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101:「ムシ」逹の自己紹介(1)

◇2039年12月@福島県猪苗代町 <矢吹天音>


「茶髪の子の保護者会」主催によるクリスマスパーティーは、各自が好みの料理をを手にしながらの歓談へと移っていた。


メイン会場となった大ホールの後方に置かれたテーブルには、大皿に盛られた様々な料理が置かれていて、各自が紙皿に好きな物を載せて食べられるようになっている。

育ち盛りの「ムシ」達にとっての一番人気は、やっぱり握り寿司。猪苗代町にある老舗の寿司屋で握ってもらった物だという。紺野こんの家主催のパーティーだと、この場に職人を呼んで目の前で握ってもらうそうだが、さすがに今回は見送ったとの事。それでも、誰もが充分に大満足だった。

その次は、何と言ってもお肉。チキンの丸焼きに、ローストビーフ、フライドチキンなどが置かれている。後は、各種の中華料理にスープとサラダ、焼きそば、スパゲッティ等と種類は豊富だ。


お酒は、ビールの他にウィスキー、ワイン、焼酎、日本酒と幅広く揃えられている。大半は、この別荘に常時貯蔵されている物で、紺野家からの提供との事。今回、紺野家には場所と酒類の他にも一部の食材まで提供して頂いており、本当に有難い。

子供達の飲み物は、もちろんソフトドリンク。でも、甘いのだけじゃなくて、烏龍茶やソーダ水とかも準備してもらっていた。

それらの飲み物は料理とは別のテーブルにあって、セルフサービスが基本である。缶ビールやジュース類は、テーブルの下に置かれたクーラーボックスにも入っていて、テーブルの上のが無くなったら、そっちから取る事になっていた。



★★★



最初の「ムシ」であり、「ムシ」達の仲で最年長の矢吹天音やぶきあまねは、一通り料理を堪能した後、今日のパーティーで一番の立役者である菅野彩佳かんのあやかと、簡単に立ち話をしていた。そこに現れたのは、矢吹正史やぶきまさし樫村英司かしむらえいじだった。この二人は、実は「茶髪の子の保護者会」の会長と副会長である。

彩佳に話しかけたのは、正史だった。


彩佳あやかさん。今日は準備の方、大変お疲れ様でした」

「いやいや、今回の私はホスト役ですから、当然ですよ」

「でも、こんなたくさんのお料理、どうされたんですか?」

「ふふっ、意外と美味しいでしょう? 実は、大半がケータリングなんです。この別荘で姉夫婦の会社が度々パーティーをやっていて、そっちのつてが色々とあるんですよ。小椋おぐらさん達にも手伝ってもらって自前で用意したのは、サラダとスープ、焼きそばにスパゲッティくらいでしょうか……。あ、そう言えば、今回も真凛まりんちゃんが大活躍だったんですよ」


前回のキャンプの時は、安斎真凛が作った焼きそばが美味しいと大好評だった。それが今回は、焼きそば以外にも色々と手伝ったのだという。

そこで、正史と英司が玉根凜華たまねりんかの両親の方へ行ってしまい、代わりにやって来た紺野鈴音こんのすずねが、したり顔で喋り出した。


「まあ、真凛さんなら、当然ですよ。もっと凝った料理も作れますけど、一番上手なのはカレーですかね。市販のルーにあれこれ加えて、そこらのお店で食べるよりも、ずっと美味しいですよ」


すると、案の定、近くにいた真凛まで会話に加わって来た。


「あのさあ、アタシの事なのに、何で鈴音が偉そうなの?」

「当然です。私は真凛さんの保護者みたいなものですから」

「ええーっ! それ、初めて知ったんだけど-。凜華は、知ってた?」


今度は、真凛が近くにいた玉根凜華に声を掛けたのだが、その凜華に「当然でしょう?」と言われて唖然としている。それに追い打ちを掛けたのは、国分珠姫こくぶたまきだった。


