102:「ムシ」逹の自己紹介(2)
◇2039年12月@福島県猪苗代町 <矢吹天音他>
「では、中通りの『ムシ』逹の最後に、郡山の中学一年生、玉根凜華が変異させて頂きます。ですが、その前に……」
凜華は、そこで一拍置いてチラっと矢吹天音の方に目配せしてから、その先を続けた。
「少しだけ私の方で、『ムシ』逹の話をさせて頂きたいと思います」
ここで「ムシ」達の事を話すのは、事前に天音と打ち合わせていた事だった。
凜華は、落ち着いた口調で説明を始めた。
「まだ日本の何処か、もしくは世界の何処かに私達の仲間がいる可能性は捨てきれませんが、少なくとも私達が知る限り最初に『ムシ』になったのは、岩木市の矢吹天音さんです。後程ご本人からお話しがあると思いますが、去年の五月末だったと聞いています。その後、二人目が二本松の安斎真凛で昨年の九月に誕生。そして三人目が昨年の十二月に生まれました。それが私、玉根凜華です」
ホール内は静まり返っている。意外にも、ここいいる全員が真剣に凜華の話に耳を傾けてくれているようだ。
「天音さんと真凛が『ムシ』になった時は、それぞれ一人だったそうです。きっと、すっごく怖かったんだと思います。だって、急に自分の身体が光り出して、自分が自分でなくなっちゃう感覚なんですから、怖いに決ってます……。だけど、私の場合は、安斎真凛がいてくれました。もちろん、その時まで真凛と私は全く面識がありませんでした。だけど、真凛が言うには、『誰かに呼ばれてる』って感じがしたそうなんです。それで、居ても立っても居られなくなって、『ムシ』になって飛んで来たそうです」
凜華は、そこでチラっと真凛の方を見てから先を続けた。
「その後、新しく『ムシ』になる子の傍には、必ず誰かが付き添って励ましてあげるようにしています。私達は、そうやって新しく『ムシ』になる子を見守る『ムシ』を『マザー』、見守られる方の『ムシ』を『ドーター』と呼ぶことにしています。どうやら、この習慣は『ムシ』としての本能みたいなものだと私達は考えています。私達『ムシ』は、自分達が単なる仲間ではなく、家族に近い存在だと思っています。現在、『ムシ』の数は八人まで増えましたが、皆が、とても大切な家族なんです」
今度、凜華は天音の方を見た。彼女は無表情だったけど、凜華は気にせず先を続けた。
「さて、その八人の『ムシ』逹ですが、いくつかの共通点があります。まず、『ムシ』になった時期ですが、全員が十二歳になって少し経ってからです。それから外見ですが、髪の毛が金髪か淡い茶髪。それと色白で、痩せっぽちで小柄。まあ、真凛なんかは食べてばかりなんで、将来は分かりませんけど……」
再び真凛の方を見ると、心話で〈ひっどーい〉と呟いで睨んできた。だけど、本当なんだから、そう言われたって仕方がない筈。
「ですが、先程からご覧になられている通り、翅の大きさや色とかはバラバラです……。実は、関口さんの『福島ムシ情報サイト』上で私達には、それぞれに名前が付けられています。例えば、真凛は『ミズイロ』、鈴音ちゃんは『シナモン』、珠姫ちゃんは『シジミ』もしくは『ブルーベリー』、郁代ちゃんは『ジャスミン』、そして私は、『ジャノメ』です」
そこで凜華は、「では、その『ジャノメ』の翅を今からお見せしましょう」と言い残して、サッと変異した。
そうして現れたのは、丸みを帯びた琥珀色の翅。サイズは、鈴音の『シナモン』に次いで大きい。翅にギザギザが無い分、見た目は、むしろ『シナモン』よりも大きいかもしれない。
その翅には、薄っすらと細かい鱗状の翅脈が見て取れる。そして、その中央に位置するのは、巨大な赤い蛇の目の文様だった。
誰かが「凄い!」と呟いて、周囲の人達が一様に頷いたのを見て、凜華は素早く変異を解いた。途端に金色の光の粒がフロア中に舞い、ブランデーの香ばしく甘い匂いが漂ってくる。
その凜華に、「じゃあ、里香ちゃん、お願い」と言われて、次の少女が前に出た。
「先程の凜華の次に『ムシ』になった南相馬市の門馬里香です。えーと、私は今年の五月に『ムシ』になりまして、その時は真凛と凜華が来てくれました。だけど、二人とも私と同じ中学一年生なんで、正直、マザーって感じじゃないんですよね……。あ、でも、私は早生まれなんで、『ムシ』になるのが遅くて当然なんですけど……。私の翅は、『ブルー』って呼ばれています」
その直後に現れたのは、目が覚めるような青い翅。たぶん、熱帯とかにいそうな鮮やかな色だ。それほど大きくはないけど、間違いなく目立つ。
