第4話 みんなを守るために…… 7 ―真っ赤な鬼からは逃げられない―
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「と……止まれ――」
「――このガキッ!!」」
セイギを羽交い締めにする"一人目"と、弾丸を放つ"正面"の二人が同時に叫んだ。
どんなに力を入れてもセイギは止まらなかった。
どんなに弾丸を命中させてもセイギは止まらなかった。
止まらないどころか、セイギの歩みは既に歩みではなくなっていた、走りとなっていた。
「クソッ……止まれッ――」
「――何考えてんだクソガキッ!!」
デカギライからすれば、セイギは鬼に見えた。真っ赤な体の鬼だ。
デカギライは鬼に恐怖を覚え、覚えたが為に一つのミスを犯した。それは分身の一体が"不意打ち"を受けたと気が付かなかった事だ。
不意打ちを見舞った者は勿論ボッズーである。ビュビュンモードに変形したボッズーが、"西のデカギライ"の背中に頭突きを見舞ったのだ。
そして、頭突きを受けた"西のデカギライ"は勢い良く飛ばされた。飛ばされ、ある者にぶつかった。それは、セイギの走りを止めようとする者。"一人目のデカギライ"である。
「なッ……!!!」
ぶつかる直前の"一人目"は、セイギを止めようと重心を後ろにして踏ん張っていたのだが、セイギの加速が増していくにつれて体が"くの字"に曲がってしまっていた。羽交い締めにしていた腕も外れてしまい、指先でセイギの腕の下を摘まむ程度しか出来ていなかった。出来ていなかったからだ。"西のデカギライ"が激突した直後に"一人目"はセイギを巻き込む事なく、たった一人で宙を舞ったのは。
"一人目"からの僅かながらの制止すら無くなって、セイギの加速は更に増していく。
―――――
「オラァーーーーッッッ!!!!」
"正面のデカギライ"が『逃げる』という選択肢を思い浮かべる前に、セイギはその正面に立ち、火事場の馬鹿力そのままの力で"正面のデカギライ"の顔面に拳を叩きつけた。
「―――ッ!!!」
ゴキゴキッ……と、鈍い音を顔面から鳴らして"正面のデカギライ"は強風に打たれたかの様に宙を舞い、ヘリポートの端へと飛んでいった。
「はぁ……はぁ……」
セイギの疲労は困憊だ。肩で息をしなければならない程だ。しかし、まだ戦いは終わらない。セイギはデカギライを殴った手とは反対の手で持っていた大剣を両手で持ち直す。
現在、攻撃を受けずに万全の状態でいるのは、セイギを助けに行こうとしたボッズーを撃った"邪魔をしたデカギライ"だけだ。セイギは"邪魔をしたデカギライ"を睨んだ。『次はお前だ……』と言う様に――"邪魔をしたデカギライ"はいつの間にか立ち上がり、他のデカギライ達が攻撃を受ける姿をヘリポートの端に立って見ていた。
「タァッ!!!」
セイギは"邪魔をしたデカギライ"に向かって走り出す。
「クッ……クソガキがぁ!!!」
自分に狙いが定められた事に気が付いた"邪魔をしたデカギライ"は弾丸を連発する。
「フンッ!!!」
……が、セイギは走る勢いを利用して地面を滑り、弾丸の下を潜った。スライディングだ。
「ハァッ!!!!」
スライディングで一気に"邪魔をしたデカギライ"に近付いたセイギは、その勢いのまま大剣をデカギライの体に突き刺す――
「なッ――この……クソ……ガッ」
「クソでも、ガキでも何とでも言え……俺はガキセイギだ」
"邪魔をしたデカギライ"は腹に突き刺さった大剣を抜こうと刃に手を置いたが、セイギはその手を振り払った。振り払いながらセイギは立ち上がり、"邪魔をしたデカギライ"の腹に更に刃を押し込んでいく。
「………ァ…………ァア!!」
"邪魔をしたデカギライ"の傷口からは分身を作り出す際に発する光の粒子がゆっくりと漏れ出した。漏れた粒子は地面に落ちた雪が溶ける様に空中に溶けていく。
「ハァッ!!!」
そして、セイギは押し込んだ刃を勢い良く引き抜くと、続けて天に向かって刃を掲げた。
「ドウリャッ!!!」
次には一気に振り下ろし、"邪魔をしたデカギライ"の脳天から爪先までを縦一線に斬った。
しかし、まだセイギは止まらない。
「デリャッ!!」
「テェヤッ!!!」
「オぅリャッッッ!!!!!」
続け様に三撃を見舞う。
それから、やっとセイギは"邪魔をしたデカギライ"に背を向けた。
「うぅ………くっ……クソォッッ!!!」
斬られたデカギライは傷口を押さえ、一歩、二歩と後退した。その体は"体の形だけを残し"光の粒子へと変わっていく。
「後……三体か」
デカギライに何が起きようとしているのかセイギには分かる。確実な手応えがセイギの手には残っていたからだ。だから、セイギは歩き出す――直後、セイギの背後で爆発が起こった。"邪魔をしたデカギライ"が消滅した合図だ。




