第4話 みんなを守るために…… 6 ―みんなを守るために……―
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「セイギッ!!!」
ボッズーは叫んだ。
《羽根の爆弾》の一本分の威力はボッズーを墜落させはしたものの満身創痍にはさせない。セイギを助ける為にボッズーは急いで飛び立った。
英雄の鎧が火花を散らす時は危険の合図とボッズーは知っている。火花は鎧が莫大なダメージを受けた合図であるからだ。
火花を放った鎧がダメージを受け続ければ、鎧は消滅する。この世から消滅するという意味ではないが、エラーを起こし、腕時計の中へと戻ってしまうのだ。
腕時計には鎧や英雄に与えられた武器を修復させる機能がある為、鎧が腕時計の中に戻ってしまっても僅か数秒後には再度装着が可能になるが、セイギに向かう弾丸の群れは止んでいない。
装着者の盾になる筈の鎧ですら耐えられなかった弾丸の群れを数秒間も生身で耐え抜く事は明らかに不可能であり、現在のセイギは"一人目"に羽交い締めにされている。鎧を失えば、セイギに待ち受けている運命は"死"でしかない。
だからボッズーは、弾丸を放つ二体のデカギライと"一人目"の動きを止める為に、上空から《羽根の爆弾》を飛ばそうとした……が、そんなボッズーを阻む者が現れる。
それは、最前にボッズーと同時に《羽根の爆弾》の爆撃を受けてヘリポートに落ちたデカギライだった。
「BANGッ!!!」
ボッズーに銃口を向けたデカギライはヘリポートに横たわったまま発砲した。
「うわぁっ!!!」
背後から撃たれたボッズーは飛行のバランスを崩してしまう。
「くッ……くそぉ……」
飛行の安定を取り戻そうとボッズーは翼をバタつかせるが、安定を取り戻す事は難しく、緑色したヘリポートが近付いてくる。
「ち……ちきしょう!!!」
ボッズーは悔しさにクチバシを噛んだ。だが、追い討ちが続く――
「BANGッ!!!」
ボッズーを狙う二発目が放たれた。
「くッ……クソォ……」
ボッズーは自分自身を無力に感じた……が、諦めない、ボッズーは拳を握った。
「やられて堪るかッ!!『 頑張れ』って……あの子が応援してくれたんだぞボッズー!!! だから俺はもっと頑張るんだボッズーッッ!!!」
ボッズーは再び翼を振った。最前よりも大きく、力強く。
ボッズーを狙って撃たれた弾丸は、ボッズーが辿るだろう軌道を読んで撃たれたものだ。もしもボッズーが墜ちていく自分を止められれば避けられる。避けられればセイギを助ける一手が打てるだろう。しかし、命中すれば終わり。セイギの鎧の消滅は止められず、セイギは只の少年へと戻る。そうなれば"死"、セイギは助からない……
― 出来る!! 俺なら出来る!! 頑張れ!! 頑張るんだボッズー!!!
ボッズーは信じている。『どんなピンチでも、諦めない心で挑めば、活路は開かれる』と。
「根性ォォォォォ!!!!」
だからボッズーは諦めない。だから踏ん張る。だから開かれる。チャンスが来るのだ。
ボッズーの力強い羽ばたきは自身の落下を止めめ、ボッズーの体の下を弾丸は通過していく。
そして、踏ん張り切った場所から見えたものがある。それは一体のデカギライの背中だ。
その背中はセイギに向かって発砲している二体の内のどちらかのものだろう。弾丸を避ける事に注視していた為にどちらなのかは判別がつかないが、ボッズーの直線上にソレはあった。
― 今だ……チャンスだ!!!
ボッズーは反撃の一手を打ちにいく。諦めない心は墜ちていく運命を吹き飛ばし、飛行の安定も呼んだ。己を助けてくれた自慢の翼に感謝をしながら、ボッズーは《ビュビューンモード》へと変形する。
ボッズーは考えたのだ。『敵の背中はがら空き、それなら《羽根の爆弾》よりも自慢の石頭で頭突きをくらわせた方がダメージを負わせられる筈だ!』と。変形したボッズーは上下四本に分かれた翼の"上の翼"に風を吸い込んでいく。
―――――
諦め知らずの男はボッズー以外にも、もう一人いた。
《正義の心》の持ち主、ガキセイギである。
彼もまたボッズー同様に悔しさを抱き、拳を握っていた。
― 俺は口ばっかりだ! 結局何も出来てねぇ!!