彼女が変異を解いた後は、銀色の光と共に、ペパーミントの爽やかな臭いがした。
その次に前に出たのは、唯一、福島県外の少女で、樫村沙良。彼女も小学六年生だ。
「……私は、茨城県の高萩市に住んでまして、今年の七月に『ムシ』になりました。マザーは天音さんで、その後も天音さんには大変良くして頂いてます。えーと、私の翅は真っ白で、『モクレン』って言います」
沙良の翅は本当に真っ白で、文様は無く翅脈もほとんど見えない白一色。大きさは、さっきの『ブルー』と同じくらい。
変異を解いた後は銀色の光が舞い、フルーティな香りが漂った。
そうして最後に前に出たのは、最初の「ムシ」の矢吹天音。
「ムシ」の子は綺麗な子ばかりだけど、今の天音は別次元の美しさだと思えた。
金髪で色白なのは、言わずもがな。小柄で華奢ではあるものの、整った顔にスラリと伸びた手足に均整の取れた身体付き。未だに成長途上の少女に特有の、危ういバランスの上に成り立つ奇跡のような存在、それが今の天音である。
それは、他の少女達よりも彼女が、少しだけ年上なのが理由の大半かもしれない。それと、今までの彼女が常に抑圧されていて、ようやく本当の自分を見付けた事もありそうだ。
「岩木市の矢吹天音です。現在は中学二年生で、『ムシ』逹の中で最も年長者になります。先程、凜華の方からも紹介がありました通り、去年の五月末に「ムシ」になりました。その時は、たった一人で夜な夜な岩木の海岸を中心に飛び回っていました。空が飛べるのは素敵な事ですけど、正直言って淋しかった。それが今は数多くの仲間達がいて、とても幸せです。私は一人っ子で、ずっと姉妹というのに憧れてきました。ですので、多くの妹が得られた気分です。前々から私は、『「ムシ」は皆、ひとつの家族』だと思って居ます。今後とも、私の大切な妹達の事を宜しくお願いします」
そこで、パチパチと拍手が沸き起こった。それが少し治まった所で、天音は先を続けた。
「それでは、私も少しだけ変異させて頂きます。先程から話題に上がってます翅の呼び名ですが、私のは『ムラサキ』です」
その直後、天音の身体が光を纏い、一瞬で薄紫の巨大な翅が現れた。良く見ると、外に向かって黒く細い翅脈が走っており、色合いも端に行くに従って濃い紫になる。形状は丸みを帯びた一般的なチョウの翅。だけど、そのサイズは、凜華の『ジャノメ』と同じ位に巨大だ……。
誰もが見惚れていたのは一瞬で、気が付くと辺り一面に眩い光の粒が舞っており、強いラベンダーの香りがホール中に立ち込めている。そして光が弱まると同時に現れたのは、元の金髪少女に戻った天音だった。
すると、彼女の左右に他の少女達が並び、八人が揃ってお辞儀する。再び拍手が沸き起こる中、あちこちで好意的な会話が囁かれ始めた。
「なんか、凄く派手な演出だった気がするなあ」
「あら、全部、本物だったわよ」
「そうなのか?」
「当たり前でしょう。あなただって、あの子が変異した所を前に見たでしょう?」
「見たけど、正直、そんなに覚えてないんだ。あの時は、驚きの方が勝っていたからね」
また、別の所では……。
「いやあ、淡い茶髪の子が八人も揃うと、何だか迫力があるなあ」
「今までは、うちの子だけが変わってると思ってましたけど、同じような子がいて、本当に良かったです」
「その気持ち、とても良く分かります」
更に、別の所では……。
「しかし、今のは出し物としても、最高のエンターテイメントだったよなあ」
「あなた、私は、うちの子を見世物にするのには反対ですからね」
「分かってるよ。それは、俺だって嫌だ。だけど、綺麗だってのは間違いないだろう?」
「いや、むしろ大半の人は恐怖が先に立つか、気味悪がると思いますよ。残念ですけど……」
そんな風にホール全体が賑やかになった所で、デザートを載せた大皿が次々と運び込まれて、後ろのテーブルの上に並べられて行った。
そうして、参加者達はデザートを手にしながら、再び歓談を始めたのだった。
END102
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「湖上の空中演舞」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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