079:「ムシ」達の夜のあれこれ
本日の二話目です。
◇2039年8月@福島県岩木市 <矢吹天音>
六人の「ムシ」達全員と主要な保護者達が集まってのバーベキューの後で行われた「茶髪の子の保護者会」発足に向けた会合も、そろそろ終盤に差し掛かっていた。
今回の司会役の菅野彩佳による会則の説明が終わって採決に移ると、全員が拍手を行い、原案通りの形で可決された。
その後、次回の事が話し合われ、今回のように大勢が揃っての集まりを年末に行う事で合意された。
また、それまでに新しい「ムシ」の子が現れたた場合は、その子の保護者にも積極的にアプローチを行い、入会を勧めて行く旨の方針が事務局から示され、再び、全員の拍手で採決された。
それから、先に菅野紗彩と一緒にお風呂に行ってしまった紺野鈴音を除く五人の「ムシ」が前に並んで、順番に簡単な自己紹介を行った。それが終わると、矢吹天音の音頭で全員が、「これから、宜しくお願いしまーす!」と言って、頭を下げる。すると、またもや拍手が巻き起こった。
その後、その場に天音だけが残って、そこに関口仁志を呼んた。そして、天音から簡単に彼と知り合った経緯とかを説明した後で、彼の方にバトンを渡した。
「あ、あの、天音さんには話したんですけど、ぼ、僕が『福島ムシ情報サイト』を立ち上げたのは、情報を集める為だったんです。その情報ってのは色々とありまして、もちろん、最初は目撃情報だったんですけど、それ以上に今は、えーと、その『ムシ』逹の事を、うちのビューアっていうか、サイトを見ている人達がどう思っているかってのが重要っていうか……」
たどたどしい口調ながらも、関口は懸命に思っている事を打ち明けてくれた。
要は、今の所、「福島ムシ情報サイト」の閲覧者は、「ムシ」達に好意的な人が多いけど、それでも興味本位の人の方が多いと感じている。特に最近は、「ムシ」が若い女の子だといった情報が出回った事から、若い男性が中心になりつつある。
そうなると当然、性的な観点での投稿をする輩も増えてくる訳で、倫理的に問題のある投稿は管理人として削除している。ただし、思想的に敵対する立場の投稿は敢えて残して、サイト上での議論を仕向ける方向で考えている。
そうしている理由は、一般的なビューア視点で、「ムシ」達がどのように見えるのかをウオッチして行きたいからで、今後もそうした視点を大事にして行きたい。
「ですので、あの、僕のサイトは、そういう目で見て頂きたいっていうか……、あ、それと、書き込みをして意見を誘導するとかは大歓迎です。でも、個人情報の漏洩には充分に気を付けて頂きたいのと、あの、自分が「ムシ」の関係者である事も、できれば避けて頂きたいっていうか……、絶対に炎上しますんで……」
最初はたどたどしかった関口の話も、徐々に饒舌になって行った。
「それと、他にAI(人工知能)で、ネット上の「ムシ」関係の書き込みを集めるとかも、個人でできる範囲ですが手掛けていまして、これからも継続して行きたいと思ってます。僕がこういう事をやってるのは、「ムシ」達が増えて世間で認知されて行くに連れて、「ムシ」達をネガティブに見る人達がどんどん増えて行って、中には犯罪行為を働いたりして、「ムシ」の皆さんが危険になるっていうか……、別に怖がってもらいたい訳じゃないですけど、そういったリスクを自覚してもらって、充分に気を付けて欲しいっていうか……」
なかなか終わりそうにないので、そろそろ天音が介入する事にした。
「あ、あの、関口さん」
「あ、はい。何でしょう?」
「あ、ごめんなさい。要するに、これから私達に敵意を向けてくる人達は、どんどんと増えてくるでしょうから、その為の対策が必要という事ですよね。もちろん、その為の対策のひとつが、今日の保護者会の形で実現した訳ですけど、これはほんの第一歩でしかなくて、これからが本番って事だと思います。えーと、すいません。私、『ムシ』の中では一番の年長者って事で適当にまとめちゃいましたけど、宜しかったでしょうか?」
天音としては無理して纏めるつもりじゃなかったのだが、結果としてそうなってしまい、思いがけず拍手を浴びる事になってしまった。
それから天音は、玉根凜華と一緒に考えた「ムシ」達の組織について説明しておいた。
「『ムシは皆、ひとつの家族』ってのは、良いね」
「でしょう? 実は、真凛ちゃんの発案なんです」
