027:露天風呂(2)
本日の二話目です。
◇2038年12月@福島県二本松市《玉根凜華》
こっちに近付いて来るオジサン達二人の姿を横目で見ながら、玉根凜華は、隣の安斎真凛に心話で尋ねた。
〈ひょっとして、ここって混浴だったの?〉
〈……分かんない〉
凛の方に目をやると、彼女も知らなかったみたいで、かなり動揺している様子。
〈ど、どうしよう?〉
〈どうしようって、何とか逃げるしか無いでしょうが〉
そうこうするうちに、オジサン達二人は、ゆっくりと足先から身体をお風呂に沈めて行く。その場所は、凜華と真凛がいる所とは、三メートルも離れていない。
「女湯の露天風呂は別にあると思うんだけど、君達、ひょっとして知らなかったのかな?」
オジサンの一人が、ニヤニヤしながら更に近付いて来た。そのオジサンったら、タオルは手に持っていて、ちょうど目の前に見慣れないモノが……。
「キャー!」「うわあ!」
凜華と真凛は、ほぼ同時に叫んだ。
「あ、ごめんごめん」
男の人のアレを、いきなり間近で見てしまった二人の女子小学生は、すっかり涙目状態だった。
「あはは。お嬢さん達、お父さんのは見たこと無いのかな?」
そのオジサンは軽く謝ってくれたけど、そのまま二人の正面に腰を下ろしてしまった。
もう一人のオジサンも、その隣に腰を下ろした様子。
「お嬢さん達、歳は幾つ? まだ小学生だよね? 三年生くらいかな?」
「失礼しまーす!」
今度は、別の方角から声がした。前にいるオジサン達よりも若いみたいだ。
凜華がそっちに顔を向けると、少し離れた所に大学生風のお兄さん達三人が、既に湯に浸かっていた。
「こっちの露天風呂って、マジに混浴だったんだな」
「さっきの標識に、そう書いてあっただろうが」
「だって、普通こんなに近いとは思わんだろ?」
「てことはさあ、反対側に行けば、女湯にも行けるって事じゃね?」
「こら、君達。覗きはいかんよ」
さっきのオジサンの一人が、いきなり彼らを窘めた。
「冗談ですよ。本気だったら、黙ってて後でコッソリ覗きますって」
「あはは。確かに、そうだわな」
知らない人同士の筈なのに、男の人達はワイワイと話している。
どうやら、女湯の露天風呂は別の所にあったらしい。考えてみれば、当然だ。普通、こんなに離れてる筈ないもの。
てか、ここって、男湯からだと近いって言ってなかったっけ?
「でもさあ、俺が隣の女の子と一緒に風呂に入ってたのって、小二までだったぞ」
「オレは、小学三年生の従妹と入った事があるぞ」
「お前ら、恵まれてるなあ」
「だけど、そっち側の子は、三年生にしては発育が良くないか?」
「こら、マサヒロ。そんなこと言ったら、可哀そうだろうが」
「あ、ごめん。ごめんな」
どうやら、凜華も真凛も小学三年生にされてしまったみたいだ。
確かに、二人とも痩せてるから、実際よりも小柄に見えているのかもしれない。
〈それに、凜華はペッタンコだもんね〉
〈うるさい。ペッタンコ言うな!〉
そう言う真凛だって、胸は小さい。だけど、まだ小学生なんだから、これから大きくなる筈……。
〈希美は、小六の時もデカかったそうだよ。あ、希美って、アタシの母親ね〉
〈ふーん〉
そんなのは、人それぞれだと思う。ほっといて欲しい。
凜華逹が心話で話していると、再び目の前のオジサンが声を掛けてきた。
「でも、君達、小学生なら大丈夫って思ったんだろうけど、女の子だけで混浴に来るのは感心しないな。中には変な奴もいるから、気を付けなさい」
「あ、はい。これからは、そうします」
注意されたのはもっともな事なので、素直に返事しておく。だけど、真凛の方は少し不服そうだった。
「じゃあ、俺らはもう出るから、君達も早めに出なさい」
「君達、しばらくの間で良いんだが、この子達の事を宜しく頼むよ」
二人目のオジサンの言葉は、三人の大学生に向けてのものだった。そうして、オジサン達は、男湯の方へと向かって行った。
★★★
後になって思うと、あのオジサン達は、意外と良い人達だったのかもしれない。
凜華がそう思ったのは、残った大学生三人が未だに目の前にいるからだ。
凜華としては、そろそろ出たい。だけど、小さなタオル一枚では、全然、身体が隠せそうにない。最悪は光を纏ってしまえば良いんだろうけど、できれば騒ぎを起こしたくなかった。
大学生三人は、相変わらず無言のままだ。その上、じーっとこっちを見ている。
もっとも、それは嫌らしい目じゃなくて、どちらかと言うと戸惑っているって感じ。ハダカの女子小学生と、いったい何を話せば良いのか分からないって所だろうか?
