第4話 みんなを守るために…… 9 ―それぞれの敗北―
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「嘘……だろ」
唖然とするセイギを尻目に――
「チィ……痛ぇッ! あぁ、今日はもうクソガキの相手は止めだッ!!」
"正面だったデカギライ"はヘリポートから肘を外してセイギの前から姿を消した。
「……」
セイギは、悔しさすら言葉に出来なかった。
セイギは馬鹿ではない。"正面だったデカギライ"を見た瞬間に自分がやらかした失敗を理解出来た。
「セイギ……」
セイギの背後からボッズーの声がした。
セイギが振り返るとボッズーは居た。今の姿は金色ではない。"黄金に輝く半透明のタマゴ"が爆発するとボッズーはいつの間にやら姿を現し、いつも通りの真っ白な体に戻っていた。タマゴの殻もいつも通りに頭と尻に被っている。
「俺達は騙されてしまったみたいだなボズ……」
白い体のボッズーは慰める様にセイギの肩を叩いた。
ボッズーの表情にも悔しさが溢れている。ボッズーもセイギと同様に気付いているのだ。己が失敗した事に。
「……あぁ」
項垂れるセイギはヘリポートについた膝を思い切り殴った。
殴った膝には痛みが走るが、それ以上に自分が犯した失敗が痛かった。
そして、セイギは懺悔する様に後悔を吐露する。
「俺……二人目のデカギライが現れた時に『いつの間に?』って思ったんだ。思ったけど、『考えてる暇はない』って、考えるのをやめた。やめちまったんだ……でも、本当はもっと考えるべきだったんだ。アイツが現れた時から分身が一気に増えたんだし……アイツだったんだな、アイツが……二人目に現れたアイツが、アイツが"本体"だったんだ、始めから俺は――クソッ、騙されてたんだ……それに気付かないなんて、俺は、俺はなんて馬鹿なんだ!!」
セイギは何度も何度も、
「馬鹿野郎……馬鹿野郎……」
自分自身を殴った。殴り続けた。
―――――
「ふざけやがって……クソガキがぁ!!!」
雑居ビルに挟まれた暗い路地裏で、デカギライの力を与えられた男は悔しさに身悶えていた。
今の男は人間の姿をしているが、セイギに殴られた顔面は血に染まっている。
「もしも俺が……あの技をくらっていたら、俺はあの時に死んでいたのか? ハハッ……ふざけやがってぇ!!!」
血に染まった顔を怒りに歪ませ、男は眼前にあった薄汚れたゴミ箱を蹴り上げた。
90Lのゴミ袋が適しているだろう大きめのゴミ箱はボゴンッと軽い音を立てて宙に飛んだ。地面に落ちる時にも同じく軽い音が鳴る。
蹴り上げた時の感触や響いた音からゴミ箱の中身は明らかに空であったが、地面に落ちた直後に何故だか「ホホホホホぉ~~♪」とゴミ箱の中から声が聞こえた。
それは、まるで歌っているかの様な陽気な笑い声。オペラ歌手のバリトンの様な低い声だ。更に笑い声の後には「ナぁ~イスキックですねぇ~~~♪」とも聞こえた。
「な……なんだ?!」
男はゴミ箱が喋ったと思った。だが、すぐに違うと知る。
地面に倒れたゴミ箱が揺れ始めたのだ。
揺れたゴミ箱は、揺れて、揺れて、揺れて、弾け飛んだ。
ゴミ箱が弾け飛ぶと真っ白な煙が立ち上る。
立ち上った煙は徐々に形を成し、実態を持っていく。人間に近くはあるが、人間ではない存在に成っていく。顔のパーツがどれも三角形で作られた奇妙な存在に成っていく。
「ホホホホホぉ~~♪」
煙から完全に実態を持つと、白装束を着た三角形ばかりの男は再び笑い声を発した。
デカギライの力を与えられた男は白装束で三角形ばかりの男を知らない。知らないが為に、鼻息を荒くして「な……なんだお前は!!」と拳を握るが、相手は「ホホホホホぉ~~♪ 驚かないでデカギライぃ~~♪」と歌った。
「お前……何でその名前を!!」
「知っているのかぁ〜〜ですかぁぁ〜〜♪ 不思議に思われますかぁ〜〜あ♪ でも思わないでぇ〜♪ だって私は芸術家ぁ~~♪ 貴方を描いた男なのですからぁ〜~♪」
「描いた……どういう意味だ!!」
男は戸惑うが、三角形ばかりの怪人=《芸術家》は歌い続けた。
「そぅ♪ 貴方のデカギライは私の芸術なのですぅ~~♪ 良い作品が出来ましたぁ~~♪ うぅ天才ぃ♪ うぅ言わないで♪ しぃ~~~♪」
芸術家は何処からかいつの間にか取り出した白い筆を、何も言おうとしていない男の唇に当てた。
「でぇもぉ~~♪ 貴方は危うく英雄に負けるところでしたねぇ~~♪ しかぁ~し♪ 敗北、それもまた芸術ぅ~~♪」
「何なんだ、お前! 俺をからかっているのか!」
男は唇に当てられた筆を振り払い、芸術家の胸ぐらに掴みかかった――だが、それすらも芸術家は笑った。
「ホホホホホぉ~♪ からかってなどいません~~♪♪ 私は貴方を強くしに来たのですからぁ~♪ ほんのちょっとのアレンジで♪ 貴方はもっと強くなるぅ♪ あなたはきっとこれで勝てるぅぅぅう♪♪」
芸術家は男の手を取った。
男の唇から振り払われても、芸術家の筆はその手からは離れてはいない。男の手を捻り上げた芸術家は、白い筆先で男の顔面を撫でていく。
「サササッ♪ サッ♪ デカギライよ、貴方は進化するぅ~~♪♪ もっともっと強くなるのですぅ~~♪♪」
歌いながら、笑いながら、筆を操る芸術家は、顔面を撫で、その次は男の右手を撫でた。
それから、左手、胸、足……と芸術家の愛撫は続いていく。




