表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/117

■059: 翌朝の真凛と鈴音

本日の二話目です。

◇2039年6月@福島県二本松市 <安斎真凛>


「お姉様、起きて下さーいっ!」


耳元で、女の子の声がする。身体からだが何度も揺すられて、薄い布団が一気に剥ぎ取られた。


安斎真凛あんざいまりんが薄っすらと目を開けると、金髪の綺麗な少女が目に飛び込んでくる。ヒラヒラ多めの白いワンピース。見るからに良い所のお嬢様……。

『自分とは違う人種だ』と思ったことで、自然と不機嫌な声が出た。


「あんた、誰?」


真凛の前で、金髪の少女が固まってる……と思ったら、彼女の瞳からぼわっと涙が溢れ出す。そして、大袈裟にしゃくり上げで泣き出した。


「酷い、酷いです、お姉様。うえーん……」


そんな彼女の様子を見て、ようやく真凛の頭が働き出す。

そういや昨日は、とんでもなく大変な一日だった……。


〈こら、鈴音。朝っぱらから、下手な嘘泣きは止めなよ〉


目の前の綺麗な少女、紺野鈴音こんのすずねは、口から舌の先を覗かせながら心話を飛ばしてきた。


〈ちぇっ、もうバレちゃったんだ〉

〈当然じゃん。あんたの素性は、もうバレバレなんだよ〉

〈あのですね、これでも私は、社長令嬢なんですけどー〉

〈そうかもしんないけど、『お姉様』ってのは止めてよね。アタシ、そういう趣味ないから。てか、マジで鳥肌が立っちゃいそう〉

〈むぅ。そこまで言わなくたって良いじゃないですかあ!〉


昨夜、シティータワー福島の屋上で初めて自分の足で歩く事を覚えた鈴音は、その後、ますますハイテンションになった。そして、福島市の繁華街を低空で飛びながら、あちこちのビルの壁面を飾る3D画像を順番に冷やかして行ったのだ。

イケメン俳優がいれば、大きな翅で肩に乗って見せたり、お相手の若手女優の目元を隠したり、そうかと思うと、彼女の水着のお尻をパタパタと翅で叩いてみたり……。

それからも鈴音は、突然、現れたティラノザウルスに驚いてしまい、変異を解けそうになってヒヤッとしたり、ニョッキっと伸びた巨象の鼻を小さな足で蹴飛ばしてみたり、スクリーンに身体の半分だけ沈めて、片翅だけを動かして見せたり、何もない壁から頭だけ突き出したかと思ったら、パッと飛び出して宙返りをしてみたりと、とにかく大はしゃぎで、ちょこまかと動き回っていた。

もちろん、それなりの騒ぎになっていたのだが、あいにくストッパー役の玉根凜華たまねりんかは、そこにはいない。となると、少々やり過ぎてしまうのは、当然の成り行きだったのである。


そんなこんなで、いつの間にか今まで以上に仲良くなった二人は、真凛が鈴音を呼び捨てに、鈴音は真凛を「お姉ちゃん」ではなく「真凛さん」と呼ぶようになっていた。ちなみに鈴音から真凛への「さん」付けは、「お姉ちゃん」だと子供っぽいし、「真凛ちゃん」は馴れ馴れしい。「お姉さん」でも良いけど、結局は無難に「真凛さん」に落ち着いたという経緯がある。それなのに、未だにふざけて「お姉様」呼びをしてくるのは、いったい何なのよ?

ともあれ、尚も遊び足りない鈴音を宥めすかして、何とか宿泊している旅館の部屋に押し込んだ時には、あと少しで日付が変わる時間になっていたのだった。



★★★



〈そういや、鈴音。あんた、何で、ここに居るの? てか、何で、ここが分かったのよ?〉

〈何でって、何となくっていうか、気配みたいなのを探ってたら、分かっちゃったみたいな……〉

〈何それ? てか、なんか怖いんだけど〉

〈ええーっ? これも「ムシ」の能力なんじゃないですかあ?〉

〈うーん、そういや、凜華がそんなこと言ってたかも〉

〈それより、さっさと起きたらどうなんです?〉

〈だって、今日は土曜日じゃん〉

〈土曜日だからでしょうがっ! ほらほら、早く起きろってばあ!〉


鈴音は、そう言って真凛を強引に布団から引きずり出そうとする。だけど、昨夜、初めて自分の足で歩けるようになったばかりの脚力では、なかなか上手くは行かなかった。


〈もう、しぶといんだからあ。こんだけ騒いでれば、目は覚めたんでしょう? 諦めて起きて下さいよお!〉

〈分かった、分かった。今、起きるってばあ〉


仕方なく真凛はベッドから起き上がって、ノロノロと着替えを始めた。だけど、その間も鈴音は、心話で色々と話しかけてくる。どうやら、この心話も、昨夜から彼女のお気に入りになったようだ。