「あたしも知ってましたよー。料理の腕前だけは別みたいですけど、真凛さんのイメージって、基本は『残念なお姉さん』ですもん。鈴音ちゃんがいなかったら、生きて行けないんじゃないですかあ?」

「もう、最近の珠姫って、鈴音に似てきたんじゃない?」

「いやいや、あたしなんか、毒舌家の鈴音ちゃんの足下にも及びませんって」


鈴音が「えっへん」と胸を張った所、叔母の彩佳からの叱責が飛んだ。


「鈴音ちゃん。あなた、料理だけじゃなくて、掃除も洗濯も真凛ちゃんに頼りっぱなしでしょうが」

「えっ、それって本当なんですか?」


珠姫の問い掛けに答えたのは、凜華だった。


「本当だよ。真凛って、こう見えて家事全般は得意みたいなんだよね」

「ふふっ、アタシの場合、親が頼りになんないから、仕方が無かったんだけどねー」


そこで、珍しく声を発したのは、穂積郁代ほずみいくよだった。


「うん、真凛さんって、ドジだけど意外と親切」

「確かに、面倒見は良いですけど、ウザいって思う事の方が多いかも」

「うーん、アタシ、郁代にも珠姫にも褒められてる気がしないんだけど」


そこで、さっきから「ムシ」達のやり取りを見ていた天音が、ようやく口を開いた。


「ふふっ、みんな、仲良しで良かったわ」

「うーん、天音さんの言葉が、一番ビミョーかも-」

「あ、彩佳さんが呼んでるみたい……。どうやら、私達の自己紹介が始まるようね。行きましょう」


最後は天音の言葉で「ムシ」達全員が前方の壇上に上がって、横一列に並んだ。



★★★



この後、「『ムシ』になっての湖上での空中演舞」というイベントが控えている為、ここでの自己紹介は、あまり大袈裟にはしない方針である。

だけど郁代の提案で、短いスピーチの後に「ムシ」になって、翅を見てもらう事になっていた。それは空中演武の際に、どの「ムシ」が誰なのかを、保護者の方々に知っておいてもらう為だった。


最初に天音が前に出て、これから自己紹介を始める旨を伝えると、待ち切れぬとばかりに安斎真凛が前に出た。


「アタシは、二本松市(だけ)温泉出身で、今は福島市の鈴音の所にお世話になっている安斎真凛、中学一年生でーす」


そんな簡潔な(いい加減な)自己紹介の後、真凛はサッと「ムシ」に変異する。

透き通るのような薄い水色の翅。良く見ると青く細い翅脈が無数に走っていて、丸みを帯びた翅の縁もまた青で彩られている。大きさは凜華の翅よりも小さいけど、室内で見ると巨大だ。このホールは天井が高いから翅の全体が見えて、余計に大きく感じる。うーん、綺麗。

その真凛が変異を解くと、銀色の光の粒がホール全体にバラ撒かれ、爽やかなクールミントの香りが周囲に広がった。この匂いは何となく清々しい気分になるから、天音も気に入っている。


ここにいる人達は、全員が誰かの変異した姿を見ているからか、誰も怖がったりはしない……と思ったら、小椋夫妻は初めてだった……。だけど、その二人もうっとりした表情をしていて、天音は安心した。

この二人は「絶対に、ここで見聞きした事を誰かに漏らしたりはしない」と、彩佳が太鼓判を押してくれているので大丈夫だ。


「じゃあ、次は私が行きまーす。福島市から来ました紺野鈴音、小学六年生です。今は、さっきの真凛さんと一緒に住んで、面倒を見させて頂いています」

「ちょっ、ちょっと、それって逆でしょうが。アタシが鈴音のお世話をしてるんじゃん」


隣りの真凛が、すかさず激しいツッコミを入れる。すると彩佳がパンパンと手を叩いて、「あなた達、こんな所でケンカしないの」と二人を諫める。更に天音が、「あなた達が仲良しなのは分かったから、鈴音ちゃん、早く変異しなさい」と言ったので、ようやく鈴音が光を纏って見せた。

