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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第5話 俺とお前のオムライス 6 ―オムライスってヤバイよな!―

 6


「へぇ……青木がねぇ」


「うん、そうなんだぜ隆! 五百円分もだぜ! スゲーよな!」


 正義の通学路は勇気の通学路とは反対側で、クラスメートの中でも特に仲が良い、隆や紋土や拓海と同じであった。彼らと同じであるから勇気とは違って、急ぐではなくダラダラと喋りながらの下校である。今日の話題の中心は漫画やゲームではない。『昨日、正義と勇気に何があったのか』である。


「何か信じらんないなぁ。昨日あんなにいがみ合ってたのに」


 自分達が帰った後の出来事を聞いて隆が言った。


「それは俺も驚いたよ! でも、ちゃんと話してみたら勇気は全然良い奴だったんだ!」


 正義はニカッと笑って返した……が、そんな正義に拓海が言ってくる。


「でもさぁ正義、あんまり青木とは仲良くしない方が良いと思うよ……」


「え?! なんで?!」


 皆の先頭を歩いていた正義が振り返ると拓海は顔をしかめていた。しかめた顔で拓海は「だって心配なんだよね……」と返す。


「心配? 何がだよぉ? 俺が勇気と仲良くなっちゃいけないの??」


 正義は勇気と友達になった事を否定されたと思って唇を尖らせた。そんな正義に拓海は「いや、だってさ……」と顔を俯かせる。


「アイツ、転校してきてから毎日、山田と喧嘩してるんだぜ……絶対目を付けられてるよ」


「目ぇ? どういう意味?」


『目を付けられる』……正義にはこの言葉の意味が分からない。


「山田にターゲットにされてるって意味だよね?」


 拓海に代わって答える形で質問をしたのは紋土だ。

 短い坊主頭の紋土は頭を撫でながら色黒な顔を更に黒くさせていた。ひょろ長い体も縮こまって見える。


「山田ってさ、いっつもイジメのターゲットを探してる……そんな奴じゃんか。だから、拓海が言ってるのはそういう意味だよね?」


「うん……」


 拓海は紋土の質問に頷いた。


「それじゃあ、勇気がイジメられるって事?」


「それもそうだけど……」

「うん……」


 紋土と拓海は二人揃って正義を指差した。


「俺?」


 正義も自分自身を指差す。だが、正義はすぐに笑った。


「へへっ! それなら大丈夫だよ! 俺、山田とは何度も喧嘩してるし! それに、もし勇気がイジメられそうになったら、俺が山田をぶっ倒ぉ~~す!」


 そう言うと正義は腕を大きく広げて飛行機みたいな形で走り出した。


「なぁ! 愛!!」


 すぐ近くを歩く集団の中に愛を見付けたのだ。

「え? 何が?」と聞かれるが、正義は「へへっ!」と笑うのみで意味を答えなかった。


 突然走り出した正義を隆たちは追い掛けてくれた。しかし、彼ら三人は『今日さ、勇気と約束があんだよ! 三人も来るか?』という正義の誘いには乗ってはくれなかった。

 元々は勇気と二人の約束であるから正義も無理強いはしなかったが、少し寂しい気持ちは抱いた。でも、正義は帰宅するとすぐに出掛けた。向かうは山下商店。勇気との待ち合わせ場所だ。


 ―――――


 正義と勇気は山下商店で合流すると、少しだけ駄菓子を買い、すぐに正義の家へと向かった。


「ここがキミの家?」


 正義の家の前に立った勇気が聞くと、正義は「うん! ボロいけど気にしないで!」と答えたが、勇気が気になったのは家の古さではない、その外観だ。


「いや、古いとかそういう事を言いたいんじゃないんだ。正義くんのおウチってお店を経営しているの?」


「けいえい? う~ん……難しい言葉はよく分かんないけど、俺ん()は定食屋をやってるぜ!」


「定食屋さんかぁ」


 正義の家は二階建ての一軒家であるが、その一階部分で定食屋を経営しているのだ。店名は『赤井食堂』。正義の言葉にあった通り、少し外見はボロく、良く言えば"昔ながらのレトロな食堂"である。


