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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第4話 みんなを守るために…… 2 ―荒牧結衣さんは真っ赤な天使を見た―

 2


 ― 限界を超えろ、俺の体よ速く飛べボッズー!! シードルをバグらせた時、あの時はセイギに煽られてもっと速く飛べてたぞボッズー!! あの時のスピードが出せたなら、デカギライに絶対に追い付ける筈だ、やるんだ俺ッ!!!


 ボッズーは自分自身を鼓舞し、"上の翼"で吸い込んだ空気を"下の翼"から勢い良く噴き出そうと力む。すると、


「おっ…………おぉ!! 何だ!! 何だ!!」


 体がカーッと熱くなり、力が漲る感じがした。


「凄いぞ!! 凄いのが来たぞボズ!!!」


 そして、


「行くぞボッズー!!!」



 ドカーーーンッッッッ!!!!



 まるで爆発だ。"下の翼"から空気を噴射した瞬間、爆音がした。


「ワアーーーッ! こ……これは違うぞボッズーッ!!!」


 ボッズーは気が付いた。『この噴射は今までのものとは違うぞ!』と。

 それは何か、形か、色か……問い掛けられたとしてボッズーは『そのどれでもない』と答える筈だ。何故ならば、起こった変化は視認できる違いではなく、"本質的"に違ったのだから。

 それから、ボッズーはもう一つ気が付く。脳の奥底に眠っていた記憶がまた一つ目を覚ました事に。


 ― ゾワゾワだ! ゾワゾワがするぞぉ!! そうか、そうなのか、分かったぞ!! 俺の体にはジェットエンジンがあるのかボッズー!!


 そうなのだ、英雄を導く存在であり、特別な存在なボッズーの体内には、ジェットエンジンが隠されていたのだ。

 これまでのボッズーの噴射も強力なものではあった。例えるならばジェット噴射が如く噴射だ。しかし、それは"如く"でしかなく、ジェット噴射に近いだけでしかなかった。だが、最前の噴射は"如く"ではない。『体内に隠されたジェットエンジンを稼働させた正真正銘のジェット噴射だった』と噴射したボッズー自身には分かった。


 ― 俺は今までビュビューンモードを正しく使えていなかったんだなボッズー! 本当のビュビューンモードは、体内に吸い込んだ空気をただ噴射するんじゃなくて、"エンジンを稼働させて更に強い力にして噴射する"!! これが本当のビュビューンモードだったんだボッズー!!!


 ボッズーが気付くと共に、徐々にデカギライとの距離も縮まっていった――デカギライが女性に狙いを定めてから、ここまで数秒。


「セイギ、手を!!」


「分かってる!! 伸ばしてるぜぇぇぇぇ!!!」


「フハハッ!! 無駄な足掻きだ!!」


 デカギライは「BANGッ!!」と口にし、女性に向かって発砲した。


 ―――――


 荒牧(あらまき)結衣(ゆい)はごくごく普通の主婦である。

 三十年余りの人生の中で他人に自慢出来る程の事は、昔好きだった芸能人に少し名前が似ている事くらいで、不幸話として語る程の災難にも見舞われた事は無かった。

 結衣は自分の人生を『起伏の少ない平凡で平和な人生だ』と自負していた。


 結衣の人生のモットーは『平和が一番』だ。

 少しトロいが優しい夫と、五歳になる一人息子の一哉と歩む日々は、波も風も立たぬ"安心"しかない日々であるが、結衣にとっては幸せだった。

 ママ友の中には刺激を欲しがる人もいるが結衣にとっては必要はなく、ストレスを感じた日があっても昔からの友達とランチをすればすぐに解消された。


 そんな結衣の人生に波風を立てたのは、他でもない《王に選ばれし民》という謎の集団であった。


 結衣は《王に選ばれし民》が現れた日、空が割れる瞬間を目撃した一人である。

 その瞬間、彼女は現実において、初めて"恐怖"という感情を抱いた。

 自分の人生を『平凡で平和な人生』と自負する結衣にとって、"恐怖"という感情は映画や小説やドラマ、創作物を介して覚えるだけの感情であった筈なのに。


 結衣が現実では覚える筈のない感情を二度目に覚えたのは、今日だ。


 結衣は息子の一哉を車に乗せて、隣町の風見へと向かおうとしていた。理由は風見のピカリマートに勤める夫に忘れ物を届ける為だ。

《王に選ばれし民》に抱いた感情を忘れられずにいる結衣は、本心としては外出は避けたかった。だが、夫の忘れ物は彼の仕事に置いて必要な物であり、届けない訳にはいかなかった。『一哉は自宅に残して一人で行こうか』とも考えたが、息子を一人にするのもそれはそれで不安で、一緒に連れていく事にした。


 家を出て暫くすると、結衣は大通りに出た。

 そこで結衣は、町に異変が起きていると知った。理由は単純だ。普段ならば殆ど混む事のない道路で渋滞が発生していたからだ。

 結衣はすぐに『おかしい』と思った。

 しかし『おかしい』と思いはしても、まさか命の危険が伴うおかしさだとは思わなかった。『事故でもあったのかな?』と考えただけだ。


《王に選ばれし民》の存在が頭を過らなかった訳では無いが、周りの車の人達も慌てる素振りを見せていなかった為、結衣は気付かぬ内に『そうであってほしくないから、別の可能性を見る』という選択を取ってしまっていた。


