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068: 天音の妹分

◇2039年7月@福島県岩木市~茨城県高萩市 <矢吹天音>


矢吹天音やぶきあまねは、自分でも想像した通り、妹分の樫村沙良かしむらさらに会う為、毎日のように「ムシ」の姿で高萩に通い続ける事になった。それには沙良も悪いと思ったのか、途中の五浦いづら海岸や勿来なこそ辺りで待ち合わせる事もあったけど、天音の薄紫の翅は沙良の翅よりも大きくて速度も出るので、多少の待ち合わせ場所の違いには拘らないのだった。


やがて七月も半ばを過ぎ、梅雨が終わって各地の海水浴場で海開きが行われるようになると、二人は暗くなって人が減った各地の浜辺で休憩を取るようになった。

その時間に残っているのは、ほとんどが男女のカップルばかり。天音と沙良は、そんな彼らを覗き見ては心話でキャーキャーと騒いで、真夏の夜のひと時を過ごしていたのだが、実は、そんな彼らに「光のチョウ」に変異した姿を見られていた事には、なかなか気付いていなかった。

もっとも、この頃になると天音は、多少は「ムシ」の姿を見られても動じなくなっていた。既に相当数の目撃情報が「福島ムシ情報サイト」に寄せられており、多少それが増えたとしても今更だと思っていたからだ。


当然、そのサイトの事は沙良にも教えてあり、彼女は天音より若い分、考え方が柔軟なのか、それとも浅慮なだけなのか、サイト上に自分の画像を見付けては、いつも歓声を挙げていた。

そんな天音の懸念事項は、「身バレ」である。天音は沙良に、「変異する時と変異を解く時は、周りに人がいないかを丁寧に確認する事」を何度も言い聞かせていた。実は、そんな天音も度々そうした場面を目撃されていたのだが、今の所は気付いていない。

目下、それよりも天音の関心は、樫村沙良という妹分の存在に向いていた。有り体に言えば、一人っ子で最近まで友達もいなかった天音には、二歳年下の沙良が可愛くて仕方がなかったのである。



★★★



そうして学校が夏休みに入ると、天音は夜だけじゃなくて、日中から沙良の自宅マンションへ押し掛けるようになった。名目上は、沙良に勉強を教えてあげる為なのだが、他の「ムシ」の仲間に「日中は、『ムシ』になるのを控えるように」と言っていた事など忘れて、しっかり変異しての移動である。だって、バスとJRを使っていたら、すぐにお小遣いが無くなってしまう。この場合、背に腹は代えられないのである。

それでも天音は、ルートだけは考えていた。直接、自室から「ムシ」になって飛び出すような事はせず、母の涼子に「友達の家に行って来る」と言い残してアパートを出ると、人気のない所で変異して、まずは海上に出る。もちろん、海水浴客には見られてしまうのだが、そこは仕方がないと切り捨てる。そうして海上を南下した後、高萩海水浴場の辺りで再上陸して、再度、人気の無い所に降り立って変異を解く。そこからは徒歩で、沙良の自宅マンションへと向かうのだ。


その中で一番に難しいのは、地上に降りる地点の確保だった。まずは、二、三階建ての建物の屋根や屋上に下りて、そっと下を窺う。そして人がいないタイミングを見計らってサッと路上に降り立つのだ。

とはいえ、それがなかなかに難しくて、時々は脇道や建物から出て来た人と遭遇してしまう。でも、普通、「人が上空から舞い降りる」とは思わないようで、たいていは「自分がぼんやりしていたせいだ」とか、『暑さのせいで、幻影でも見たんだろう』とか、勝手に解釈して納得してくれる人ばかりで、天音は随分と助かっていたのだった。


当然、平日の沙良は、マンションに一人だけ。彼女の家庭は両親が共に大企業の正社員な事もあって、相当に裕福な様子。天音は沙良と昼と夜の二食、一緒に料理をする事になったのだが、いつも大きな冷蔵庫に割と高級な食材があるのに驚いた。特に冷凍室には、高級和牛や日本製のウナギなんかが当たり前のようにある。

