻って行った。
★★★
天音は、自室で関口仁志とスマホで話していた。
「さっきは、本当にありがとうございました」
『いやいや、お節介な事しちゃってごめん。本当は、君なら自分で何とか出来たんだろうけど』
「いえ、たぶん面倒な事になっちゃったと思います。てか、あの人達って、いつも滅茶苦茶に面倒な人達なんです」
天音は、伯父の勝正と父の正史との間の確執について、簡単に説明した。
『なるほど、岩木でも古い考えの人はいるからなあ』
「田舎ですもんね」
『そうだね……。でも、そういう人は別に都会にだっているんじゃないかな。要は、自分本位で、他人を貶める事で優位に立とうとしてるんだと思う。だから、本気で『女は大学に行くな!』なんて考えてる訳じゃなくてさ。君が従兄くんより成績が良いから気に食わないってだけなんじゃないかな。まあ、男尊女卑の傾向はあるんだと思う。だけど、その伯父さん、奥さんには頭が上がらなそうだし、結局は相手次第って事だよ」
「なるほど」
『でも、お節介じゃなかったんなら、良かったよ。コンビニでアイスでも買おうと思って家を出たら、君の姿が目に入ってさ。思わず声を掛けちゃったんだ』
「そうだったんですね……」
『あはは、ストーカーされてるって思った?』
「いや、それはないです……。てか、最近の私、その人が言ってる事が本当かどうか分かるっていうか……」
『ふーん。人の心が読めるって事かな? それも、「ムシ」としての能力なのかもしれないね』
「いや、人の心までは読めませんよ。『何となく、そうかも』ってレベルですから」
『それだって、凄いよ。僕も、天音ちゃんの前で変な事は考えないようにしないとだね』
「ふふっ、そういうのは、別に女の子だったら誰だって分かっちゃうと思いますよー」
『えっ、そうなのかい?』
「そうだと思います。ふふっ、女の本能って奴ですね」
そんな事があって、この後、天音は関口と急速に仲良くなって行くのだが、それはまた別の話である。
END080
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、安斎真凛の視点で、「新学期の憂鬱」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。
尚、これから基本一日一話、余裕のあるt気の二話とさせて頂きたく、勝手ながらご理解願います。
★★★
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(ジャンル:パニック)
ハッピーアイランドへようこそ
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