第4話 みんなを守るために…… 8 ―俺のガチ本気モード―
8
爆発を背にしてセイギが歩き始めた時、他のデカギライ達は漸く立ち上がる素振りを見せたところであった。
「ハァッ!!!」
――その姿を見たセイギは一気に動く。
歩きは走りに変わり、方々に散ったデカギライ達全てに斬撃をくらわせた。
セイギのスピードは残像を残す程で、デカギライ達はほぼ同時にセイギの斬撃を受け、ほぼ同時に痛みに悶える声をあげ、更に方々の場所に飛ばされた。
「フゥーーッ……フゥーーッ……」
斬撃を見舞ったセイギは、大きく息を吐く。
体の痛みに悶えたいのはセイギも同じなのだ。
セイギはギリギリの所で踏ん張っているだけだ。群れになった弾丸を浴びて負った傷は激しく痛み、気を抜いてしまえばすぐに倒れてしまってもおかしくはない状況である。
だが、セイギは止まらない。否、止まれない。セイギはデカギライの姑息さを十分に理解しているからだ。もしも一瞬でも隙を見せたら再びリンチにされ、再びピンチに陥る可能性もある。だからセイギは止まらない、止まれない、『決着をつけるなら、今を逃しちゃいけない!』と結論を出し、セイギはボッズーを呼んだ。
「ボッズーッ!! もう一度だ……もう一度、《俺のガチ本気モード》を頼むッ!!」
「OKボッズー!!」
ボッズーもセイギと同じ気持ちだった。『決着をつけるなら今しかない!』と思っていた――が、
「テメェ……このぉ!!」
ボッズーが動き出そうとすると、一体のデカギライが素早く反応した。それは顔全体に稲妻の様な亀裂の走ったデカギライだった。
顔面に亀裂が走る理由があるデカギライは一体しかいない。セイギに顔面を殴られた"正面のデカギライ"だったデカギライだけだ。
"正面だったデカギライ"は亀裂の走った顔を怒りで歪ませながら起き上がり、ボッズーに向かって銃を構えた。
「ぺゅぅ! 二度も邪魔されて堪るかボッズー!!」
しかし、デカギライも素早いがボッズーも素早かった。ボッズーは"正面"が発砲をする前に《羽根の爆弾》を飛ばした。標的は"正面"だけにはしない。牽制の為に、他の二体も含めてであった。
全てのデカギライが爆撃を受け、三度地に伏せるとボッズーは飛び立つ。狙うは"一人目のデカギライ"だ。
「今度こそやってやる! 《俺のガチ本気モード》だボッズー!!!」
"一人目"に向かって飛んでいくボッズーの体は金色に輝き出した。
この変化はヘリポートに到着した直後に見せた変化と同じであるが、ボッズーの変化はまだまだ続く。金色になったボッズーは徐々に半透明にもなっていった。
完全に半透明になると金色のボッズーの輝きは更に増す。目を眩ませる程の強い光を全身から放った。
この光に寄ってデカギライ達は、否、セイギすらも一瞬目を瞑った。
この一瞬の中でボッズーの変化は更に起こる。頭と尻を覆ったタマゴの殻が体から離れ、ボッズー自身は眩い光を放ったまま姿を消したのだ。
ボッズーが消えても、タマゴの殻の動きは止まらない。"一人目"に向かって飛び続ける。
この時、目映い光は消えた。デカギライ達もセイギも、瞼をしばたたかせながら目を開いた。直後、"一人目"は「な……なんだ!」と叫びながら、驚愕の表情を浮かべる。
当然の反応だろう。"一人目"に向かって飛んで行くのは、不思議なタマゴの殻なのだから。しかも、タマゴの殻は飛んでいくうちに徐々に大きくなっていく。丁度、デカギライの体をすっぽりと収められる位の大きさに。
大きくなったタマゴの殻は左右に分かれて飛んでいく。頭の方が右に、尻の方が左に。そのスピードは速い、ビュビューンモードの加速に近い速さだ。
一気に"一人目"に近付いたタマゴの殻は再び目映く輝き、誰も邪魔出来ない素早さで"一人目"を左右から包み込んだ。
「何ッ……!!」
ヘリポートに誕生した物は"黄金に輝く半透明のタマゴ"だ。
タマゴの中に閉じ込められた"一人目"は驚愕の表情を更に深め、銃を構えた。だが、「BANGッ!!」と口にしても弾丸は発射されない。
「何だ――」
「――これは……」
この光景に他のデカギライ達も驚愕する。
「これが《俺のガチ本気モード》か……」
セイギも同じだ。セイギも驚いていた。
ボッズーは『《俺のガチ本気モード》は檻を作ってバケモノを捕える所から始まる―― 』と言ってはいたが、まさかボッズー自身が檻になり、檻の形が"黄金に輝く半透明のタマゴ"だなんて、セイギは想像もしていなかった。
「クッ……クソォ――」
