053: 「ムシ」逹のお喋り
本日の二話目です。
◇2039年5月@福島県郡山市 <玉根凜華>
四人目の「ムシ」になった南相馬市の門馬里香に会いに行った日、自室に戻ったのは深夜だったにも関わらず、ベッドの中で玉根凜華は、岩木市の矢吹天音にメールで報告を上げておいた。
翌朝、いつもより遅めに目を覚ますと、天音から返信が来ていた。内容は、『何で会いに行く前に、私にも、ひとこと声を掛けてくれなかったの?』というもの。どうやら、拗ねているようだ。
仕方がないので、電話してみた。
『凜華ちゃん、メール見てくれた?』
「あ、はい」
『次は、絶対、一緒に行くからね』
「はい……。あ、でも、天音さんって、早い時間だと出られないじゃないですか」
『うーん、そうだけど……、一応、私も凜華ちゃんの言ってた「就眠中」の木札、作ってみたんだ』
「えっ、そうなんですか?」
『うん……。でも、うちのお父さん、酔っ払って勝手に入って来ちゃう事があるからなあ』
「そういう時は、『お父さんなんか、大っ嫌い!』って言ってやれば良いんですよ」
『ふふっ、それは確かに効果あるかも』
軽く笑った後で、ふと天音は思い付いたように安斎真凛の名前を出した。
『そういや、私、まだ真凛ちゃんとも話したこと無いんだけど』
そうだった。それは、一人で岩木に行った時から天音に言われている事だった。
でも、あれから毎晩のように夜は真凛に会いに行って、二人で会ってる時、すぐに彼女は外に行きたがる。更に、四月に家族旅行に行った後は、幼馴染の大谷知行にも会わせてやんなきゃいけないから、本当に天音との電話での面談をセッティングする機会が無かったのだ。
と言っても、ちゃんと真凛に言えば、彼女だって納得するに違いない。てことは、やっぱり面倒だから後回しにしてたような気が……。
凜華は、素直に「ごめんなさい」と謝ってから、いったん電話を切って、即座に真凛と連絡を取った。ところが彼女は電話に出ない。だったらと思い、ダメ元で心話で〈真凛、今、何処?〉と問い掛けてみると、〈あと、五分くらいで着くから〉という言葉が返って来た。
〈えっ、こっちに向かってるの?〉
〈うん。知行さんが、『今日は母さんが夜勤で父さんも遅くなるから、こっちに来ない?』って言ってくれたんだ〉
〈うっわあ、デートだったんだ〉
〈ちょっ、ちょっと、そんなんじゃないから〉
〈はいはい……〉
そこで凜華は、天音が話したがってる事を伝えた。〈真凛は、少しだったら良いよ〉と言う。
〈そうだ。せっかくだから、里香ちゃんも声を掛けてあげたら?〉
〈あ、それ良いかも〉
〈じゃあ、アタシは、ちょっとだけ知行さんに会ってから、凜華の部屋に行くから待ってて〉
その一分後、窓の外に強い光が走った。どうせ、何も考えてない真凛が、隣の家に飛び込んで行ったに違いない。凜華は、腰を抜かして驚く知行の姿を想像して、口元を綻ばせた。明日会ったら、揶揄ってやらなきゃ。
★★★
『あらあら、皆揃って茶髪なのね。ふふっ、こうして見ると、私達って、本当に姉妹みたい』
今は、その天音が指定したミーティングアプリを使っての、四人の「ムシ」達の顔合わせだ。もちろん映像込みなので、お互いの顔を見ながら話ができる。
さっきは拗ねてる様子だったけど、今日の天音はテンション高めに見えた。
『でも、なんか不思議よね』
「と言っても、色素の薄い女の子が、全員、『ムシ』になるって訳じゃないですよね?」
『それは、まだ何とも言えないわね』
「サンプルが少なすぎるって事ですか?」
『そうよ』
「そんでも、うちらみたいな髪の毛の子を見付けたら、そのうちに『ムシ』になる確率が高いって事じゃん」
「まあ、真凛の言うとおりではあるんだけど……」
四人は、既に冒頭の挨拶を終えており、雑談に入っていた。
「だけどさあ、うちらって、あんまり白人っぽくはないかも」
「ふふっ。特に真凛はそうだと思う。こん中で、一番に白人っぽいのは、天音さんですよね?」
『あの、私、さっきから思ってましたけど、天音さんって、とても一歳しか違わないって思えないです』
『あら、里香ちゃん。それって、私がオバサンっぽいって事?』
『全然、違いますっ! 大人っぽいって意味ですから』
『ふふっ、冗談よ……。それより、土曜日はごめんなさいね。実は私も何となく予感はあったのよ。だけど、それが新しく「ムシ」になる子の事だって分からなくて……』
「仕方ないですよ。真凛の場合、二回目だったから確信があったんだと思います。まあ、考えなしの性格も影響してたんだろうけど」
「ひっどーい!」
『いやいや、私、その真凛さんの性格に救われたんです。お二人が来てくれて、本当に嬉しかったです』
『ふふっ、里香ちゃんって、本当に良い子よね』
天音に「良い子」と言われた事で、里香は満更でもない様子。彼女のはにかんだ顔は、凜華もカワイイと思った。
ところが、隣の真凛は違っていたようで、それを素早く見て取った天音がすかさず言った。
『もう、真凛ちゃんもカワイイわよ。ああでも、本当は私も遠出がしたいのよねえ。でも、うちの親が私のこと、最近は薄々感じてるみたいなの。まあ、いずれはカミングアウトしなきゃとは思うんだけど、まだ今は、その時期じゃないかな……って、本当は、言うのが怖いだけかもしれないんだけど……』
「そうですよねえ。やっぱり、親に『化け物』とか言われたらと思うと、どうしても躊躇っちゃいますよね」
