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071: 関口との出会い(2)

本日の二話目です。

◇2039年8月@福島県岩木市~高萩市 <矢吹天音>


「福島ムシ情報サイト」の管理人、関口仁志せきぐちひとしとコンビニで別れた後、矢吹天音やぶきあまねは、一昨日おとついの花火大会の時に負けず劣らずのハイテンションな気分でいた。三つ年上とはいえ、関口は割と同世代の男子。初めて会う男子と、あんな風に親しげに話し込んだりしたんだから当然だ。以前よりはマシになったとはいえ、本来、天音は陰キャの女子なのだ。

だけど、決して嫌な気分じゃない。むしろ、『私だって、やれば出来る女なのよ』とか思って、結構、調子に乗ってたりする。傍目はためから見ると典型的なチョロい子なのだが、本人は全く気付いてさえいない。

自室に戻った天音は、ハイテンションなままの状態で、郡山の玉根凜華たまねりんかに電話した。もちろん、「今の気分を誰かに話して分かち合いたい!」といった思いからの行為である。


凜華は、天音よりも一学年下ではあるけれど、しっかりした性格で頭も良い。今の「ムシ」の仲間達の中では、一番に信頼できる存在なのだ。

そうして天音は、関口と会って話した内容を、勢い込んで事細かに話したのだが……。


『ふーん。まあ、もっともな内容っていうか、特に目新しい所は無いって感じでしょうか?』

「えっ、何かそっけない反応なんだけど」

『いや、そんな事ないですよ。あの「福島ムシ情報サイト」の管理人さんと知り合えたのは、僥倖だと思います。ふふっ、まさか天音さんのご近所のお兄さんだっただなんて、ほんと、灯台下暗とうだいもとくらしって奴ですね……。で、この後、天音さんは、その関口さんをどうされるおつもりですか?』

「どうするって……、別に何も考えてないんだけど……」

『そんな事ないでしょう。その関口さんを丸め込んで、「福島ムシ情報サイト」のヘビービューア逹をうちの味方っていうか、親衛隊にするとか、その親衛隊を使って、うちらにとって好ましい方向に世間を誘導するとか、色々とあるじゃないですか』

「いやいや、そんな大それたこと私は考えて無いから。てか、あのサイト、そんな力なんて持って無いから」

『それは、「今の段階は」って事でしょう? これから「ムシ」の子はどんどんと増えて行くんです。その「ムシ」達の存在にいち早く気付いて、それを世間に知らしめるサイトを立ち上げたってだけで、もの凄く将来性があると思いますよ』

「そうかなあ。私は、大袈裟だと思うんだけど……」

『もう、天音さんが、それ言います? 三月に私が天音さんの所に行った時の天音さん、もっと大袈裟な事をペラペラと喋ってたと思うんだけど……』

「そ、それは、あん時の私が少々ハイになってたっていうか、黒歴史っていうか……」

『まあ、別に良いですけど……、そんなことよりも、天音さん、その関口さんの彼女さんになっちゃって下さいよ』

「ええーっ! 何なの、そのとんでもない思い付き……」

『単なる思い付きじゃないですよ。その関口って人を、うちらの側に確実に繋ぎ留めておくには、まさに最適な戦術だと思いますけどね』


そこで凜華は、天音に不敵な笑みを向けた。その時の天音と凜華は、お互いのカメラ画像込みでの通話をしていたのだ。


『それにですね、さっきの話し方からすると、天音さんだって、関口さんの事、相当に気に入ってるんじゃないですか?』

「うっ?」

『やっぱり……』

「ひょっ、ひょっとして凜華ちゃん、私にカマ掛けた?」

『いやいや、最初から見え見えだったじゃないですか?』

「……そ、そうなの?」


ここで天音は、初めてハイな自分に気付いて急に羞恥を覚えたりしたのだが……。


『まあでも、今は天音さんの気持ちなんて、二の次だと思いますよ』

「ちょっ、ちょっと、私の気持ちが二の次って、どういう事よ?」

『うちら「ムシ」達の未来の為に、その関口さん、ちゃんと捕まえちゃって下さいって事です』


凜華のことは前々から発想力も行動力のある子だと思っていたけど、これ程とは……。うーん、凜華ちゃん、恐ろしい子。


『まあ、冗談はさておき……』

「えっ、全部、冗談だったの?」

『いやいや、天音さんが関口さんに気があるってのは、本当の事ですよね?』

「うっ……」

『まあ、その話を蒸し返すのは止めておきます。それより、海水浴の話ですよ』

「えっ、海水浴?」

『さっき、関口さんから、岩木での海水浴のご提案があったって言ってたでしょうが』

「そう言えば、そうだったわね」

『その海水浴のアイディア、名案だと思うんです。前々から真凛まりんとかは岩木の海に来たがってましたし、私としても、ようやく天音さんに真凛を引き合わせる事が出来る訳ですよ。それに、一緒に海で遊ぶってのは、「ムシ」達のチームワークっていうか、結束を強める上で有効だと思うんです』