「へえ、真凛って、ドジっ子だけじゃないんだ」
「もう、里香ったら、鈴音の真似なんてしなくて良いから」
「そんでも、一応、褒めてるつもりなんだけど」
「ぜーったいに違うと思う」
「もう、真凛ったら、拗ねないでよ」
「そうですよ。同じ福島ファミリーの仲間なんですから」
「うーん、沙良ちゃんが福島ファミリーって言うの、やっぱり違和感があるっていうか……」
「もう、里香ったら、またその話? 沙良ちゃんだけ仲間筈れはダメだってば」
「いや、別に仲間外れとかじゃなくて、名前に違和感があるって意味なんだけど」
「まあ、いつかは別のファミリーにしなきゃだよね」
「天音さん、それって、今じゃないって事ですよね?」
「うん、そうだけど……、でも、鈴音ちゃんがいる所と沙良ちゃんの所じゃ、百二十キロくらい離れてるんだよね」
「私がいる南相馬から沙良ちゃんの所だって、百キロ以上ありますよー」
「そうだよねー。同じ海岸沿いなんだけど……。まあ、暫定『福島ファミリー』って所かな。実際には、凜華ちゃん、真凛ちゃん、鈴音ちゃんでつるんでる訳じゃない。そこに時々、里香ちゃんが加わるって感じでしょう?」
「私の場合、ちょっと頑張れば、岩木にだって行けますよー」
「私も岩木までなら行けますから、天音さんの所で里香さんとも会えると思います」
「てことは、三人ずつのグループって事になるのかもだけど、今はまだ考えなくても良いよね。年末辺りに、また話し合いましょう」
「ムシ」達の間でそんなやり取りがあって、その横では大人達が今後の「ムシ」達の将来についての議論が行われていた。
★★★
「茶髪の子の保護者会」の会合が終わり、〈そろそろ、お風呂に行こうか?〉って話になった時だった。例によって安斎真凛が、〈どうせだったら、どっかの温泉に行こうよ?〉と言い出した。
〈てことは、露天風呂?〉
〈ねえ、この時間だったら、まだ例のでっかい温水プールだって、やってんじゃない?〉
〈確か、夜は十時迄だったかな?〉
〈てことは、まだ八時だから余裕じゃん。行こう行こう!〉
〈あ、こら、真凛ったら、待ちなさい。タオルとか持ってかないとダメでしょうがっ!〉
〈あ、そっか……。それと水着になって行った方が良いね〉
〈えっ、まだ濡れてるじゃん〉
〈すぐに「ムシ」になっちゃえば良いんだよ。そしたら、気持ちが悪いのは一瞬だけだってば〉
とまあ、そんな訳で、天音も嫌々ながら再び水着姿になって夜空に舞い上がったのだが、その後、一分もしないうちに、樫村沙良と門馬里香から声が掛かった。
〈あの、天音さん。うちら五人しかいないんですけど……〉
〈うわっ、鈴音ちゃん、また置いてきちゃった! 絶対に激おこですよ〉
〈戻りましょう〉
天音の一言で、即座に全員でUターン。紗彩を寝かし付けた所だった鈴音を見付けて、まずは平謝り。それから、目的地を言うと、「お風呂に入ったばかりなのに、濡れた水着を着るなんて……」とブツブツ言ってる彼女を更に説き伏せて、何とか準備をさせる。そして、今度こそ某有名な巨大温水プールへと全員で向かった。
問題は何処から入るかだけど、そこは透視能力を持つ真凛頼みでアッサリとクリア。人気のない所から壁抜けして入り込んだ後、まずは流れるプールに突入。この時間は空いていて、昼間にあれだけ遊んだにも関わらず、大はしゃぎで楽しんだ。
その後は外のプールだとか水着で入れるお風呂とかにも行って、最後に、全員で普通の大浴場に浸かって、和気あいあいと心話でのお喋り。結局、閉館のアナウンスに急かされる形で外へ出て、それでも遊び足りない真凛は凜華と里香に任せて、天音は小学生組の鈴音と沙良を連れてキャンプ場のバンガローへと戻った。
ちなみに、その後の真凛達三人は、岩木駅前で大はしゃぎ。とうとうパトカーに追い掛けられるハメになったそうなのだが、海水浴で疲れ果てた天音は、もはや夢の中にいたのだった。
END079
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「夏休みのあれこれ」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
ハッピーアイランドへようこそ
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