表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/78

045: 凜華の中学デビュー

本日の二話目です。

◇2039年4月@福島県郡山市 <玉根凜華>


四月になって、玉根凜華たまねりんかは中学生になった。少し大きめの制服を着て通う先の中学で、彼女は思いの外に早くクラスに溶け込む事ができた。大半を、教室の隅でひっそりと目立たないように過ごした小学生時代を思うと、全くの様変わりだ。

一番の理由は、「ムシ」になったのがきっかけとなり、凜華が前向きで積極的な性格になったからだ。だけど、彼女が通う事になった公立中学には三つの小学校から生徒が来ていて、同じクラスに小学校時代の彼女を知る子が、片手で数えられる程しかいない事も幸いした。要するに凜華は、理想的な中学デビューを果たす事ができたって訳だ。


そんな風に教室でも幾人かの新しい友達が出来た凜華だったが、一番に大切な親友が安斎真凛あんざいまりんだという事に変わりはない。相変わらず彼女は、毎晩のように「ムシ」になって二本松市のだけ温泉へせっせと通い、水色の翅を持つ真凛を伴って、「ジャノメ」の姿で優雅に夜空を舞った。


四月の上旬と言えば、桜の咲く季節。二人は、郡山や二本松周辺の桜の名所を飛び回った。最近は、あちこちでライトアップされている事もあり、上から見ると分かり易いし、すっごく綺麗。

近くで見ないと気が済まない真凛の性格もあって、たいていは少し離れた所で地面に下りて、歩いて行く。だけど、時々真凛が近付き過ぎてしまって、相変わらずの騒動になる事が何回かあった。そして、その都度、凜華は真凛を叱るのだけど、例の調子で少し経つと忘れてしまう。ワクワクすると、どうしても彼女は考えるより先に行動してしまうようだ。

凜華にガミガミ言われて真凛が落ち込むと、近くの自動販売機に行って温かい飲み物を買ってやる。この頃の真凛のお気に入りは、缶入りのお汁粉。凜華からすると、ちょっと年寄りっぽく思えてしまう。

そんな時だった。


「お嬢ちゃん達、親御さんはいないのかい?」

「君達、小学生だよね? こんな時間に女の子だけってのは、関心しないなあ」


中年のオジサン達が声を掛けてきたのは、凜華逹を補導する為だ。


「じゃあ、名前と学校名、教えてくれるかい?」


一人が手帳とペンを取り出したのを見て、凜華が『どうしよう?』と悩んでいると、真凛の身体からだが発光し出した。

当然、オジサン達は「うわあ」と叫びながら逃げて行く。

凜華は、『こめんなさい。私達、普通の人間じゃないんです』と心の中で呟きながら、自分も光を纏って夜空へと舞い上がる。


〈迂闊だったわ〉

〈もう、凜華ったら、遅い!〉


真凛は、何故か怒っている。


〈ああいう時は、さっさと逃げるべき。長く留まっただけ、碌な事になんないんだよ〉


真凛の言う通りだ。たぶん彼女は、さっきのような場面を「ムシ」になる前から何度も経験しているんだろう。


――話したって、分かり合えない人達がいる!


その事を、強く思い知らされた出来事だった。



★★★



先月の小学校卒業式があった日の夜、凜華は郡山から岩木市への単独飛行を果たし、薄紫の翅を持つ「ムシ」の少女、矢吹天音やぶきあまねとの面会を果たした。

天音は、凄く綺麗で、本当に素敵な「お姉さん」だった。凜華は、ひと目で天音の事が大好きになった。

その時に天音との間で話し合った内容は、同じ「ムシ」の仲間の安斎真凛はもちろんの事、既に自分が「ムシ」であるのをカミングアウトした幼馴染、大谷知行(ともゆき)とも共有している。


その知行には、凜華の帰宅時間が深夜の一時過ぎになったのを強く叱責され、それで、お互いに三日間も口を利かない程のケンカになってしまったのだが、そういうのも二人にとっては度々ある事なので、彼女はそれほど気にしてはいない。