「なるほど」

『で、海水浴の後は、バーベキューでもやってですね。夜は露天風呂ってなる訳ですよ……』

「えっ、お風呂なの?」

『当然です。ハダカの付き合いは大切ですから』

「そうかなあ? なんか、真凛ちゃんに毒されてない?」

『まあ、それはさておきですね……』

「あ、また誤魔化した」

『もう、ちゃんと聞いて下さいよー。岩木まで泊まりで来るとなったら、当然、親達を巻き込まなきゃなんない訳ですよ。つまり、保護者同伴って訳です』

「そっか、そこで一気に保護者会の設立に持ち込む訳ね?」

『はい。もちろん、事前に根回しは必要だと思いますけどね。そこら辺は、むしろ親同士でやってもらいましょうか?』


ちなみに、凜華は幼馴染の大谷知行(ともゆき)にカミングアウトした後、彼を安斎真凛に引き合わせた事で、真凛が知行の部屋を度々訪れるようになり、その事が知行の母親の大谷真希(まき)にバレてしまった。つまり、こっそりと女子を自分の部屋に連れ込んでいた訳だから、それなりの騒動になったって訳である。

その結果、真凛が二本松市のだけ温泉から来たとの話になり、どうやって知り合ったのかとか、どうやって来たのかといった質問に知行と真凛がしどろもどろの返答をした結果、その二人に共通の親しい知人という事で凜華が呼ばれた。それで、それからも様々なやり取りがあった後、最終的に凜華のカミングアウトに繋がってしまったという事らしい。

更に、大谷家と玉根家とは家族ぐるみの付き合いである事から、大谷真希にカミングアウトしたという事は、当然、凜華の両親にも知られる事になる。と言っても事が事だけに、ちゃんと凜華は両親に対しても、自分の口からきちんと説明して、「ムシ」になった姿を見せたりもしたらしい。


尚、大谷真希は、凜華や真凛が行き来する際に近所で目撃されている「謎の光」の噂を知っており、しかも一番良く目撃されているのが、大谷家と玉根家の周辺である事にも気付いていたとの事。要するに凜華が「ムシ」である事は、遅かれ早かれバレていたという事らしい。


『……とにかく、今日で八月に入っちゃいましたからね。関口さんのアイディアを実現するには、早急に動く必要があるんです。分かりますよね?』

「まあ、そうだね」


凜華が言う通りだ。岩木の夏は短い。お盆を過ぎると涼しくなって、すぐに海水浴という感じじゃなくなってしまうのだ。


『で、天音さんの場合は、その前に早急にやっておく事がありますよね?』

「うっ」


さっきから天音は、年下の凜華に押されっ放しだった。


「なんか、今日の凜華ちゃん、ちょっと怖いんだけど……」

『しょうがないでしょう。天音さんが想像以上にヘタレでノロマなんですから』

「うっ、凜華ちゃんの毒舌にやられたあ」

『私なんて、鈴音すずねちゃんに比べたら、全然、可愛いもんですよ』

「鈴音ちゃんって、あの小学生の?」

『他に、どの鈴音ちゃんがいるんです? 私と同じで天音さんも交友関係は、あんまり広くないですよね?』

「確かに」


やはり、福島市の紺野鈴音という事だ。どうやら鈴音は相当な毒舌家で、最近の凜華は彼女の影響を受けているようだ。


『とにかくです。天音さんは、ご両親に今夜にでもカミングアウトしちゃって下さい。そんでもって海水浴の後の宿泊先だけど……、うーん、本当は湯本温泉辺りが良いんでしょうけど、今からじゃ予約が大変だろうし、お金も必要になっちゃうしなあ……』

「うちが広かったら良いんだけど、アパートだもんね。あ、そうだ。キャンプ場とかどうかな?」

『うーん、そっちも混んでるとは思うけど、温泉よりはましでしょうかね。天音さん、どっか知ってるとこってあります?』

「……ない」

『でしょうね。じゃあ、私から真希さんと彩佳あやかさんに言って、そっちの方で当たってもらいます』

「あのー、彩佳さんというのは?」

『鈴音ちゃんの叔母さんの菅野彩佳さんです。彼女、ご両親が凄く忙しいらしくて、彩佳さんが実質的な保護者みたいな感じなんです』

「そうなんだ……」


そこで凜華は、またもや急に何かを思いついたように、『あ、そうだ』と呟いてから、再び話し出した。


『さっき、言い忘れてましたけど、私が海水浴を勧めたのには、もうひとつ理由があるんです。えーと、関口さんでしたっけ? その人に天音さんの水着姿を披露する事なんですけど……』

「何それ?」

『だから、ちゃんと可愛い水着を用意してくださいね』

「そうは言っても、私、あんまりお小遣いが残ってないんだけど……」

『あの、まさか、スクール水着で良いだなんて思ってないですよね……。いや、待てよ。ひょっとして、そっちの方が良いのかも……』


急に凜華が悪戯っ子の顔で、何やら考え込んでしまった。


『まあ、良いや。スクール水着でも良いですから、ちゃんと関口さんにも声を掛けてくださいね。あ、でも、その前に天音さんのご両親へのカミングアウトですからね。宜しくお願いしますよ』


もう一度、しっかりと念押しされた後で、アッサリと凜華に通話を着られてしまったのだった。




END071



ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「沙良のカミングアウト」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

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