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165:これからに向けて

◇2040年12月@福島県岩木市 <矢吹天音>


矢吹天音やぶきあまねは、毎年の大晦日に一年を振り返る事にしている。

今年は、去年ほどじゃなかったけど、随分と慌ただしく過ぎて行った。良く歳を重ねる毎に一年が早くなると言うけど、本当にそうだ。


今年を振り返ってみると、大きな出来事が盛りだくさんだったって思う。

その中で、最初に思い付くのは、「ムシ」の子の数が八人から十七人に増えたって事だろうか? そしで天音は、それらの全員を束ねる「クイーン」という存在になってしまったのだ。


その次に来るのは、東山紗理奈ひがしやまさりなという少女と出会えた事だろう。

彼女は、紛れもなく天才だ。それは「ムシ」としてもそうだし、人間としても言える事だ。それなのに周囲の人達は、彼女を「気味が悪い子」と蔑んでいる。彼女は、家族にすら愛されない。

今年、東京で生まれた「ムシ」の子は、もう一人いる。あのサカキバラ商事のご令嬢だ。それを知った時に天音は、確信した。


――来年から、新しい「ムシ」達の物語が東京で始まる!


天音の「クイーン」という立場は、暫定的なものだ。来年と再来年くらいは紗理奈との二人三脚になるかもだけど、その後は紗理奈が中心になってくれると思う。

そうなると天音は、単なるアドバイザーだ。天音は、それで良いと思っている。



★★★



実は、今になって天音には思う事がある。


今年に生まれた「ムシ」は、本当に九人だったんだろうか?


昨日、久しぶりに関口仁志せきぐちひとしとコンビニで会った時、思い切って天音は、その疑問を彼にぶつけてみた。


「つまり、まだ僕らが把握していない『ムシ』の子が、日本の何処どこかに居るかもしれないって事だね?」

「はい。何故か漠然とそう思うんです。と言っても、現実に『ムシ』の子は、福島から徐々に周辺に広がっている訳なんですけど……」

「僕も『ムシ因子』を持つ子が福島を中心に分布してるってのは、確かだと思ってる……あ、『ムシ因子』って言葉は、こないだのオフ会に出席した沖田さんが考えた言葉なんだけど、『将来、「ムシ」になる可能性を秘めた子』って意味だと思ってくれて良いよ」

「……?」

「でもさ、たとえそうだとしても、人は動くんだ」


この時点での天音は、今ひとつ関口の言いたい事がわからなかった。


「えーと、その『ムシ因子』を持つ子は、日本中に存在するという事でしょうか?」

「うーん、そうだと思うんだけど、福島から離れれば離れるほど、因子を持つ子の割合が下がるって事だと思う。だけど、人は動く……」

「動く?」

「つまりさ、『ムシ因子』を持つ子が、親の転勤とかで別の地方に行く事があるって事だよ。そのせいで、思い掛けない所で「ムシ」が生まれる場合だあると思うんだ。特に、三十年前の震災直後に福島から出た人は、相当数いた筈だよ」

「なるほど、そうですね」


とすると、「ムシ」の子は何処どこにでもいる可能性があるのだ。

そして、天音の知らない所で生まれた「ムシ」の子は、間違いなく孤独な筈だし、危険でもある……。


「あの、そういう『ムシ』の子を見付ける手立てはありませんか? 例えば、関口さんのサイトで呼び掛けるとか……」

「それは、無理だと思う」


確かに、そうだ。連絡先を示した所で、自らコンタクトして来るような子がいるとは思えない。


「それよりは、『茶髪の子の保護者会』の方で、日本人なのに金髪の子を探した方が良いとは思うんだけど、今の保護者会にそんな力は無いし、まだその時期じゃないよね」

「まあ、そうですね」


結局、何となく納得できないまま、その時の会話は終わってしまったのだった。



★★★



新年の初日の出を天音は、比較的近場の「ムシ」達と一緒に見た。樫村沙良かしむらさら菅波杏樹すがなみあんじゅ草野美優くさのみゆ小室繭菜こむろまゆなの四人である。

南相馬みなみそうま市の門馬里香は、木幡陽菜こはたひなと過ご松川浦で日の出を見るとの事で、今年は岩木には来なかった。


〈ねえ、天音さん。今年は何人、「ムシ」の子が生まれるか賭けませんか??〉

〈沙良ちゃんは、何人だと思うの?〉

〈二十人でしょうか?〉


そこで二十一人と言ったのは、草野美優だった。


〈何それ、ほとんど私と同じじゃない〉

〈違いますよ。二十一人以上だと、あたしの勝ちです〉

〈だったら、私、二十二人にします〉

〈繭菜ちゃん、それってズルくない?〉

〈杏樹は何人なの?〉

〈私は……、そうですね。二十九人にしましょうか〉

〈うわあ、一気に増えたね〉

〈じゃあ、私は三十人。てか、杏樹ったら、私を三十人に誘導したでしょう?〉

〈あの、天音さん。本当に三十人も生まれたら、凄い事になっちゃうと思うんですけど……〉

〈ふふっ、確かに、賑やかになりそうね〉


そんな話をした翌日、郡山の玉根凜華たまねりんかから、早速、「新しい『ムシ』の子が生まれた」との情報が飛び込んで来たのだった。



★★★



新年になって最初に生まれた「ムシ」の子は、郡山市の大槻由佳おおつきゆかだった。彼女は既に「ムシ」予備軍の一人なので、カミングアウトの必要は無い。むしろ、多くの人達に待望されての「ムシ」発現である。