「勇気も食べに来いよ! 旨いぜ!」


 正義はニカッと笑いながら『準備中』と掛けられた曇りガラスの引戸をガラガラと開けた。


「母ちゃんただいま! さっき話した友達連れてきたぜ!」


「あいよ!! 入りなぁ!!」


 正義が店内に向かって声を張ると、それ以上に大きな声が店内から聞こえた。


「あ、こ……こんにちわ。はじめまして」


 逆に勇気の声はとても小さい。


「へへっ! ほら、入って!」


 勇気は初めて会う友達の親に緊張しているのだが、正義はそんな勇気を気にしない。勇気の手を引き、自宅へと入っていく。


「あ……待って、まだ心の準備が」


 と言いながらも、勇気は店内に足を踏み入れた。


「あっ!!」


 直後、勇気の瞳は輝く。


「なにこれ……すごい!!」


 勇気は感動を覚えたのだ。

 何故なら勇気は、"昔ながらのレトロな食堂"に訪れた事がないからだ。店内に有る物全てが、勇気とっては『はじめまして』な物ばかり。勇気の気持ちはワクワクと沸き立っていく。


「わぁ……」 


 店内に入るとすぐ右側には木製のカウンター席があった。左側には四人掛けのテーブル席が四卓。さほど広くはない店の中には、ほんのりと油の匂いが漂っている。


「お腹が空く匂いがするなぁ……あっ、メニューが手書きなんだ、凄いなぁ」


 壁にはメニューが書かれた短冊がびっしりと貼られていた。その一枚一枚が力強い文字で手書きされた物だ。

 他にもビールを持った女性が写るポスターに、誰だか分からないサインが書かれた色紙が何枚かあるのを勇気は見付けた。


「料理を食べながら厨房が見えるお店なんだ……」


 勇気は感動しながらカウンター席に近付いた。カウンター席を近くで見ると、そこには人の想い出と共に刻まれただろう細かい傷が何個もあった。触ると少しベタベタもしている。そんなベタベタですら勇気は感動した。


「お、おい勇気、どうした?」


「え?」


 正義に呼び掛けられて勇気は我に返った。あまりの感動に夢を見る様に漂い歩いていた自分に気付く。


「あ……いや、俺、こういうお店初めてで何だか感動しちゃって」


 勇気がそう言うと、


「はははッ!!」


 カウンター席の向こうにある厨房からは豪快な笑い声が聞こえた。

 笑い声を聞いた勇気がパッと視線を移すと、頭に白いタオルを巻いた女性と勇気は目が合った。


「そんなにこの店に感動したの?」


「は……はい」


 優しく問い掛けられると、勇気の緊張は甦った。でも、勇気は女性の笑顔に親しみを感じた。女性の笑顔はニカッとした明るい笑顔で、正義の笑顔にとてもよく似ていたからだ。


「は……はじめまして」


「はい、はじめまして! あなたが勇気くんね、私は正義の母ちゃん! ゆっくりしていきなね!!」


「は、はい!」


 正義の母=赤井陽子に歓迎されて、勇気の緊張は少しずつ解れていく。


 ――それから暫くすると、赤井食堂の店内には食欲をそそる匂いが充満していった。

 それは何故か、何故なら、正義がオムライスを作っているからだ。得意料理のオムライスを。


 赤井食堂は大繁盛店とまではいかないが、常連客が多く、日によっては赤井陽子が夕飯を作る暇を見付けられない日もある。そんな日は正義が代わりに夕飯を作っている。作れる料理はチャーハンに野菜炒めにオムライス。この三種類であるが、正義自身が一番味に自信を持っているのがオムライスであり、六歳下の妹=赤井華に好評なのもオムライスである。だから正義は、『昨日の駄菓子のお礼に勇気にオムライスを食べさせよう』と決めた。正義は単純な男だ。『旨い物には旨い物で返さなきゃ!』と一時間目と二時間目の時間を使って結論を出したのだ。だから正義は作っている。得意料理のオムライスを。