「あ、それだったら、アタシ、こないだ親父に言われたよ。親父が庖丁持って希美に襲い掛かろうとしてたから、変異してやったの。そしたら、『化け物だあ!』って叫んで逃げてっちゃった」
真凛は軽い感じで言ったのだが、後の三人はドン引きである。それでも、しばらくすると天音が、『まあ、そうなるよね』と呟くように言った。
そこで、里香が少し違う提案をしてくれた。
『あ、あの、天音さん。私が原発の辺りまで行きますから、その辺で待ち合わせるとか……、それか、Jビレッジの辺りまで行っても良いですよ』
『そうね。中間地点で待ち合わせましょうか? 真凛ちゃんとも、そんな感じで待ち合わせれば良いのかもね。えーと、何処が良いかしら……』
「鬼が城だとか……あ、リカちゃんキャッスルでも良いかも」
いきなり自分の名前を出された里香が微妙な顔をしたけど、確かに待ち合わせ場所としては丁度良いかもしれない。
ちなみに「リカちゃんキャッスル」とは、女児用の某有名玩具メーカーの工場がある所である。
『でも、本当は、私も岳温泉に行ってみたいな』
「温泉だったら、岩木にも湯本温泉とかあるじゃないですか」
「ねえ、凜華。岩木だったら、もっと良い所があるじゃん」
そう言って真凛が口にしたのは、巨大屋内プールを有する某遊戯施設だったのだが……。
「あのさあ、真凛。そんなとこ行ったら、それこそ大騒ぎになっちゃうじゃない」
「別に、水着を着てけば良いじゃん」
「そういう問題じゃなくって……」
『夜中だったら、良いんじゃないですか?』
「もう、里香ちゃんまで」
『でも、一人だと不気味かもね』
考えてみると、それはそうかもしれない。
「そうですね。うちらが岩木に行った時にしましょうか」
『そうね。海水浴とかで岩木に集まった時にしましょう』
どうやら、本当は天音も乗り気のようだ。
『でも、いつかは岳温泉にも行ってみたいってのは、本当よ』
「了解です。そん時は、精一杯のお世話をさせて頂きます」
真凛はそう言うが、彼女が出来るのはタダで入る露天風呂の紹介である。しかも、その大半は山間の混浴だったりする。
だけど、凜華も真凛の蛮行に付き合っているうちに、今では露天風呂巡りが大好きになっていたりする。
「天音さん。やっぱり、ハダカの付き合いは良いですよ」
『そうやって凜華ちゃんにも言われちゃうと、ぜひ実現したくなっちゃうわ』
『あの、私もぜひご一緒したいです』
里香も賛成の意思表示をしてくれた所で、おもむろに天音が話を纏めに入った。
『ふふっ、こうやって仲間どうしで話せるのって良いわね。こないだ凜華ちゃんと話した時、「ムシ」逹の「家族」の話をしたじゃない? えーと、真凛ちゃんの発想だったっけ? あの考えって本当に素敵だと思う。私はね、「『ムシ』は皆、ひとつの家族」だと思うの。まあ、これから新しい「ムシ」の子が次々に生まれて行くと、幾つかの『家族』に分けざるを得ないんだけど、まだ当分の間はひとつで良いわね」
「つまり、今日が最初のファミリーの正式な発足日って事ですか?」
『そうよ、凜華ちゃん。実はね、私が「ムシ」になったのって、ちょうど、だいたい一年前の事なの。その時は、こうして仲間が出来るなんて思わなかったから、凄く嬉しいわ』
『あ、あの、誕生日、おめでとうございます』
途中で里香が不躾に口を挟んだけど、誰も咎めなかった。その代わり、凜華も真凛も「おめでとう」を言って、パチパチと拍手を始める。
天音は、短く『ありがとう!』と返してから、先を続けた。
『だからね、今日は「ムシ」達の記念日。その日に発足する「福島ファミリー」の初代FCに凜華ちゃんがなるのよ』
「えっ、私ですか? どう考えても、天音さんが初代FCだと思うんですけど」
『えっ、何で? こないだの凜華ちゃんの話だと、いつも一緒にいられる事がファミリーの条件だったんじゃなかった?』
「そうでしたっけ……」
『そうよ。まあ、その条件だと私はメンバーになれないんだけど、仲間外れは嫌だから、そこは大目に見て頂戴』
「はあ……」
そこで、声を上げたのは真凛だった。
「あの、凜華はFC代理って事で良いんじゃないですかあ? やっぱ、初代のFCってのは、貫禄とかないとダメだと思うんで―」
「ちょっ、ちょっと、私は頼りないって事?」
「ううん。凜華は、『お母さん』じゃん。で、天音さんは、『お父さん』。ファミリーの代表ってのは、お父さんがなるべきだと思うんだ」
この真凛の意見に天音は、『何で私が「お父さん」なのっ!』と激おこだったのだが、しばらくすると落ち着いたのか、『まあ、良いわ。それで折れてあげる』と言って受けてくれた。
『とにかく、これからも「ムシ」の子は増え続けると思うの。だから、新しい子が生まれたら、私に連絡して頂戴ね。それと、短い時間でも、こういうミーティングを定期的に行いましょう』
そんな訳で、三十分くらいの短いミーティングだったけど、それぞれが充分に満足のいく内容だった。
ともあれ、こうして最初の「ムシ」のファミリーとして、「福島ファミリー」が発足したのだった。
END053
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「真凛の日常(2)」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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