043: 初めての仲間(2)
本日の二話目になります。
◇2039年3月@福島県岩木市 <矢吹天音>
矢吹天音は、さっき会ったばかりの少女、玉根凜華と向かい合って立っていた。場所は、天音の自宅アパートの自室。
天音は、ひとまず彼女を自分のベッドに座らせてから、「えーと、郡山から来たんだったら、きっと喉が渇いてるよね?」と言いながら、コーラとミルクティーのペットボトルを出してみた。
どちらも昼間、友達の高木苑実と近くのコンビニに入った時に買った物だ。
ところが……。
〈あ、ありがとうございます。じゃあ、コーラで……〉
〈えっ?〉
目の前の少女、玉根凜華の言葉は、直接、天音の頭に響いてきた。それに驚いていると凜華は、〈ふふっ、天音さん、初めてだったんですね〉と重ねて言葉を伝えてくる。
〈これ、うちらは「心話」って呼んでるんだけど、声を出さずに会話ができるんです。だいぶ離れた所でも通じるから、空を飛んでる時なんかは、とっても助かるんですよ。ほら、変異してる時って、声が出せないじゃないですか?〉
〈あ、そういやそうかも〉
〈でしょう? だから、変異してる時は、心話が唯一のコミュニケーション手段なんです……。だけど、変異を解いた後でも、心話って、凄く便利ですよ〉
〈確かに、そうみたいね。でも、どうやって使うの?〉
〈ふふっ、天音さん、もう使ってますよ〉
〈えっ?〉
〈心の中で伝えたい言葉を思い浮かべるだけなんですけど……、最初は、声を出さずに言ってみるのが良いかも〉
〈声を出さずにって……〉
〈大丈夫です。ちゃんと通じてますよ。私もそうなんですけど、「光のチョウ」になれるって事、ご両親に言ってないんですよね?〉
〈まあ、そうだけど〉
〈だったら、心話で話した方が絶対に良いと思います。こんな夜中に知らない子が部屋にいたら、怪しまれちゃいますもん〉
確かに、凜華の言う通りだ。天音は、『この子って、結構、賢い子かも』と思った。
〈ふふっ、褒めて頂いてありがとうございます。今の言葉、聞こえちゃいましたよ〉
〈えっ、そうなの?〉
〈はい。本当は思ったことが全部、相手に聞こえるって訳じゃないんですけど、ちゃんと意識しないと相手に聞こえちゃうんです〉
〈へえ、そうなんだ〉
〈はい。伝えたい事だけを相手に伝えるのって、ちょっとしたコツがあるんです……〉
要は、聞かせたい事とそうでない事とを、しっかりと心の中で意識する必要があるらしい。
〈でも、この心話って便利ね〉
〈ふふっ、そうでしょう。「光のチョウ」になれる子じゃないと使えないってのが、残念ではあるんだけど……〉
〈まあ、それは仕方ないんじゃない? あ、それと、「光のチョウ」っての、やっぱり長いから、「ムシ」でも良いんじゃないかな? 正直、この言葉は私も嫌いなんだけど、これから、この「ムシ」って言葉が流行る気がするの。私達では、その流れは変えられないわ〉
〈なんか、断定的な言い方をされるんですね〉
〈あ、ごめんなさい。でも、私の勘っていうか、直感みたいなのって、凄く良く当たるの……。あ、それと、予知夢っていうか、未来の事が夢に出てくるっていうか……。実はね、凜華ちゃんが岩木に来るっていうのも、昨夜の夢で知ったんだよ〉
〈えっ、それって、凄いかも〉
〈ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわ〉
天音は、初めて出来た仲間に自分の能力を褒めてもらって、ちょっとだけ得意な気持ちになれたのだった。
★★★
それから、「ムシ」としての能力の話になった。
〈そういや、「ムシ」になってから得られた能力って、お空を飛べるようになった事以外にも、色々とありますよね〉
〈そうね。この心話ってのもそうだけど……、実はね、私、以前は耳が良く聴こえなかったの。それが、今は普通の人よりも良く聴こえるようになったわ。しかも、本来は聞こえない筈の離れた所の人達の会話まで聞こえちゃう。例えば、壁の向こうでコソコソ話してる会話だとかも丸わかりって感じ〉
〈へえ、それは便利ですね。あ、それで、私の場合、軽い近視だったんですけど、やっぱり普通の人よりも見えるようになりました。それから、真凛の事なんですけど……あ、真凛っていうのは、二本松の子で、安斎真凛って言います〉
〈ああ、「ミズイロ」って呼ばれてる子でしょう?〉
