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069: 花火大会

本日の二話目です。

◇2039年7月@福島県岩木市 <矢吹天音>


七月の終わりに福島県岩木市小名浜地区で行われる花火大会は、自ら東北最大と名乗る程の伝統ある行事である。それが本当に東北最大なのかは定かではないが、それなりの人が集まる事は間違いない。


さて、途中で休憩を挟みながら花火大会の会場となる小名浜港へ辿り着いた、矢吹天音やぶきあまね樫村沙良かしむらさらの二人は、大きな爆音と共に咲く豪快な花火の美しさに、たちどころに魅了された。それらの花火は海上の三ヶ所から次々と打ち上げられており、巨大な「光のチョウ」となった二人は、色とりどりの花火の間を縫って思いのままに飛び回った。それは単に美しさを愛でるだけでなく、相当なスリルを伴う行為だった。

そんな二人は、地上にいる大勢の観客の注目の的となっているのだが、そんな事など全くお構いなしに、二人の少女は夜空を大はしゃぎで楽しんでいたのだった。


とはいえ、地上から見た二人の姿は、単なる光の点にしか見えない。それが時折り翅のような形態を取ろうとも、花火の演出のひとつと思われただろうし、ましてや、人の形をした胴体部分など、余程の高性能なカメラでしか見分けられる筈がない。

それでも分かる人には分かるもので、複数の「福島ムシ情報サイト」の閲覧者ビューアに目撃されていたりするのだが、それはもう少し後の話となる。


〈天音さん、花火って上から見ても花火なんですね〉

〈ふふっ、うははは……、それっておっかしいでしょう。花火は花火に決まってるじゃない〉

〈もう、そんなに笑わないで下さいよお。花火って上から見ても下から見ても、おんなじだなって意味なんですってばあ〉

〈確かに、どの方角から見ても、おんなじように綺麗なんだよね。まあ、当然なんだけどね。球体なんだからさ〉

〈でも、一番に凄いのって、この距離で見れることですよ。うっわあ、もうちょっとで直撃される所だったあ!〉

〈もう、気を付けなよ。たぶん大丈夫だと思うけど、花火の音とかで気を失ったりしたら、変異が解けて墜落しちゃうんだからね〉

〈えっ、そうなんですか?〉

〈そうよ。そういうバカな子が前にいたんだけど……〉

〈分かった。それって、真凛まりんさんじゃないですか? ふふっ、真凛さんって、面白い人ですよね?〉

〈うーん、どうなんだろう……〉

〈あれっ、天音さん、どうしたんです? あ、ひょっとして、変異が解けて墜落しちゃったのって、天音さんだったりして……えっ、マジですかあ?〉


天音は渋々ながら、去年の花火大会での自分の失敗談を、沙良に簡単に語ってやった。


〈へえ、天音さんでも、失敗しちゃう事があるんですね?〉

〈まあね。その頃は、まだ色々と知らない事が多かったし……。ああ、あの時は本当に危なかったわ〉

〈そうなんですか? てか、変異が解けちゃったら、どうなるんです?〉

〈そんなの、落っこちちゃうに決まってるじゃない〉

〈ええーっ、落ちるって、海にですかあ?〉

〈海の方が、ずーっとマシでしょうが。もし下が地面だったりしたら、最悪、即死もありうるんだからねっ〉

〈ひえーっ、それは嫌だあ!〉

〈だーかーらー、気を付けなさいってばあ〉

〈わ、分かりましたあ。「できるだけ、海の上を飛びましょう」って事ですよね?〉

〈ちがーう。気を失ったりしちゃダメって事だってばあ!〉

〈あ、そうでしたあ。えへっ、そもそも私って、泳ぐの苦手なんですよねえ……あ、天音さん、危ないっ!〉


その時、下から打ち上って来た尺玉の花火が天音のすぐ傍ではじけたのだ。一瞬、天音は気が遠くなりそうになりながらも、何とか耐えた。すると、全身に無数の火の粉が降り掛かる。