セイギは命の危機を目の前にしながらも忘れてはいなかった。デカギライに命を奪われた警官達に『仇を取る』と誓った自分を……だからこそ、セイギは悔しかった。
― 仇を取るどころか俺はコイツ等に良い様にやられてばかりだ! 情けねぇ! 許せねぇッ!!!
デカギライに羽交い締めにされ、抵抗する事も出来ない自分をセイギは『情けない』と感じていた。そして、『許せない』とも。弾丸を体に受ける度に体よりも心が痛んでいく。
― コイツを……コイツ等を倒せる奴は……俺しかいないんだぞ!!!
「うおぉぉぉーーーーーー!!!!!」
セイギは叫んだ。それは痛みに悶える叫びではない。反撃の開始を誓う魂の咆哮である。
「このままコイツに………バケモノの力を持たせていたら……コイツは人を襲い続けるんだ!!!」
セイギの脳裏には声援を送ってくれた親子の顔が浮かんだ。
「自分の子供を守ろうって……必死に頑張ってたお母さん………元気いっぱいに……応援してくれたあの子…………そんな……そんな掛け替えの無い命を……コイツは奪おうとしたッッ!!!」
「な、なに!!!」
セイギを羽交い締めにする"一人目"は驚いた。
己の足が、ずる……ずる……と、前に引き摺られる様に動いたからだ。前に、前に、勝手に――
「お前、何を……」
"一人目"は気が付いた。自分の足が何故前に動くのか、その理由に。
それはセイギが進み始めたからだ。己に向かって飛んでくる弾丸に、自ら歩み始めたからだ。
「な、何をしているんだ!!」
「許せねぇ……俺はお前を許せねぇ!!! 俺は絶対にお前を倒すッ!!! だからこんな所で、こんな所で負けてたまるかってんだぁ!!! 根性ォォォォオ!!」
セイギは羽交い締めされているにもかかわらず、無理矢理に、弾丸を発砲するデカギライに向かって前進していく。
鎧は火花を散らしている。それでもセイギは歩みを止めない。勿論、セイギは知っている。このまま弾丸を受け続ければ鎧はエラーを起こして消滅してしまい、自分は生身に戻ってしまうと。だが、分かっていても、セイギは自ら弾丸を受けに行く。痛みがない訳ではない、しかし前に進む、目指すは"正面のデカギライ"だ。
― コイツは"一人目"にトドメを刺すのを邪魔した奴だ!!
セイギは感じていた。"正面のデカギライ"が二人目に現れたデカギライであり、"一人目"を倒す事を邪魔したデカギライであると。
"一人目のデカギライ"はコートがボロボロであり見分ける事は容易であるが、それ以外のデカギライの見た目は同じ、見分ける事は困難である……が、何故かセイギは正面にいるデカギライが『"一人目"にとどめを刺すのを邪魔したデカギライだ』と感じた。それが何故かはセイギににも分からない。ただ『本能が教えてくれている』と、セイギは思った――それから、こうも思う、
― 目の前にいるコイツを俺はブン殴らなきゃいけないッッッ!!!
……と。
向かって右側からも"西のデカギライ"が弾丸を撃ってきている。だがしかし、セイギは"西のデカギライ"は無視する事にした。それもまた本能。セイギ自身も理由は分からない。『"正面のデカギライ"をブン殴らなきゃいけない!!』と、思えて仕方がなかった。
「オォォォーーーーーッッ!!!」
雄叫ぶセイギの歩くスピードは徐々に上がっていく――セイギを羽交い締めにする"一人目"は両足を踏ん張り、セイギの動きを止めようと試みるが止められない。
セイギが持つ『世界を守りたい』という気持ちは計り知れない程に強いのだ。
だからセイギは絶体絶命に陥った時に己の限界を超えられる。『負けてはならない! 命を奪わせやしない! 世界を滅ぼさせはしない!』という想いが爆発的な力を発揮させるから。
《芸術家》と戦った時が正にそうだった。ボッズーを助ける為にセイギは火事場の馬鹿力と謂える怪力を見せた。
そして、今が再びだった。




