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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第5話 俺とお前のオムライス 7 ―彼となら、何かを変えられるかも―

 7


「お邪魔します」


「へへっ! そんなのしなくて良いって! 汚い部屋だし!」


 オムライスを食べ終えると、勇気は正義の部屋へと連れていかれた。

 正義の部屋は勇気の自室とは違い畳敷きの部屋である。だから正義の部屋も勇気にとっては新鮮な空間であり、その瞳は再び輝く。


「へへっ! 俺の部屋も勇気にとっては珍しいのか?」


「あっ……う、うん。凄く良い! この部屋凄い良いよ!」


「すごく? へへっ! そんなにぃ? ただの部屋だぜ?」


 正義からしたらそうだろう。

 でも、勇気からしたら違うのだ。

 部屋の隅には漫画しか入ってない本棚、窓際には玩具やゲーム機だけが置いてあって勉強した欠片も無い勉強机、畳の上には雑に置かれたランドセル……正義自身の意思がこの部屋には充満していた。

 放っておいても片付けや掃除をされてしまう勇気の部屋とは全然違うのだ。子供だけの空間という感じがして、勇気の瞳は輝き続ける。


「うん、凄いよ!」


「そう?」


「うん!」


 それから約一時間程は、山下商店で買った駄菓子をつまみに二人は漫画やゲームの話に興じた。

 これまで別々の町で暮らしていた正義と勇気でも、やはり同い年は強い。ハマっている物は同じだった。

 そして、その話題が落ち着き始めた頃、正義はある話題を切り出した。それは何の気なしに。


「なぁ、勇気。なんで山田と喧嘩してるんだ?」


 それは山田とのいざこざについて。『今日、この話題を出そう』とは正義は一切考えていなかった。けれど、気が付いたら正義は山田の事を口にしていた。『アイツと仲が悪くても、勇気は俺の友達!関係ないね!』と思っていたのに。


「……」


 正義に問い掛けられた勇気は一瞬答える事を躊躇った。


「あっ! やっぱダメだった? 聞いたらダメだったか?」


 勇気の躊躇いに幼い正義も流石に気が付いた。正義は焦り、「やっぱ今の質問なし、なしなし!!」と両腕でバツマークを作って撤回しようとするが、勇気が「いや……」と呟く。


「ダメ……と言うか」


 山田とのいざこざは勇気にとってはとても陰鬱な話だった。だから母親にも話していない。でも、正義の顔を見ていると勇気は思えてくるのだ。『正義くんには打ち明けても良いのではないか?』と― ―勇気は父を亡くした日から喜怒哀楽の喜と楽を失くした日々を過ごしていた。それが、正義と出会った昨日からは失った感情が戻ってきていたのだ。連日連夜見ていた《《死に追われる悪夢》》も昨夜は見なかった。だから勇気は思う、


 ― 彼と一緒なら……何かを変えられるかも知れない


 ……と。思うと、勇気は決めた。正義には打ち明けようと。山田との間に何があったのかを話そうと。


「良いよ。話すよ。正義くんには聞いてもらいたいから――」


「えっ……良いの?」


「うん、あのね、まずは俺の父さんに何があったのか、から……」


「勇気の父ちゃん??」


「うん……俺の死んだ父さんの話だよ」


 ―――――


 勇気の父=青木純の最後の事件は、昨年の秋から今年の二月にかけて起きた連続強盗殺人事件であった。資産家の老人ばかりを標的にしたこの事件はメディアでも大々的に取り上げられ、近年稀に見る大事件となっていた。そして、この事件を解決へと導いたのが、他でもない、青木純だった。


 青木純は綿密な捜査によって犯人グループの主犯格を特定し、二月某日、遂にグループの潜伏場所を突き止めた。

 だが、純がやっと解決の糸口を見付けたこの頃、メディアによる事件の報道は、半年近くにも渡り犯人を逮捕出来ずにいる警察への批判に徐々にシフトし始めていて、このメディアの流れに警察上層部はかなりの焦燥を見せていた。その為、彼らは純が犯人グループの潜伏場所を突き止めたと聞くと『これ以上批判の的になれば市民からの信頼を失う』と、純達に犯人グループの速やかな逮捕を命じた。


 しかし、純は首を縦には振らなかった。純は懇願した。『一週間の猶予をくれ』と。しかし、この願いは受け入れられず、純が潜伏場所を特定した翌日の十七時には警察は犯人逮捕を実行する為に潜伏場所への突入を開始した。

 警察が突入した事はすぐに犯人グループにも知られ、主犯格の男はグループ内にいた少年を人質に取り、逃走を図った。

 純の調べによると、事件を起こした犯人グループは元々は特殊詐欺を行う目的で集まったグループであり、そこには犯罪グループとも知らずに『高額バイト』という甘い言葉に誘われて加入した高校生がいた。それが主犯格の男が人質に取った少年だった。


『一週間の猶予をくれ』


 純が懇願したこの言葉の意味は、この少年の身の安全を確保してからの犯人グループの逮捕を意図しての要請だったのだ。


 純の捜査により少年は巻き込まれる形ではあるが事件に参加してしまった事を後悔し『グループを抜けたい』と度々友人に助けを求める連絡をしていた事が分かっていた。更にグループを抜け出したいと考えている事を仲間に知られ、暴力を受けている事も。