「――たった一体閉じ込めたくらいで何なんだ!!」
檻の作成を止められなかったデカギライ二体は、悔しそうに顔を歪めながらも動き始める。
《羽根の爆弾》の爆撃を受けて三度地に伏せていたデカギライ二体は起き上がったばかり、未だ膝立ちの状態ではあるが"黄金に輝く半透明のタマゴ"に向かって弾丸を発砲した。しかし、タマゴに包まれた存在は自分自身、デカギライ達は少し躊躇したのか、放たれたのは連発ではない単発だった。
「させるかッ!!」
単発で放たれた弾丸はすぐに消える。セイギが素早く斬ったからだ。
現在のセイギは三体のデカギライの丁度中間にいた。
三体のデカギライが居る場所を線で結べば二等辺三角形に近い形になるが、その中心にセイギは立っているのだ。
この形は偶然であって偶然ではない。何故ならば、セイギが"邪魔をしたデカギライ"を倒した直後に三体に向かって振るった斬撃は"一人目"から他二体を引き離す目的があったからだ。
この時のセイギは"一人目"以外のデカギライには"斬る"というよりも"打つ"という意識で剣を振るっていた。『なるべく遠くへ行ってくれ』と願いながら。
その願いが通じ、出来たものがこの三角形であるが、願った理由は一つだ。"一人目"から他の二体をなるべく引き離し、"一人目"を…… "本体"を確実に倒す為だ。
ボッズーの《俺のガチ本気モード》は発動された。ならば、セイギが次に取る行動は一つ。
「行くぜ……」
セイギは大剣を構えた。
「――決めるぜッ!!!!」
そして叫んだ、己が誇る必殺技の名を。
「ジャスティス! スラッシャァァーー!!!!」
セイギは大剣を振るった。
空を斬った大剣の刃からは残像が如く光輝く黄金の光が放たれる。
「クソがぁッッッ――」
「――殺られるかぁ!!!!」
だが、檻に囚われていないデカギライ二体が黙って見ている訳がない。二体のデカギライはセイギに向かって弾丸を連発してきた。
「そうくると思ったぜ……」
この行動を、セイギは読んでいたが。
「無駄だぜ、デカギライッッ!!!」
敵が邪魔をしてくるだろうとセイギの中で予測はついていた。だからセイギは大剣をいつもの様に"線"では振るわなかった。セイギはくるりと回転しながら大剣を振るったのだ。俗に言う回転斬りだ。
空を斬った大剣の刃からはジャスティススラッシャーが残像が如く放たれるのだから、ジャスティススラッシャーはセイギの太刀筋と同じく"円"を描いてる。
ジャスティススラッシャーは"一人目"に向かってだけでなく、その他のデカギライに向かっても飛んでいく。セイギの理想通り、セイギを邪魔する為に連発された弾丸を斬りながら。
「何なんだ……何なんだッ!! クソッ!!」
一体のデカギライが発砲を止めた。それは顔面の割れたデカギライ、"正面だったデカギライ"だ。
"正面だったデカギライ"は己に向かって飛んでくるジャスティススラッシャーを恐れてか、体を翻してヘリポートの外に向かって駆け出した。
「逃げても無駄だぜ。本体は仕留めたッッ!!」
セイギは勝鬨を上げる――
次の瞬間、轟く爆音と目映い光が瞬いた。
ジャスティススラッシャーが"黄金に輝く半透明のタマゴ"に命中し、大爆発が起こったのだ。
「ぐおぉおおおおお!!!!!」
それとほぼ同時、逃げずに最後まで発砲を続けていたデカギライ――ボッズーの頭突きをくらう前は"西のデカギライ"であったデカギライだ――にもジャスティススラッシャーは命中した。"西だったデカギライ"の体は上下に真っ二つに斬られ、爆発していく。
「ヨシッ……!!」
"黄金に輝く半透明のタマゴ"があった場所には、メラメラと燃える黄金色の炎が残された。
炎を見詰めて、セイギは安堵する。緊張し続けていた体からは力が抜け、ヘリポートの上にふらりと膝をついてしまう。
「へへっ!」
それでもセイギは笑顔を浮かべた、デカギライを倒せたと思うからだ――だが、
「嗚呼……」
不思議が起こった。何故か、デカギライの声が聞こえたのだ。
「………なにッ!!」
本体を捕えた"黄金に輝く半透明のタマゴ"に攻撃をぶつければ《王に選ばれし民》の力は浄化されて本体のデカギライであった男は人間に戻る筈。
本体の存在が消えれば、攻撃を避けれたとて分身も消える筈……であるが、
「危なかった……もう少しで殺られるところだったぜ」
「!!!」
声がする方向をセイギが向くと……居たのだ。
顔面の割れたデカギライが、現れた時と同様にヘリポートの縁に肘を掛けて、そこに居たのだ。




