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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第4話 みんなを守るために…… 11 ―俺は臆病者―

 11


「交通事故って扱いでぇ、検査入院らしいのよ。だから心配しないでぇ」


「結果が出たらな……」


「大丈夫よぉ、きっと大した事ないわぁ」


「そうだと良いけど……」


 勇気は、病室のベッドに横になる母の姿を見て溜め息を漏らした。

 現在の麗子は頭に包帯を巻いた痛々しい姿をしている。本人は『大丈夫よ、見た目よりも酷くはないの』と言うが、息子からすれば心配をしない訳もなく、勇気の胃はキリキリと痛み、貧乏ゆすりを止められないでいた。


「それよりもリンゴ食べる?」


 そんな勇気を察してか、麗子は話題を変えた。


「リンゴ?」


「そうよ。愛ちゃんが持ってきてくれたの」


「桃井が……?」


 勇気はベッドの横にある床頭台(しょうとうだい)を見た。

 床頭台の上には色とりどりの果物が入った籠がある。病室に入った時から勇気はその存在に気付いてはいたが、まさかそれが桃井愛が持ってきた物だとは露ほども思っていなかった。


「そうか……誰かが見舞いに来てくれたんだなとは思っていたが、桃井だったか。でも、何故桃井は母さんが入院した事を知っているんだ」


 勇気がこう言うと、麗子は「ふふっ」と笑った。


「何んでも何も愛ちゃんなのよ、私を病院まで連れてきてくれたの。愛ちゃんの話だとね、ガキセイギさんのお仲間が愛ちゃんの所へ私を運んでくれたんだって。でも不思議な話ねぇ、なんで愛ちゃんと私が知り合いだって、ガキセイギさんのお仲間は知ってたのかしらぁ?」


 麗子は「本当に不思議よねぇ」と首を傾げるが、勇気は「そうだな……」と答えるだけに留めた。英雄に関する事は、何事も、誰に対しても、秘密であるし、麗子の話を聞いて勇気の頭に思い浮かんだ言葉は『やはりそうだったか……』であったからだ。


 ― やはり、母さんは正義達が助けてくれたのか……


 麗子を病院に運んだ人物が愛であり、愛の所へ運んだ者が"ガキセイギのお仲間"=ボッズーであったならば、正義の関わりがない筈は無いと勇気は察した。


「でぇ、どうするのぉ? リンゴ、食べる?」


 別れた親友(とも)へ感謝を伝えたい気持ちが勇気の中に過るも、その思考を麗子の再度の質問が止めた。

 勇気はハッと我に返ると「あっ……いや、いらない、母さんが食べてくれ」と首を振った。


「あら……いらないの? 美味しそうなのにぃ?」


「あぁ、食欲が無くてさ、何かを食べる気にはならないんだ」


「あらら、食欲が無いなんて何か悩み事でもあるの?」


「いや……別に、そんなんじゃないよ」


 勇気の『食欲が無い』は林檎を勧めてくる麗子に拒否の意思を示す為でもあるが、嘘八百の発言でもなかった。勇気は最愛の親友(とも)に別れを告げたのだ、食欲などが湧く筈が無く、更にもう一人の最愛の人にも別れを告げるつもりなのだから尚更だ。


 勇気は麗子からは視線を外し、窓の外を見た。既に外は暗い。時刻はもうすぐ午後八時になる。

 病院が許可する面会時間は午後八時迄であるが、勇気がこんな時間に麗子に会いに来た理由は『病院に入院する事になりました』という本来ならば昨日に来るべきメールが、全てが一日遅れになる気質の母から、夕方になってやっと届いたという理由もあるが、何よりも勇気は今日の内に絶対に麗子に会っておきたかったのだ。

『俺は正義の傍に居てはならない……』と決意した勇気は、輝ヶ丘からも離れようとしているからだ。

 勇気は最愛の母の下を、父を失ってから女手一つで育ててくれた母の下を、無言で去れる人間ではない。『感謝と別れの言葉を必ず伝えなければならない』と思い、勇気は麗子に会いに来ていた。だが、いざ母を目の前にすると勇気は上手く言葉を作れなかった。しかも、怪我をした姿を見ては、尚更言葉が出てこない。病室を訪れて十分と経っても、未だ別れを告げられないでいた。


「何ぃ、勇ちゃん? やっぱり何か悩んでるんでしょ?」


 のんびりとした性格の麗子だが、意外と勘の鋭い所がある。窓の外を無言で見詰める息子の心中が曇り空である事を見逃さなかった。


「いや、悩みなんて無いよ……」


 しかし、勇気は首を振るしかなかった。

 勇気の決意は固いからだ。最愛の人達を護る為に勇気は別れを決意したのだから。しかし、曇り空でもある。勇気は自分を『ダメな人間だ』と思うから。


 ― 俺はやはりダメな人間だな……土壇場になって母さんとの別れを悲しいと思ってしまっている……


 勇気が決めた別れには、一つの希望も無い。"別れ"は"別れ"でしかなく、母とも、親友とも、ただ"別れる"だけだ。己が生きてきた道を捨てるだけでしかない。


「情けない……」


 別れを考えると涙が汲み上げてきそうになった。勇気は自分を罵る言葉を呟き、殴る様な仕草で瞼を腕で擦った。


「どうしたの勇ちゃん?」


「あ……いや、」


 母に問われると勇気は誤魔化す為に笑った。そして思う。


 ― もう話さなくてはな。このまま母さんの傍に居ては、決意が揺らぎそうになる……俺は正義の前から姿を消さなければならないんだ、輝ヶ丘を出なければ……ならないんだ


「いや、どうしたって……何でもないよ。『俺はどこまでも"勇気"の無い男だな』と思っていただけだよ。実はさ、母さんに話があるんだ。でも、決意した筈なのに、上手く話し出せなくて、俺はどうやっても臆病者なんだな……」


「ふふふ……あらあら」


 麗子は笑った。

 勇気は何故、母が笑うのか分からずに思わずムッとするが、すぐに『自分は笑われて当然の存在だ』と思い、眉間に寄せた皺を解いた。


「そうだよな、笑うよな……」


「うん、笑うわぁ、嬉しいもの。だって『臆病者』だなんて、まるでパパの口癖じゃない」


「……え?」

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