 だからこそ純は慎重な行動を取りたかった。『もしも下手を打てば、少年を犠牲にしてでも奴等は逃走を図る筈だ……』と考えていたから。

 それは石塚やその他の刑事も同じ考えでいた。


 だから一週間が欲しかった。


 何故なら、潜伏場所に身を潜める主犯格達の食品や日用品の買い出しをする事が少年の主な仕事になっていたからだ。買い出しの曜日や頻度はランダムであるが、一週間のうち一日は必ず買い出しに行かされていると少年が友人に送ったメールの中で判明していた。

 だから一週間。買い出しに出た時であれば、少年の安全の確保は容易であり、その上でのグループの潜伏場所への突入が可能だったからだ。

 しかし、上層部はその事情を知りながらも純の願いを破棄し、純が危惧していた通り、少年は人質となってしまった。そして主犯格の男を追った純は、主犯格の男が持っていた銃により右大腿部を撃たれ、その日の夜に命を落とした。


 ―――――


「でも……父さんは意識が朦朧とした中でも、犯人を逮捕して、人質の高校生を助けたんだ」


 話し終えた勇気は、冷たいジュースで渇いた喉を潤した。


「そっ……か」


 勇気の父が刑事だった事も知らずに話を聞き始めていた正義は、想像していなかった壮絶な内容に力が抜けてしまった。

 勇気に合わせてジュースの入ったコップに手を伸ばすも、甘いジュースを飲む気にはならない。


「勇気の父ちゃん、スゴい人だったんだね……」


「うん……」


 話し終えると勇気も力が抜けてしまった。話している間は正義に詳しく話そうとすればする程に全身に力が入っていったが、話し終わった後、一気に力が抜けた。


「ねぇ、でも勇気? 勇気の父ちゃんの話と、山田との喧嘩って何か関係があるの?」


 時刻はもうすぐ十七時になる。学校で決められた門限が迫っていた。けれど、勇気の話を聞いた正義の頭には話を聞く前よりも、もっと大きな疑問符が浮かんでいた。まだ解散するには早過ぎる。


「あっ……そっか。そうだったね……あのね」


 勇気は正義に打ち明けた。山田が死んだ父を『負け犬』と蔑む事を。


「えっ、なにそれ! なんで勇気の父ちゃんが負け犬なんだよ! だって、勇気の父ちゃんスゴい人じゃん! 犯人も逮捕して、人質も助けて!」


「うん……」


 勇気は正義の言葉に小さく頷いた。


「でも……もしかしたら、アイツにとっては死んでしまった事が『負け犬』っていう事になるのかも」


「そんなぁ!」


 正義は『異議あり!』と言う様に胡座をかいたまま右手でドンッと畳を叩いた。


「そんなの絶対におかしいって、勇気の父ちゃんは負け犬なんかじゃない! 死んじゃったからって何だよそれ!!」


「うん……俺もそう思う、だから悔しくて」


「分かる! 分かるぜ、悔しいよな! 俺も父ちゃん死んでるから分かるよ! 勇気の悔しい気持ち!!」


 正義は再び畳を叩いた。山田に対する怒りが沸々と沸いてきて収まらない。

 正義の怒りが増していく理由は勇気に共感出来る経験を正義自身もしていたからだ。

 しかし、勇気は知らなかった。正義の父親も他界していると今はじめて知って、勇気は「え……?」と驚いた。


「正義くんも……お父さんを亡くしてるの?」


「うん!!」


「そ、そうなの……?」


 正義は歯をギリギリと鳴らしている。この表情だけで正義の怒りが物凄いと物語っているが、勇気は正義の怒りを収めたくなった。正義の境遇を知った勇気はどうしても聞きたい事が出来たからだ。時刻は十七時に迫っている。だけど関係ない。


「あの野郎! 今度こそ許さないぞ!!」


「ちょ……ちょっと、ねぇ、落ち着いてくれないかな?」


「いや、腹が立った! 俺、今すぐ山田んとこに行ってくる!」


「ま、待ってよ!」


 正義が赤いパーカーの袖を捲りながら立ち上がると、勇気も合わせて立ち上がった。


「俺、正義くんに聞きたい事があるんだ! 俺の悩みに関してなんだ!」


「え……? なや……み?」


『悩み』という言葉を正義は初めて聞いた訳ではないが、怒りに染まった脳みそではすぐには理解出来なく、正義の動きは一瞬止まった。


「そうなんだ……正義くんに聞いてほしいんだよ」


 勇気は畳の上に置いたコップを拾い上げると、ジュースを全て飲み干した。話をするスイッチを入れる為だ。


「お……俺に?」


 正義の瞳に映る勇気の顔は真剣そのものだ。その顔を見ていると段々と正義の心の中の怒りも消えていく。

 子供ながらに正義は思った。『今は怒りを燃やしてる場合じゃない。友達の話を聞いてあげる場合だ』と。


「う……うん。良いけど、なに?」


「座って話しても良いかな?」


「う……うん、もちろん」


 正義と勇気はタイミングを合わせた様に同時に畳の上に座った。

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