「そうなんだぁ。じゃあ、勇気はあんまり外でご飯食べないんだ!」


 厨房の中にいる正義は踏み台に乗って小さな体でフライパンを振るっている。そのすぐ側では赤井陽子が少し心配そうな顔をして見守っているが正義は気付いていない。勇気とのお喋りとフライパンを振り回すのに夢中だ。


「うん。母さんが料理好きだから、あまり外食はしないんだ。外食するならお寿司とかフレンチとかそんな感じ」


「ウゲェ! 寿司! 勇気やっぱ大金持ちじゃん!」


 勇気の口から出た分かりやすいワードに、まだまだ感性が子供である正義も驚いた。


「いやぁ、別にそんなんじゃないよ」


「そんなんじゃない訳ないだろ、しかもどーせ回らないヤツだろ! 回らなくてオッサンが突っ立ってるヤツだろ!!」


「こらっ! 正義、あんまり友達をからかうんじゃないよ。ちゃんとフライパンを見なさい!」


「はぁ~~い! すぃませ~~ん!」


「何だその返事は、『はぁ~い』じゃない! 返事は短くでしょ!」


「はいはい!」


「コラッ! 『はい』は一回!」


 赤井親子のやり取りはずっここんな調子だった。このやり取りが勇気には楽しく、勇気の笑顔は絶えなかった。


 絶えずに待ち続けて数分後、正義のオムライスは完成した。


「ほら、早く食べろい!」


「ありがとう。じゃあ、いただきます!」


 勇気は両手を合わせ、行儀よくペコリとお辞儀をし、パクリと頬張った。

 勇気は正義のお礼が『オムライスを食べさせる事』と知った時に少し驚きはしたが、勇気にとってもオムライスは好物であり、美味しそうな匂いが漂い始めるとソワソワとする程に楽しみになっていた。そして、


「美味しい……」


 一口目を頬張った直後、勇気の吐息が漏れた。


「へへっ!! だろだろ!! 旨いだろ!!」


 勇気の感想に正義も大満足。嬉しくて両手をグルグルと回し、厨房から出ていく。


「うん、とっても美味しいよ!」


「だろ~~」


 勇気に近付いた正義は、勇気の肩を二度、三度と叩いた。その顔はニカッとを通り越してニヤニヤとニヤケ顔だ。


「正義くん、料理上手なんだね」


「へへぇ~~! まぁオムライスしか自信は無いけどな!」


 正義は得意そうに人差し指で鼻の下を擦った。


「勇気くんはおうちでお料理しないの?」


「はい、母さんの手伝いくらいはしますけど」


 赤井陽子に聞かれると、勇気はジュースをチビりと飲んで答えた。


「そおぅ、お手伝い! なら偉いわねぇ。うちの正義はね、自分の気が向いた時と、私が命令した時くらいしか作らないし、店の手伝いなんか全然よ」


「いいよ、そういうの言わないで!!」


 正義は母に向かって吠えると、直後には再びニカッと笑って勇気を見た。

 それから、正義はこんな質問を勇気にする。


「でもさ、でもさ、オムライスってヤバイよな?」


「ヤバイ?」


 勇気は正義の質問の意味が分からず首を傾げた。


「だってさ、だってさ、オムライスってパッと見はただの卵焼きじゃん! でもさ、スプーンを入れると中にチキンライスが隠れてるんだぜ! 卵焼きだと思ったらチキンライスが登場! ヤバイよな? 驚くよな? 初めて食べた時、俺ビックリしちゃったぜ!!」


「う~ん……俺はそういう風にオムライスを見た事はないなぁ」


 勇気が素直に答えると、


「えぇなんでよ~~」


 正義は「ウソでしょ~~! 絶対ビックリするよぉ~~!!」と笑った。

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