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031:真凛の思い

本日の二話目です。

◇2038年12月@福島県郡山市《玉根凜華》


小さい頃から両親に放っておかれた点では、玉根凜華たまねりんか安斎真凛あんざいまりんは似ている。だけど凜華の場合、隣の大谷家の人逹が何かと面倒を見てくれたし、悪いことをすれば叱ってもくれた。そのお陰で彼女は、常識外れな子には育っていない。

その点、真凛には、たぶん、そういった人達がいなかったんだろう。

凜華は、そんな真凛の「常識が無い」所を『何とかして変えてあげたい』と思っていた。


ちなみに真凛にとって、両親以外に何かと彼女の心の支えになってくれた人物としては、図書館司書の笠間詠美かさまえいみがいる。だけど、図書館での真凛は幾分ネコをかぶっていたし、そもそも笠間は独身で、真凛のしつけ役としては気弱すぎた。それでも彼女が安らぎの場を与えてくれた事が、真凛の笑顔を守っていたのは間違いない。


ともあれ、まだ知り合って間もないにも関わらず、凜華は真凛を「自分にとって、かけがえのない友達」だと認識していた。だからこそ、将来の彼女に害をなす恐れのある欠点を、そのまま放置しようとは思わなかった。むしろ、少女の潔癖さでもって、『真凛は、このままじゃ駄目!』といった危機感を抱いたのである。


〈ねえ、凜華って、なんかお母さんみたい〉


凜華が苦言を口にする度に、真凛から言われた言葉である。


〈良いよ。私のこと、ママって呼んでも〉

〈何それ?〉

〈だから、私が真凛のママになってあげる。夜だけだけど〉

〈どういう意味?〉

〈別に、変な意味じゃないよ〉

〈まあ、それは分かるけどさ〉


この時、もし変異していなければ、真凛の頬が赤くなっていただろう。

凛かは、その事に気付いていた。彼女だって、そうだろうからだ。


〈あのさ〉

〈何?〉

〈ありがとう〉

〈ん?〉

〈アタシの親、二人揃ってどうしようもないクズでさ〉


その後、唐突に真凛は両親の事を話し出した。


〈どっちも夜の仕事だから、たまに夕方に顔を合せるだけで、ちっとも話なんか聞いちゃくれないんだ。時たま顔を合わせた時だって、親父はすぐに殴るし、希美のぞみったら、いつも酔っ払ってて「お水ちょうだい」しか言わない。休みの日だって、親父は寝てるかパチンコ。希美も寝てることの方が多いけど、お化粧して出掛けてく時があっても、それって、どうせ男と会ってるんだと思う〉


希美のぞみというのは、真凛の母親の事だ。面と向かっては違うんだろうけど、いつも話の中では呼び捨てだ。その点、親父と呼ぶ父親の方が、多少はましなのかもしれない。


〈希美はね、十五の時に親父に孕まされたんだ。で、妊娠に気付くのが遅かったから堕ろせなくなっちゃってさ。希美ったら、親父を脅迫したんだ。「養育費払え。払えなかったら結婚しろ」って感じでね。だけど、そん時は結婚ができる年齢になってなかったから、認知だけさせたんだけど、結局、今だに正式な結婚はしてないんだよね〉

〈えっ、そうなの?〉

〈うん。それで苗字が違うんだよ。親父は芳賀力哉はがりきや、安斎ってのは、希美の苗字なんだよ。まあ、今は一緒に住んでるから、事実婚ではあるんだけどね。そんでも、希美が十六でアタシを産んだ時は、まだ希美の方の実家にいたんだ。で、親父は高校を卒業した後、一応は真面目にバーテンダーの修行して、希美もアタシを産んだ半年後には、年齢を偽ってキャバ嬢として働き出したんだ〉

〈そっか〉

〈うん。そんでさ、最初、アタシは希美の実家にいて、その後は力哉の実家にいたんだけど、育児放棄がバレちゃって、希美の所に送られたんだよね。それからは、アタシと希美と親父の三人で、今のボロいアパートに住んでるってわけ〉

〈……?〉

〈でもさ、やっぱ、希美と親父にとっても子育ては大変らしくて、アタシは何度も殺され掛けたんだってさ。まあ、子供が子供を育てるみたいなもんだから、当然なんだけど、本人は堪ったもんじゃないよね。電動自転車から落っことされたり、階段からブチ落ちたり、風呂場で希美が頭を洗ってる時に、浴槽で溺れてたりとかさ。自分でも、良く生きてたと思うよ〉

〈ふーん。さすが、真凛のお母さんだね〉

〈でしょう? 希美の奴、そういうのをケラケラ笑いながら言うんだよ。まっ、何とか生きてたから良いんだけどさ。でも、物心付いてからだって、食事が置いて無かったなんてのは、しょっちゅうあってさ。希美の奴って、ほんと、いいかげんな女だからさ〉