咄嗟に、今度はどよめきが起こった。先端が高い天井に隠れる程に巨大だったからだ。彼女の翅は形状が変わっていて、周囲がギザギザだ。色は薄い茶色で細かい翅脈が縦横に走っている。

天音が心話で、〈これはこれで、素敵なのよね〉と呟くのを聞いた真凛が、さっきのケンカを引き摺ってか、〈ただの枯れ葉じゃん〉と切り捨てる。だけど全然そんなじゃなくて、落ち着いたシックな感じに巨大さ故の風格がある。

鈴音が変異を解くと、今度は金色の光の粒がキラキラと舞い上がり、周囲にふわっとシナモンの香りが漂った。


「じゃあ、次はあたしが行きまーす。えーと、本宮もとみや市のラーメン屋の娘で―、国分珠姫って言いまーす。鈴音ちゃんとおんなじ小学六年生でーす。宜しくお願いしまーす」


そう言って珠姫は、パッと丸っこい青紫の翅を出したかと思うと、その場でクルっと一回転してサッとお辞儀をする。まるでアニメの魔法少女みたいな動作だ。

さっきの鈴音と比べると翅のサイズは三分の一程度だけど、その分、ピカピカと眩しくて、しっかりとした存在感がある。それに、小さいとは言っても珠姫の背丈が低い分、充分にバランスが取れている感じだ。

その珠姫は、翅を動かして天井近くに舞い上がると、今度はクルっと宙返り。そっと床に舞い降りた所で、サッと変異を解いた。途端に銀色の光が舞って、フルーティな甘い匂いが漂い出す。

「ムシ」になってまだ三週間程度だと言うのに、随分と翅の扱いに慣れている感じだ。

天音がパチパチと拍手をすると、それがホール全体に広がった。


〈天音さん、なんか、私の時と違うんですけど〉


天音は、真凛の文句を〈そんな事ないから〉と軽く交わしてから、「えーと、次は郁代ちゃん、良いかな?」と訊いた。


「はいっ!」と元気良く返事をしたのは、須賀川市に住む穂積郁代。やはり小学六年生で、普段は大人しくて何処どこかほんわかした少女だ。ちゃんと見れば可愛い子なのに、何故か目立たない。その為、彼女も淡い茶髪にも関わらず、希薄な存在感でイジメを回避してきたのだという。

そんな彼女の翅は、髪の毛と似た黄金こがね色。本来、目立つ色の筈なのに、光が薄いのか夜空にいても見え難い。

変異を解いた後は、淡い光と微かなジャスミンの香りが残り、何となく落ち着いた気分になれるのが特徴だ。


その郁代は、きちんと身体からだを折ってお辞儀した。まだ小学生なのに礼儀正しい所は、ご両親のしっかりした躾の賜物なんだろう。そして、当然のように起こる拍手。

それが治まり切らないうちに、凜華から天音に、〈次は、私が行きますね〉という心話が送られてきた。天音は、〈じゃあ、凜華ちゃん、宜しく〉と答えてから、軽く頷いてみせた。


さあ、「ムシ」達の自己紹介も、いよいよ後半に突入である。




END101


ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。


次話は、「ムシ」逹の自己紹介の後半になります。

できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。


また、ブックマークや評価等をして頂けましたら大変励みになりますので、ぜひとも宜しくお願いします。


★★★


本作品と並行して、以下も連載中ですので、できましたら覗いてみて下さい。

(ジャンル:パニック)


ハッピーアイランドへようこそ

https://ncode.syosetu.com/n0842lg/


また、ご興味ありましたら、以下の作品も宜しくお願いします。


【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~

https://ncode.syosetu.com/n6201ht/


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