もちろん、マザーは玉根凜華。由佳が「ムシ」になった直後に、穂積郁代ほずみいくよ国分珠姫こくぶたまきも駆け付けたし、更に翌日の一月三日には、大谷真希と玉根美華、そして穂積家に加えて、宗像むなかた家の面々までもがやって来て大騒ぎになった。

もっとも、一番に喜んだのが凜華だったのは間違いない。


その由佳の翅は、中型ミッドサイズ。身体からだに近い方が白く、そこから外縁部に近付くに連れて青くなるグラデーションだ。更に、その外縁部に向けて放射状の翅脈が走る。

実は由佳も弱視で、特に右目がほぼ見えない。ところが、例によって「ムシ」になった途端、クリアに見えるようになったという。更に、午後になって二本松市の実家に戻っていた安斎真凛あんざいまりんがやって来て、透視の能力について言及した所、由佳も壁の向こうが見える事が判明した。


「これで、凜華ちゃんの所は九人ね」

『はい。全体の半分です』


相変わらず、凜華の役割の重要性は変わらないようだ。



★★★



凜華の次に天音が信頼しているのは、実は紺野鈴音こんのすずねであったりする。毒舌家ではあるけど、何だかんだ言って彼女は賢い。それに彼女には、叔母の菅野彩佳かんのあやかという強い味方がいるのだ。

凜華からの報告の後、天音は鈴音からも別の報告を受け取った。


『天音さん、八巻朔美はちまきさくみですけど、うちで引き取る事に向こうの親族が合意しました』

「あの、それって……」

『養女とかじゃなくて、単に面倒を見るって感じですかね。本当は虐待の事実を公表して完全に親権を奪い取りたい所ですけど、一応、契約書は交わしましたし、たぶん大丈夫でしょう』

「そっか。良かったね」

『はい。学校の方は三月まで自宅学習で、四月からは私や真凛まりんさんと同じ中学に通う事になります。右腕の障碍の事が心配ではあるんだけど、今の朔美ちゃんなら大丈夫って気がするんです』

「そうね。鈴音ちゃんがいれば大丈夫でしょう」

『はいっ!』


鈴音にとっての朔美は、とても大切な妹分。たとえ変な噂とかが立ったりしても、全力で鈴音が守るに違いない。

鈴音は、地元の有力企業の社長令嬢。それに頭の回転が速くて口が達者。彼女に任せておけば大丈夫だろう。



★★★



今年の正月は、さすがに伯父の矢吹勝正やぶきかつまさの一家は来なかった。お盆の追悼会の時、従叔父おじの矢吹勝海(かつみ)にやり込められたのが、どうやら相当に堪えたみたいだ。

その代わり、母方の叔母夫婦が来てくれた。叔母の藁谷葉子わらがいようこは九月に結婚式を挙げて、金成かなり葉子になっていたのだ。ただし、中学では藁谷のままだ。今後、別の学校に異動する際に改姓するらしい。

その叔母の夫は、なんと岩木高校の教師で、金成雅也かなりまさやという。叔母の葉子より二歳年上で、割と穏やかな性格の人だ。天音が岩木高校を受験するのを知っていて、陰で応援してくれている。


そんな風に全てが順調だったのだが、一月三日の夕方になって衝撃の出来事が起こった。地元テレビ局のローカル報道番組で、いきなり「ムシ」の映像が流れたのだ。それも、三十分の枠を当てての特集で、タイトルは「福島の怪奇、謎のムシ現象を追う!」。

「ムシ」という言葉を使っている辺り、きっと関口のサイトを知っている人がいるんだろう。案外、彼の一昨年おととしのオフ会に来た菊地という人が絡んでいるのかもしれない。

番組の内容は、どちらかと言うと視聴者の恐怖を駆り立てるスタンスで編集されていた。当然、「ムシ」が何者であるかは謎のままだ。一度だけ「人間の女の子が化けた」というコメントがあったが、あくまで「噂」としての扱いだった。


「いっそ、名乗り出た方が良くないか?」

「駄目よ。それこそ、どんな対応をされるか分からないわ」

「私もそう思う。当面は静観すべきね」


そうこうするうちに、スマホに「ムシ」達からのメッセージが次々と届くようになり、天音は応対に忙殺されるようになった。

すると、関口からの着信があった。


『天音ちゃん。大変な事になったね?』

「そ、そうですね」

『まあでも、今回はローカル番組だから、今すぐどうこうって事にはならないと思う。たぶん、全国ネットで取り上げられるのは、もう少し先なんじゃないかな』

「だと良いんですけど」


最初こそ関口は焦った感じだったが、天音が怯えた声を出したからか、途中から落ち着いた声音になった。

とはいえ、深刻なのは間違いない。


『しかし、これで「ムシ」達を取り巻く状況が新たな局面に入ったって感じだよね』

「あの、私は、どうすれば……」

『大丈夫。今の天音ちゃんは、一人じゃないんだ。どうしたら良いかは、これからみんなで考えて行こうよ』

「は、はい!」


関口の言葉を聞いた天音は、やがて訪れるであろう荒波を前に、必死に心を奮い立たせていたのだった。




END165


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


これにて、第一部の本編は終了となります。この後、おまけの人物紹介と番外編を予定しています。

第二部は、主に東京を舞台にした少女達のネットワーク拡大の物語になる予定です。引き続き読んで頂けましたら、幸いです。


尚、評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、宜しくお願いします。


★★★


以下の作品もぜひ覗いてみて下さい。


ハッピーアイランドへようこそ

※完結しました!

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

※別途、番外編を予定しています。

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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