それよりも気になったのは、「知行が、何で私の帰宅時間を知ってんのよ?」という事なのだが、どうやら彼は、ずっと起きていて、窓から見える凜華の部屋の方を監視していたらしい。それで、午前一時十三分になって、ようやく窓の外が明るくなり、大きな光の塊が、凜華の部屋へと吸い込まれて行ったのを確認したのだという。

つまり、それを知った凜華が、「うわあ、それって立派なストーカーじゃん。気持ち悪っ!」となって、「お、オレは、お前が心配で寝付けないから、しょうがなくだなあ……」と弁解を始め、それを更に凜華が茶化したもんだから、とうとう知行がキレたという訳だ。


ちなみに、岩木から郡山への帰り路は、本当にきつかった。途中は阿武隈あぶくま高原というなだらかな丘陵地帯なのだが、それでも岩木や郡山のような都市部よりは気温が低い。雪も一面に積もった寒々しい風景が続く中の単独夜間飛行。いくら夜目が効くからと言っても、心細くならない筈がない。

とはいえ、それよりも大変なのは、眠気との戦いだ。もし空中で眠ってしまえば、変異が解けて落下してしまう。それで生き残ったとしても、凍死しかねない状況なのだ。だから、全然、気が抜けない。


そんな目向けをどうやって振り払ったかと言うと、思いっ切り大きな声で明るい曲を歌う事だったりする。凛かは、飛行時間の大半をアニメソングを歌う事で過ごした。

と言っても、実際に声が出ていた訳ではない。光を纏った状態では、「声」が出せないからだ。それなので、凜華が歌うアニメソングは、彼女の頭の中だけでガンガンと響いていた事になる。


後日、凜華は真凛と一緒に飛行している際、彼女に乞われて実演してみせた事がある。そうしたら真凛は、一分もしないうちに音を上げて、〈もう良いから〉と言われてしまった。

凜華自身は、決してオンチなんかじゃない。少なくとも、自分ではそう思って居る……と言っても、カラオケとかには行った事がないのだけれど……。


〈大丈夫。凜華には他に良い所がいっぱいあるから……〉

〈真凛ったら、それってどういう意味よ〉

〈うーん、凜華は、人前で歌わない方が良いかな?〉

〈何でよ?〉

〈アタシが眠くて変異が解けそうな時は、歌ってくれて良いよ〉

〈むぅ〉


どうやら凜華の歌声は、だいぶ独特のようである。



★★★



天音から課された宿題、「『ムシ』達が団結する為の強い組織」について、凜華は色々と考えてみたけど、未だに納得の行くアイディアは浮かんでいない。あの後、天音とは何回かスマホで話す機会があったけど、「凜華ちゃんには、まだ難しいのかもね」と言われるだけで、特に催促される事もなく待ってくれている。

凜華は知行にも相談してみたけど、彼は天音が考えている事自体が「大袈裟すぎないか?」と言って、あまり真剣には取り合ってくれてはいない。もっとも、天音と話した内容を彼に打ち明けたのは、彼との三日に及ぶケンカが収まってからだったから、まだ多少その時のことを引き摺っていたのかもしれないけど……。


「確かに、凜華が『ムシ』に変異できるって事を隠しておく事は賛成だよ。マスコミとかに騒がれたくないもんな。だけど、人権をないがしろにされて迫害の対象になるなんてのは、ちょっと被害妄想っていうか……」

「知行は当事者じゃないから、そんな事が言えるのよ」

「ちげーよ。それに、そもそもオレには、これから『ムシ』ってのが増えるって前提自体に確信が持てないっていうか……」

「そこからなの……。そっか。知行は、天音さんが『預言者』であるのも眉唾まゆつばだって思ってるんだ」


こんな風に、やっぱり知行とは口喧嘩みたいになってしまう。

一方で真凛は、相変わらず〈組織ねえ……〉と呟くだけで、あまり関心がない様子。取り敢えずの現状は、それほど困った状態にはないので、「ムシ」達の未来なんて事には興味が持てないのかもしれない。


ところが意外な事に、その「ムシ」達の組織の明確なビジョンは、この後、その安斎真凛の口から語られる事になるのである。




END045


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「合同家族旅行」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