〈ほら、平気でしょう? 「ムシ」になった時の身体からだには、実体が無いんだもの。大切なのは、大きな音に驚いたりして気を失ったりしない事〉

〈了解でーす! でも、これって、なんか戦場の中にいるって感じですよねえ〉

〈えっ、戦場?〉

〈はい。なんか、VR(バーチャルリアリティ)ゲームで良くある戦場の風景に似てるなあって思っちゃいまして。ふふっ、スリル満点で最高でーす〉


やっぱり沙良は、相当にやんちゃな子みたいだ。


〈うーん。私、あんまりゲームってやったことないから〉

〈えっ、そうなんですかあ? 天音さんのお母さん、厳しい人なんですねえ〉

〈うーん、ガミガミとうるさいとは思うんだけど……〉


本当は、お金に余裕が無いからなんだけど、そういう事は言わないでおく。

天音は、話題を変える事にした。


〈それより、沙良ちゃん。そろそろ地上に降りて、何か食べよっか? まだ時間は大丈夫なんでしょう?〉

〈あ、はい。うちの両親、うちらが日立市の花火大会に来てるって思ってますから、ちゃんと送り返してもらえれば多少は遅くなっても大丈夫です〉

〈分かったわ。でも、少し早めに帰りましょうね〉

〈はい。だけど、何処どこに降りましょうか?〉

〈そうねえ……。あの倉庫の裏とかどうかな? 誰もいなさそうだし……〉


そうして急降下する二人の「ムシ」の姿を、じっと地上で見ている男子高校生がいた。「福島ムシ情報サイト」を主催している関口仁志せきぐちひとしである。

この時、高校二年だった彼は、一人で花火を見に来ていたのだ。と言っても、本当の目的は「ムシ」を見る為である。つまり、彼には確信があったって訳だ。


それはさておき、倉庫の裏に降り立った天音と沙良の二人は、特に周囲を警戒する事もなく歩き出した。

この時の天音は、水色のワンピに赤いカーディガン。沙良の方は、デニムのショートパンツにタンクトップで、その上に白いウィンドブレーカーを羽織っている。

二人は、あくまで普通を装って会話しながら歩き出した。


「ねえ、何食べる?」

「私、タコ焼き食べたいです」

「分かった。今夜は少し肌寒いから、ちょうど良いかもね。あとは……、あ、あそこにチョコバナナあるけど、食べる?」

「あ、はい。でも、私、今日は、あんまりお金は持ってなくて……」

「大丈夫。私が奢るから」


そうして二人は、人混みのある方へ向かって行く。そこには無数の屋台が並んでいて、すぐに彼女達は目的の物を見付ける事が出来た。

恐らく始まったばかりの頃はもっと人が多かったのだろうけど、この頃になるとあちこちに隙間が出来ていたりする。そんな隙間が芝生の上にあるのを目敏く見付けた沙良が、「あそこにしましょう」と言って天音を手招きした。

その沙良は、パーカーのポケットから折り畳まれたビニールシートを取り出すと、それを敷いて天音に座るように促してくれる。天音は「ありがとう」と言って、沙良と並んで腰を下ろす。そして、二人して屋台でゲットしたタコ焼きとチョコバナナを食べ出した。


やがて、花火が終わりそうなのを見計らって、天音と沙良は早めに席を立つ。そして、さっきの倉庫の裏手に行ってみると、現れたのは不良っぽい男の子達……。


「ちぇっ、ガキじゃねえかよ」

「あれ? そういう子の方が兄貴の好みだと思ったんですが……」

「あのなあ、冗談でも言って良い事と悪い事があるんだぞ。ぶん殴るぞ、てめえ!」

「はいはい、怒んないで下さいよ。それより、こいつら、どうします?」

「どうするも何も、オレはロリコンじゃねえ……うわあ、何だ、こりゃあ?」


当然、男達の戯言たわごとを最後まで聞いてやる義理なんてない。

天音は沙良を促して素早く光を纏うと、サッと夜空へと舞い上がった。


彼女達が去った後に残されたのは、銀色に光り輝く光の粒。そして、その男達には何の花かは分からないフローラルな香りだった。




END069


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「関口との出会い」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

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