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002: 謎の光

◇2038年9月@福島県岩木市 <関口仁志>


関口仁志せきぐちひとしは、地味な見た目の高校生である。身長は百七十に届かない程度。体格は細身で、あまり強そうには見えない。顔は、やや童顔で柔らかい印象の女顔。男子にしては長めの髪を真ん中で分けている。割と目鼻立ちは整っており、二重ふたえの瞳とも相まって本当はイケメンと言えなくもないのだが、それを暗めの性格が打ち消してしまっている。

当然、部活には入っていないし、友達だっていない。唯一の長所は勉強が出来る事だが、あいにく彼はがり勉ではない。むしろ学習時間は少ない方で、大半の時間はパソコンかスマホを見て過ごしている。そうかと言って、オタクと呼べるほど夢中になれる何かも無くて、それまでの彼は毎日をダラダラと過ごしていた。そう、その時までは……。


そんな関口が変わるきっかけとなったのは、高校一年の九月、二学期が始まったばかりの週末の夜の出来事だった。

時刻は、あと少しで日付が変わろうといった頃、ネットサーフィンに飽きた彼は、何気なく立ち上がって自室の中をうろうろとし始めた。思春期真っ盛りの彼は、机に座っているだけで定期的にムラムラしてしまう。だけど、それでベッドに潜り込むのは何だか負けのような気がするから、時々こうしてうろうろする事になるのだ。そんな時は気を紛らわせる対象を常に求めている訳で、彼がカーテンの向こうに目をやったのは本当に偶然だった。

と言うのは、その彼の行為はカーテンの向こうが光ったからなのだが、一軒家の二階にある彼の部屋の窓には雨戸が無く、家の前を車が通り過ぎる度に光が感じられる。ただし、それが稲妻である事だってある訳で、本当を言うと、彼は急な雷を気にしたのである。


一人っ子の彼は、雷が大の苦手だ。さすがに高校生ともなると布団にくるまって耳を塞いだりはしないとはいえ、怖いのは怖い。

ところが、その時に彼が目にしたのは、稲妻とは違っていた。上空から降りて来た銀色の光が、向かいのアパートの中に吸い込まれて行ったのだ。

当然、彼には何が起こったのか分からなかった。だけど、何か異常な事が起こったのは間違いない。


それから彼は、夜中、カーテンの向こうで光が感じられた時に、向かいのアパートを覗き見るようになった。


二度目の目撃は、三日後だった。時刻は午後十時頃、アパートから銀色の光がスーッと外に飛び出して、夜空の向こうに去って行った。

最初はドローンかとも思ったけど、それにしては光が強過ぎる。向かいのアパートは七階建てで、光が出て来たのは五階辺り。どうやら、その付近の部屋が怪しいように思われる。


彼は、その後も観察を続けて行った。その結果、問題の「謎の光」は、「午後十時前後にアパートの五階の部屋から出て来て、日付が変わった頃に戻って行く」というのが分かってきた。

ただし、その時間は日によって前後するし、光が現れない日もある事からすると、恐らく人為的な何かが作用しているように思われた。


それが果たして何なのか、関口には皆目検討が付かなかった。言葉そのままの意味でUFO(未確認飛行物体)ではあるのだが、世間で言う所のUFO(空飛ぶ円盤)とは明らかに違っている。

単純に考えるとしたらドローンの一種なんだろうけど、そうだとしたら、わざわざ何であんなに強く光らせる必要があるのか? それに、そのようなドローンが普通のアパートに出入りしているのは明らかに不自然だ。

そういった事からすると、ドローンという線も薄いのではないかと思われる。


となると、あの「謎の光」は、いったい何なのか? 毎回、いったい何処どこへ向かって行くのか? 何故、あのアパートから飛び出して、同じ所に戻って来るのか? 

関口には、分からないことだらけだった。


関口は、誰かに相談したかった。ていうか、同じ謎を共有する相手が欲しかった。

しかし、陰キャの彼には相手がいない。当時、まだ高校一年生だった彼にとって、打ち明ける相手として思い付くのは、高校の先生か親だけど、そのどちらも相談するのは躊躇ためらわれた。


彼が通う県立岩木高校は、地域で一番の進学校。その為、教師の関心事は成績と進学先が九割で、残りの一割が生徒の素行といった感じだ。

この時代、ほとんどの学校では、直接、教師が生徒に勉強を教えるスタイルではなく、タブレット端末上のAI(人工知能)を相手に学習を進めるEラーニングが主体になっており、分からない所や躓いた所などを教師がサポートするスタイルが定着していた。それに加えて教師の役割も変わり、生徒の相談相手だとか、カウンセリングに重点が移っている。要は、思春期の生徒の悩みを解消し、学習意欲を高める事が問われるようになった訳だ……というのは建て前で、実際はマニュアルとかで決められた事しかしない教師が大半となっていた。

となると、残るは親なのだが、彼の父と母は共に市役所で働く公務員。その彼らもまたマニュアル至上主義な性格で、まともな回答が返って来ないのが見えている。


「そんなくだらないことに関心を持ってる時間があったら、勉強しろ!」

「そうよ。ちゃんと勉強して、良い大学に入って、私達みたいに公務員になるのが一番。うちの市役所に入るんだって結構、難しいんだからね」


両親揃って顔を合せると、「勉強しろ!」としか言わない。他の話題は持ち合わせていないようなのだ。公務員っていうのは、本当に興味の範囲が狭い人達のようだ。たぶん、そういう人間でないと務まらないんじゃないか?

それでも関口のことは、みんなに羨ましがられていた。両親が市役所勤務というのは、岩木のような地方都市では高収入世帯に分類される。それは二人が結婚後まもなくして、市内に大きめの一軒家を購入した事にも現れていた。いくら地方都市でも、新築の一軒家を土地ごと購入するとなると、それなりの収入がないと無理なのである。


とはいえ、あの「謎の光」の事は、自分の心の中だけに仕舞っておくには重すぎる。


関口は、考えた。そして、彼が思い付いたのは、ネットに頼る事だった。

関口は、その為だけにサイトを立ち上げる事にした。彼は、それ用の動画を幾つか撮影し、そのサイトにアップした上で、「『謎の光』の正体は、何なのか?」について、閲覧者ビューアに意見を求めてみた。更に、「同様な現象を目撃した事は無いか?」についても 問い掛けてみたのだった。


この時、関口仁志が立ち上げたサイトの名称は、「福島ナゾの光情報サイト」という。


それは、秋も終わりに近づき、まもなく十二月になろうかといった頃の事だった。




END002


ここまで読んでくださってありがとうございました。

本日は、二話を続けて投稿しており、こちらは二話目になります。

できましたら、明日に投稿する予定の次話も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


尚、ここに登場する「福島県岩木市」は、架空の地名です。


★★★


もし、ご興味ありましたら、以下の別の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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