〈はい。彼女、弱視だったんです。眼鏡を掛けても本の文字とか読めなくて……、タブレット端末で拡大表示すれば読めたらしいんですけど、やっぱり、「ムシ」になったら普通の人よりも見えるようになったみたいで、しかも、さっきの天音さんじゃないですけど、壁の向こうにある物まで見えちゃって……〉
〈ふふっ、それって、私よりも凄いんじゃない? 更衣室とかで着替えてる所が、覗き放題になっちゃいそう〉
〈そうなんですよ。スカートの中のパンツが何色かってのも、バレバレになっちゃってて……って、別に女の子同士だから、どうだって良いんだけど……〉
〈そうね。その能力、男子は羨ましがるだろうなあ〉
〈そういうの考えると、男子は絶対、「ムシ」になって欲しくないかも〉
〈あ、それは大丈夫だと思う。私の予感だと、「ムシ」になるのは女の子だけって気がするの〉
〈えっ、そうなんですか?〉
〈そうよ。女の子だけの特別な力〉
〈ふふっ、そう言われると、そんな気がします。女の子だけの魔法の力っていうか……。あ、それと私のもうひとつの能力なんですけど、思い切って見せちゃいますね。ちょっと、驚いちゃうかもだけど……〉
〈きゃっ!〉
天音が思わず叫んでしまったのは、突然、凜華の髪の毛がシュルシュルって伸びて、彼女の頭の上でクネクネと蛇のように動いたからだ。実際の声を出して叫ばなくて、本当に良かった。
〈ふふっ。やっぱ、驚きますよね。もう、これって完全に「化け物」の領域ですもん〉
〈そうね。あまり人前で使わない方が良いかも〉
〈まあ、「ムシ」になった時点で、たいていの人には「化け物」だって思われちゃうんですけど……。でも、この能力って、割と役に立つんですよ。男の人に襲われた時、首に巻き付けて締め上げるとかできちゃうし……。ほら、うちらって「ムシ」になっても、相手を脅す事くらいしか出来ないじゃないですか? 「ムシ」になると、物を持とうと思ってもすり抜けちゃうでしょう? でも、こうやって髪の毛を伸ばすと、ちゃんと物が掴めるんです〉
凜華は、ベッドの上の枕に伸ばした髪の毛を巻き付けて、軽く持ち上げて見せた。だけど残念ながら、あまり重い物は持てないらしい。
〈あ、そうだ。壁をすり抜けられるってのも、考えてみると凄い能力ですよね。実は、さっき少し話した真凛なんですけど……〉
それから、今までに凜華が安斎真凛とやらかした数々の出来事を説明した。露天風呂での騒動に始まって、男湯に壁から半身だけ突き出しての乱入、夜間のオフィースビルでの消しても消しても輝き続ける照明……。
〈去年のクリスマスに郡山駅前で起こした騒動の事は、本当にすいませんでした。新聞社にまで面白おかしく報道されちゃって、あれで「ムシ」の評判が下がっちゃったら、天音さんにもご迷惑が掛かっちゃいますよね。誠に申し訳ありませんでした〉
〈いやいや、凜華ちゃんがやらかした訳じゃないんでしょう?〉
〈そうですけど、止められなかった私にも責任があるっていうか……、あの子って、早く飛べないくせに小回りが利くっていうか、すばしっこくて……〉
〈なるほど。でも、その子にだって何か理由があっての行動だったんじゃないの?〉
〈はい、実は……〉
そうして凜華が話してくれたのは、女子高生二人が、不良っぽい男達に襲われそうになっていたのが理由だという事。その真凛という子は、その子達を助けようと上空から急降下。そのまま遊歩道に降り立ってしまい、大事になっちゃったのだという。
〈彼女、本当は素直で良い子なんです。でも、育った環境に問題があって、ちょっと常識に欠けた所があるっていうか、知らないことが一杯あって……。そんでも、私が色々と教えてあげたから、これからは大丈夫だと思います〉
凜華の説明によると、その真凛という子は、相当にやんちゃな性格の子のようだ。
天音は、『できるだけ早く、その子にも会ってみたいと思ったのだった。
END043
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
もう一話だけ、「初めての仲間」が続きます。
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★★★
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