なんか、重い話だった。凜華は、学校とかでイジメられてるだけの自分が恥ずかしくなった。そのイジメにしたって、たいていは知行ともゆきが助けてくれる訳だし……。


〈アタシね。凜華と出会って、こうして友達になれて本当に嬉しかったんだけど、実は心配でもあったんだ。凜華って、良いとこのお嬢様みたいだし、アタシみたいな子は、そのうち嫌われちゃうんじゃないかって……。だから、アタシ頑張るね。凜華が言うこと、一生懸命に守って良い子になる……。あ、でもね、もしも、アタシのこと嫌いになったら……、いつでも……、いなくなって……良いから……〉


そこで、真凛の心話は途切れてしまった。



★★★



本当は、真凛の心話が途切れ途切れになった辺りで気付くべきだった。だけど、話の内容がシリアスだった事で、それを凜華は別の意味に取ってしまっていた。

突然、真凛が高度を下げて行く。それでも凜華は『また勝手な行動を取って……』と思い掛けて、ようやく、それが大間違いだと気付いた。

その間にも真凛はどんどんと高度を下げて行き、それと共に彼女の光が弱まって行く。


凜華は、『マズい!』と思って急降下。とは言っても、彼女の翅は大きいから、コントロールが難しい。それでも何とか最速で地上に降り立って、全速力で真凛の所に駆け寄った。


そこは開成山公園の一角で、真凛は遊具の下で膝を抱えて座っていた。服装は、上がピンクのセーターの上に薄いパーカーで、下はジャージだけに見える。靴は履いていなかった。

公園には、あちこちに残雪があって、しかも、さっきから降っている粉雪が、少し強くなったみたい。

凜華が〈あんた、寒くないの?〉と言った所で、真凛が眠っているのに気付いた。


もう、こんな所で寝てたら、最悪、凍死しちゃうじゃない!


凜華は最大ボリュームの心話で、〈真凛、起きろーっ!〉と叫んでやる。そして凜華も変異を解いてから、激しく肩を揺らしてやった。

真凛は、なかなか起きない。その間にも、彼女の頭や肩とかに雪が積もって行く。

凜華は自分のダッフルコートを脱ぐと、それを真凛に掛けてやる。それから凜華は、寒さに震えながら、ざっと周囲を窺ってみる。


凜華の目に留まったのは、遠くの街灯の下にある自動販売機だった。凛かは、真凛に掛けたダッフルコートのポケットをまさぐって自分の財布を取り出すと、それを持って駆け出した。

途端に、雪が身体からだに襲い掛かってくる。途中で凜華は光を纏い、その状態で地面を駆けた。

凜華が買ったのは、缶入りのホットミルクティー。二つ買おうと思ったけど、小銭が足りなかったので諦めた。


凜華は、それを真凛に押し付けて、それと一緒に抱き着いた。その間にも、〈真凛、起きろー!〉の心話を飛ばし続ける。

本当は、彼女を抱えて温かいコンビニにでも連れて行けたら良いんだけど、そんな力は凜華にはない。


そんな状態で十五分が過ぎ、『このままだと、ここで遭難しちゃうかも』と思い始めた時、ようやく真凛が薄目を開けた。


「うーん、寒い!」

「当ったり前でしょうが。あんた、空から落下し掛けたんだからね」

「えっ、何で?」

「何でって、そんなの私が知る訳ないじゃない」

「そっか。そうだよね……。なんか、急に身体から力が抜けて行ったんだ。そんでも必死に着陸するまでは意識を持たせてたんだけど……」

「やっぱ、ギリギリだったんだね」

「うん、そうみたい」


凜華が推察するに、さっきの真凛の症状は、長く飛び過ぎた為の燃料切れだったようだ。それと、心理的なものもあったのかもしれないけど、そこは良く分からない。

ちなみに、真凛が目覚めてからの会話は、普通の「声」によるものだ。それに合わせる形で、凜華も「声」で話していた。


「うーん、こんな風になったのは、これで二回目かも」

「前回は、温泉神社の境内で寝てたんだっけ。もう、気を付けてよね。そんな恰好で寝てたら、本当に凍死しちゃうかもだよ」

「ごめんごめん。前の時に『気を付けよう』って思ってはいたんだけどね」

「とにかく、これからは早めに休憩を取る事。あ、それと、何であんた、コート着てこないのよ。それに、靴だって履いてないじゃない。もうすぐ中学生なんだから、もっとしっかりしなさいっ!」

「えへっ」


凜華が大声で怒鳴り付けても、真凛はへらへらと笑っている。逆に、何故か喜んでるみたいだ。

ムッとした凜華は、もう一度、彼女をギュッと抱き締めてやった。




END031


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「凜華は真凛のお母さん?」です。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ログインは必要になりますが、ブクマや評価等をして頂けましたら励みになりますので、宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


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