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032:凜華は真凛のお母さん?

◇2038年12月@福島県郡山市&二本松市《玉根凜華》


玉根凜華たまねりんか安斎真凛あんざいまりんの二人の少女は、郡山市開成山公園の遊具の下で抱き合って震えていた。

かれこれ一時間以上前に振り始めた雪は、いよいよ本降りになり出して辺りを真っ白に染めて行く。二人の少女の薄茶色の髪もまた、既に真っ白になっていた。


「ううっ、やっぱ、寒いね」

「そんなの、当然じゃない。だから、何でコート着てこなかったのよ!」

「だって、持ってないんだもん」

「へっ?」


今度、変な声を出したのは、凜華の方だった。


「昔、買ってくれたのはあるんだけど、ちっちゃくなっちゃって、もう着れないんだよね」


凜華は、真凛の身体からだを抱き締める力を強めた。それでも、寒さで身体が震えてしまう。

いよいよ耐え切れなくなった凜華は、ちょっとだけ自分に光りを纏ってみる。それで凜華の身体からは寒気が消えたけど、逆に真凛は寒そうだ……と思ったら、真凛の身体も輝き出した。


〈あ、できた。やっと治ったみたい〉

〈さっきまでは、出来なかったって事?〉

〈ううん。忘れてた〉

〈あんたねえ……。まあ、良いや。それより、もう大丈夫なの?〉

〈たぶん〉

〈本当に大丈夫なの? 私んに泊まる?〉

〈いや、二本松までだったら、たぶん大丈夫だと思う〉

〈うーん、心配だなあ〉


それでも、凜華は真凛を促して、二本松の方角に飛び立った。

今回の教訓は、「長く飛び続けていると疲れて飛べなくなる事があるから、適当に休憩を取るべき」というもの。

どうやら、光を纏っていられる時間には、制限があるらしい。それと、その時間には個人差があるようだ。と言うのは、凜華の場合、未だに疲れを感じていないからだ。

飛びながら、凜華は真凛に言った。


〈もう、本当に気を付けてよね。さっきはギリギリ降りられたから良いけど、途中で変異が解けてたら、地面に激突してたかもしれないんだからね〉


凜華は、そうなった時のことを思い描いてしまい、恐怖で身震いした。それだけ真凛を「失いたくない!」と思ったからだ。

それなのに、当の真凛はあっけらかんとしている。


〈大丈夫だよ。前の時も今回も大丈夫だったじゃない。落ちる前に自然と高度が下がるみたい〉

〈そうとは限らないでしょうが。たまたま落ちた所が道路の真ん中だとか、川の中とかだったら、どうすんの!〉

〈うーん、そん時はそん時っていうか……〉

〈あのね。そうなる前に何とかしなさい。落ちそうになるまで飛んじゃ駄目。もっと前に休憩を取りなさい〉

〈分かったあ〉

〈もう、本当に分かってんの? あ、そうだ。真凛は、一人で飛んじゃダメ。これからは、いつも私と一緒に飛ぶこと〉

〈何それ? てか、そんなん無理じゃん〉

〈私が二本松まで送り迎えするから、それで良いでしょう?〉

〈そんなの、凜華が大変じゃん〉

〈大丈夫。こないだ帰る時、ニ十分ぐらいしか掛かんなかったから〉

〈そんでも、往復で四十分じゃん。てか、凜華って、やっぱ、お母さんみたいだよね〉

〈もう、何で、そこでお母さんなのよ〉


凜華は、『そういや、さっきも似たような話をしたな』と思ったのだが、真凛の言葉はもっと斜め上を行っていた。


〈さっきさあ、とっても温かかったよ〉

〈えっ?〉

〈さっき、凜華がアタシを抱き締めててくれたじゃん。アタシ、ああやって人に抱き締めてもらった事とか、物心ついてから初めててさ〉

〈でも、真凛にだって、お母さんがいるんじゃ……〉

希美のぞみは、そんな事してくれないよ。赤ちゃんの時は、お祖母ばあちゃんが面倒見てくれてたらしいんだけど、アタシには記憶が無くってさ。しかも、そのお祖母ちゃんも、あんまり面倒見は良くなかったみたいだし……、まあ、希美のお母さんなんだから、当然なんだろうけどさ〉