さっきオジサン達がいた時は、普通に喋ってたのに、思ったよりも意気地なしだ。だったら、あのオジサン達と一緒に行ってしまえば良かったのに……。
〈オジサンの一人がアタシらの事を頼んだもんだから、一緒に出られなくなったんだと思うよ〉
案外、真凛の言う通りなのかもしれない。
そう思った凜華は、自分から話し掛けてみる事にした。
「あの、お兄さん達、どちらから来たんですか?」
「東京だけど」
「皆さん、大学生なんでしょうか?」
「そうだよ。良く分かったね」
「ここって高級旅館なんだけど、たまたま安く取れたんだ」
「まあ、野郎ばっかってのが、イマイチなんだけどな」
「なるほど」
そこで真凛が、悪戯っぽい笑顔で、口を挟んだ。
「別に良いじゃん。こんなに可愛い女の子と一緒にお風呂に入れてるんだからさ」
凜華は、『それ、自分で言う?』と呆れていたけど、大学生の一人が、「あはは、その通りだよ」と頷いてくれた。
すると、別の大学生が言った。
「それよりさあ、俺、さっきから訊きたかったんだけど、君らってハーフなの?」
どうやら彼は、凜華達の髪の毛の事を言っているらしい。
「違うよ。真凛はフツーの日本人。凜華もそうでしょう?」
凜華は、『普通じゃないと思うんだけど』と心の中で呟きながら、「まあ、そうだね」と相槌を打っておく。
「誤解しないでね。これ、地毛だから。希美もアタシほどじゃないけど、茶髪なんだ。あ、希美ってのは、アタシのお母さん」
「私も地毛です。で、私のお母さんも割と茶色いから、たぶん、遺伝だと思います」
「ふーん、そっか。真凛ちゃんと凜華ちゃんって言うんだ」
「へえ、可愛い名前じゃん」
どうやら、髪の毛の事は二の次だったようだ。
そう思った所で、いよいよ熱さで意識がぼんやりしてきた。『もう我慢できない!』と思った凜華は、思い切って言った。
「あの~、すいません。私、もう出たいんで、ちょっとだけ後ろを向いててもらえます?」
「あ、ごめん」
三人のうちの一人が小声で謝ってくれて、その後、一斉に立ち上がった彼らは、逃げるようにして去って行ってしまった。
凜華は、ふーっと大きく息を吐いた。
それから、すぐに立ち上がった凜華は、さっさと戻ろうと思って真凛の方を見た。ところが、その真凛はと言うと、お風呂の橋の岩に腰を下ろして、足先を湯に浸してブラブラさせている。
もう、呑気なもんだ。
そう思った凜華は、少し腹が立ってきた。だから、自分も足でお湯を蹴って真凛の方にぶつけてやる。
〈キャー、止めてよ〉
〈別に、良いじゃない。ほら、ほら〉
男湯が近いと知らされていたから、声は出さない。だけど、バシャバシャというお湯の音は、割と遠くまで響いていたようだ。
それなのに、二人の小学生は、ただただ無邪気にはしゃぐばかり。
そんな二人の背後に、そーっと不気味な影が近づいていたのだが、まだ二人は気付かない。
その露天風呂から少し離れた岩の上に、唯一の灯りが設置されていて、周囲を淡い光で照らしている。
そして、湯けむりの向こうには、立ち上がってお湯を掛け合う女子小学生二人の姿が、ぼんやりと影のように見えていたのだった。
END027
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
もう一話、「露天風呂」が続きます。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
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