料理と言っても実際に作るのは、昼が素麺そうめんとかザル蕎麦とか冷やしラーメンとかで、夜も簡単に出来る物ばかり。台所のストッカーには、〇〇の素だとか、レトルトや缶詰の類がいっぱいあって、適当に素材を足すだけで数多くの料理が作れるのだ。

そうやって長時間、妹分の沙良と一緒にいるうちに分かったのは、表面上は陰キャでありながらも、彼女が意外とやんちゃな子だという事だ。きっと、これが彼女ので、小学校に上がってからの彼女は、そんな性格を隠して生きてきたんだろう。


そして、夕食後の短い時間を天音は沙良と一緒に夜空を回遊し、途中で妹分と別れて、岩木へ戻って行くのだった。



★★★



「ねえ、天音。最近、お友達の家で夕食をお呼ばれする事が多いみたいだけど、大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」

「だって、いくら女の子でも一人分が追加になるんだったら、負担になるでしょうが」

「ああ、そう言う事かあ。全然、大丈夫みたいだよ。その子ん、裕福みたいだから」

「そうなのかい。ひょっとして、その子って男の子じゃないだろうね?」

「違う違う。女の子だから」

「そうかい。でも、いくら夏だからって、あんまり暗くなってから帰って来るんじゃないよ」

「大丈夫だよ。この辺、そんなに変な人はいないじゃない」

「そんでも、あんた。前は怖がってたじゃないかい。ほら、あんたをいつもイジメてた女の子達とか……」

「今は、もう誰にもイジメられてないよ。えーと、藁谷先生から聞いてないかな?」

「まあ、聞いてるんだけど……」

「だったら、分かるでしょう? 私だって成長してんだよ。耳だって聞こえるようになったし」

「それは、それで心配なんだけどね……」


本当は、もうイジメっ子なんて、天音の相手にはならない。何かされそうになったら、「ムシ」になって逃げちゃえば良いのだから……。

だけど、まだ母に「ムシ」の事をカミングアウトしていない天音には、取り敢えず適当にごまかすしかなかった。


そして、そうこうするうちに月末が近付いて、天音は沙良と一緒に小名浜での花火大会に行く事になったのである。



★★★



その日、本当は中学の友人の高木苑実たかぎそのみを誘ったのだが、彼女の親が「女の子だけだと危ない」と言ったらしく、断わられてしまった。確かに天音も、お祭りの時に襲われた女子の噂は聞いた事があるので、しつこく誘うのを止めたのだった。

一方の沙良の方はと言うと、その日は土曜の夜だというのに、両親が揃って外出らしい。それで、思い切って沙良を岩木市にまで連れて来る事にしたのだ。

少し意外だったのは、天音の母の涼子が、天音の「友達と花火大会に行って来る」という言葉に何も言わなかった事だ。どうやら昔は今よりも治安が良くて、女の子同士で花火大会に行っても問題なかったみたいだ。


「花火大会に行くんだったら、浴衣が良いわね」

「別に、良いよ。相手は女の子なんだし……。ほら、浴衣だと歩き難いじゃない」

「まあ、そうなんだけど……。でも、素敵な男の子との出会いがあるかもよ」

「ないない。花火大会なんて人が多過ぎて、男子なんて見てる余裕ないよ。それに、そういう時に声かけて来るのって、不良なんじゃないの?」

「もう、天音ったら、夢がない子だねえ」


母の涼子とはそんな会話を交わした天音だったけど、もちろん、花火を地上から眺めるなんて事はしない。

あ、だけど、屋台で何か美味しい物を食べるつもりだから、そん時に声を掛けられるかも……って、どうせ子供に見られて相手にされないだろうな。

ちなみに、天音は涼子から屋台での買い食い用として、特別にお小遣いをもらっていたりする。それで余計にご機嫌になっていたのは、言うまでもない。


そんなこんなで天音はウキウキしながら海上を南下して高萩市へと向かい、沙良を連れて再び北上。喜び勇んで、会場の小名浜港へと向かって行ったのだった。




END068


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「花火大会」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


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