〈そうなんだ……〉


凜華が思っていた以上に、真凛の幼女時代は混沌としていたようだ。

母親の希美は、十六で真凛を産んだ後の世話を実家の母親に託した。つまり真凛の母方の祖母な訳だが、その世話の実態は随分と適当だったらしい。

それに苦言を呈したのは、真凛の父親である芳賀力哉はがりきやの両親だった。真凛が三歳の時、彼らは真凛を奪うようにして手元に置いた。


〈父方の祖父母の事は、アタシ、あんまり記憶に無いんだよね。まあ、聞いた話だと、ほとんど放置されてたみたいだから、当たり前なのかもしんないけど……あ、そんでも、近所のおばちゃんに、時々ご飯を食べさせてもらってたのは覚えてる。中には、お風呂に入れてくれる人もいてさ。古着とかも着せてもらったりして……、まあ、野良猫みたいなもんだったのかな〉


力哉の両親は真凛を奪いはしたものの、すぐに世話するのが面倒になったのか、彼女を放置した。食べ物すら与えられずに空腹で家の周囲を彷徨い歩く幼女の姿は、近所の人達に目撃さえており、そうした人達から時々食べ物をもらっていたようだ。そして最終的には通報されて、警察に保護された。警察は真凛を父方の祖父母の所でなく、希美の所に返した。

その時の希美は力哉とよりを戻しており、今のだけ温泉のアパートに一緒に住んでいた。どうやら力哉の両親が真凛を希美の両親から奪ったのは、力哉が希美の所に行った腹いせでもあったようだ。

だけど、希美の本音としては、力哉と二人の生活を真凛に邪魔されたくない。その結果、真凛の面倒はおざなりになってしまう。それでも何とか自力で生き延びて、今に至るという訳だ。


〈小さい頃のアタシってさあ、誰かに大切にされたって事が無いんだよね。アタシの事は、誰もがゴミみたいに扱うか、空気みたいに無視するかのどっちかでさ。アタシは、そういう存在なんだって、ずっと思ってた〉


真凛の言葉に悲壮感はない。真凛が語った事は、それだけ彼女にとっては当たり前だったんだろう。


〈小学生になっても、やっぱ、先生には嫌われてたし……あ、笠間かさまさんだけは、優しくしてくれたっけ〉

〈誰よ、その笠間さんって?〉

〈図書館の女の司書さん。アタシ、学校に行かない時は、たいてい図書館に行ってるの〉

〈ふーん、そうなんだ〉

〈でも、やっぱ、笠間さんは司書さんで、お母さんじゃないんだよね〉

〈……?〉


凜華は、そこで少し考えてからボソッと言った。


〈あのね、真凛。私は真凛のこと、大好きだよ〉


それは、自然と凜華の口から漏れ出た言葉だった。.

真凛は、しばらく無言だった。それで凜華が気恥ずかしくなり掛けた時、ようやく真凛が言ったのは、〈へへっ。やっぱ、凜華は、私のお母さんだあ!〉だった。


〈な、何でそうなるのよ?〉

〈だって、本当のお母さんは、自分の子が「大好き」なんでしょう?〉


つまり、彼女の母親は、「本当のお母さん」じゃないという事だ。少なくとも、今の真凛は、そう思ってるようだ。


〈となると、その希美ってお母さんは、何なの? 今は、ちゃんと育ててもらってるんでしょう?〉

〈まあ、そうなんだけど、家事とかは、だいたいアタシがやってるからなあ。確かに、お金は出してもらってはいるんだけど……、うーん、なんか同居人って感じなんだよねえ……〉


どうやら真凛は、「同居人」として、その希美という人と上手くやっているらしい。


〈まあ、何でも良いけどさ。私は真凛が大好きなんだから、疲れたら休む。危ない事はしない。あ、それと、人に迷惑を掛ける事もしない。分かった?〉

〈分かったあ!〉


真凛から、明るい元気な返事が心に届いた。


〈あ、.あのね、凜華。アタシも本当に凜華のこと、大好き〉

〈うん。私も大好きだよ〉

〈それ、さっき聞いた〉


その時、二人の前方にだけ温泉の灯りが見えてきた。


〈ねえ、凜華。せっかくだから、今日も温泉に入って行く?〉

〈もう混浴は嫌だよ〉

〈分かってるって。今度は、こないだとは別の露天風呂にしよう〉

〈まあ、今日はクリスマスイブだし、付き合ってあげる〉

〈ふふっ、じゃあ、行くよ〉


そう言い残して、真凛は急降下して行く。凜華は、〈ま、待ってよ!〉と言いながら、必死に高度を下げて真凛の後を追い掛けて行った。




END032


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「真凛と凜華のクリスマス」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ログインは必要になりますが、ブクマや評価等をして頂けましたら励みになりますので、宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

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