〈あのですね、私は真凛さんのせいで、昨夜、叔母さんに散々怒られたんですからねっ!〉

〈そんなの、自業自得じゃん〉

〈ひっどーい。だいたい真凛さんったら、私が部屋に入った途端に居なくなっちゃうんだもん。何で、一緒に怒られてくれないんですかあ!〉


何故か鈴音は、少し御機嫌斜めのようだった。


〈私、朝食の時もネチネチとお説教されてたんですよ。もう、せっかくの美味しいお料理が台無しになっちゃったじゃないですかあ!〉

〈だからあ、自業自得でしょうが……。あ、そうだ。鈴音が歩けるようになった事は、ちゃんといったんでしょう?〉


その事を真凛が言うと、鈴音の表情がパッと明るくなった。


〈もちろん、言いましたよ。てか、言わなくてもバレてたし……〉

〈まあ、そうだろうね……。だったら、喜んでくれたんじゃないの?〉

〈まあ、そうなんですけどね……。私、今朝は疲れてたのもあって、ちょっとしか歩けなかったんですぅ。それで、叔母さんに無理やり車椅子に乗せられちゃって……〉


鈴音的には、せっかく歩けるようになったのに、未だに車椅子で移動させられた事に不満があったようだ。

だけど、その鈴音は、いつの間にかちゃっかりと真凛の椅子に座っている。つまり、まだ長くは立っていられないって訳だ。


〈だったら、どうやってここに来たのよ?〉

〈そんなの、変異して来たに決ってるじゃないですかあ〉


鈴音の頭には、「人目を忍んで昼間の変異は避ける」という発想は無さそうだ。昨夜、散々言っておいた筈なんだけどなあ……。


〈ふーん。彩佳さんが、良く許してくれたね〉

〈えへへ。そこは「ムシ」の能力で大丈夫だって事で、押し切ったに決まってるじゃないですかあ!〉


鈴音のハイテンションは、未だに続いているって感じだ。いや、ひょっとすると元から、こんな性格だったのかも……。


〈違いますよー。私、一日中、ほとんど喋らなかったなんてのは、当たり前でしたもん〉


あ、心を読まれた。「ムシ」になったばかりだっていうのに、侮りがたい子だ。

そう思った真凛は、少し小言を言ってやった。


〈あのさあ、それって、えばって言う事じゃないじゃないの?〉

〈えへへ。考えてみれば、そうですね……。あ、それで、真凛さんのお母さんは何処どこですかあ? 私、ご挨拶しなきゃ……〉

〈そんなの、いらないよ。どうせ、まだ寝てるから〉

〈寝てるって、もう十時ですよー〉

〈あの人が寝たの、明け方だからさ。そういう仕事なんだ〉

〈そうなんですか……〉


鈴音に夜の仕事ってのは、さすがに分からないらしい。それでも何かを悟ってはくれたようで、それ以上は追及しないでおいてくれた。


〈それで、これからなんですけどー、お昼、叔母さんが一緒に食べたいって言うんで、付き合ってくれます?〉


鈴音の目を見ると、『どうせ、暇なんでしょう?』とでも言いたげな様子だ。

真凛は、昨夜に延々と付き合わされた事で、鈴音の名前を呼び捨てにするくらいには親しくなっている。そうして分かったのは、鈴音が相当に強引な性格だという事だった。まあ、お嬢様だから仕方がないのかもしれないんだけど……。


〈もう、真凛さんったら、私に何か失礼な事、考えていません?〉


どうやら鈴音は、随分と勘も鋭いようだ。

真凛は小さく溜め息を吐くと、睡眠不足で重たい身体を引き摺るようにして、洗面台へと向かって行ったのだった。




END059


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


すいません、間に追加で一話入ってしまいました。次こそは、「最初の大人のサポーター」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