 それから程無くして、道路を逆走してくる人達の姿が見えた。走ってくる人達の顔は、皆が皆、恐怖に歪んでいた。

 結衣は驚いた。驚き、只事ではない事態が起きていると漸く察した。


 察した人間は結衣だけではない。最前まで慌てる素振りを見せていなかった周りの車の人達も途端に慌て出し、車を捨てて道路に飛び出していった。

 結衣も周りの人達と同じだ。同じ考えを持った。『只事ではない事態が道路の向こうで起きているなら、動かない車は捨てて早く逃げなければ』という様な考えだ。

 思い立った結衣は瞬時に息子の一哉の手を取り、車の外へ出ようとした。が、一哉も周囲の異変を感じており、すぐに動いてはくれなかった。怯えた顔をして座席にしがみついてしまっていた。


 結衣は動こうとしない息子の手を無理矢理に引こうとするも、すぐに思い直し、抱えるに変えた。一哉は一瞬抵抗するが、やはり母親の抱擁は子供を安心させるものだ。一哉の抵抗はすぐに治まり、結衣に抱き付いた……しかし、この一瞬で結衣は出遅れてしまった。息子を抱き締める僅かな間に、逃げる人の波が多くなり過ぎて、車のドアを開く事が困難になってしまったのだ。


 どうにかしたいが、どうにも出来ず、結衣は外へ出れるチャンスを待つしかなかった。

 ジリジリとした絶望感が数分続き、結衣も一哉も震えた――その内に前方に見えた、"白い何者か"が途轍もない速さで走って来ている姿が。


 結衣にはソレが何か、すぐには分からなかった。

 何かは分からないが、『恐ろしい』と感じた。

『恐ろしい何かがこっちに来ている』と。


 この時、結衣は咄嗟に判断した。『車外に出て逃げるのは止めよう』と。

 "死を待つ"という意味ではない。結衣は考えたのだ。『あの"何か"のスピードは速い、ドアを開けられるタイミングを待っている内に、あの"何か"は自分達の近くに来てしまう。しかも外に逃げられても一哉を抱いて走るから全力は出せない。絶対に追い付かれる……だったら車外に出るのは止めて車内に隠れていた方が良い』と。


 自分なりに答えを出した結衣は、すぐさま一哉をダッシュボードの下に隠した。それから息子に覆い被さり、自分自身も頭を低くして隠れた。そして、祈った。


『神様、お願いです。この子だけは助けて下さい』……と。


 結衣は祈りながら一哉をより深くダッシュボードの下に押し込んだ。一哉は痛そうな声を出すが結衣の力は緩まない。息子を助ける為だからだ。

 自らの人生を『平凡で平和な人生』と自負していた結衣はこの時既に存在しなくなっていた。

『気付かないで、気付かないで、どうかそのまま私達の前を通り過ぎて……』結衣は祈りながら、チラリと横目で"白い何者か"が来る方向を見た。


「化け物……」


 直後に結衣は呟いた。


「何で……」とも。


 結衣が『化け物』と捉えた存在が結衣を見ていたからだ。

 化け物との距離はまだある。化け物の顔はハッキリとは見えない。しかし、結衣は気が付いた。化け物が自分達に狙いを定めている事に――


「馬鹿……」


 結衣は車に残る判断をしてしまった自分自身を責めた。「あぁ……」運命を受け入れる様な吐息を漏らし、瞼を閉じると、結衣は息子を抱き締める力を更に強めた。

 少しの隙間も開けぬ様に強く抱き締め、結衣は祈った。『この子だけは助けて下さい、この子だけは助けて下さい、この子だけは助けて下さい……』

 何度も。何度も。


 祈っても足音は止まらなかった。

 恐怖と共に足音は接近してくる――すると、何やら風が吹く様な音が聞こえた。

『何だろうか? 化け物が何かをしているのか?』そう思った矢先、「BANGッ!!」声がした。


 銃声を口真似した様な声、結衣は死刑宣告だと思った。

『嫌だ……嫌だ……』結衣は嘆いた。夫の顔が脳裏に浮かび、涙があふれる。『もう一度会いたい……助けて……一哉の笑顔をもう一度見たい……死にたくないよ……』



 ………



 …………



 ……………時間が止まったかの様な無音の時間。


 一秒……二秒……三秒……


 何も起きない。四秒、五秒……と過ぎても。

 結衣は恐る恐る瞼を開き、外を見た。「え……」結衣は驚いた。

 何故なら、すぐ近くに居ると思った化け物が何処にも見当たらなかったからだ。

「……どうして?」不思議に思った結衣は起き上がり、運転席側の窓に近付くとゆっくりと辺りを見回した。


 やはり化け物は何処にも居なかった。『居なくなったの……?』結衣は心の中で呟き、耳を澄ましてみる。

 すると、上空から声が聞こえた。声は三つあった。男の声だ。一つは最前に「BANGッ!!」と銃声を口真似した声、もう一つは甲高いアヒルの様な声、最後の一つは少年の声に聞こえた。


 声が聞こえた空を見上げてみると、結衣は不思議な光景に目を見張った。


 化け物がそこに居たのだ。

 居たのだが、化け物は羽交い締めにされている。羽交い締めにされ、空を飛んでいた。

 羽交い締めにする者は、大きな白い翼を持つ赤い体の人物、その者を見た結衣は「天使……?」と思った。「神様が助けてくれたの……?」結衣が呆然と呟くと、「違うよ、お母さん」と一哉の声がした。


 結衣が視線を移すと一哉も空を見上げていた。

「違うよ!」一哉は念を押す様にもう一度言った。

 一哉の顔には飛び切りの笑顔が浮かんでいる。


「あの人ね、正義のヒーローだよ!」


《王に選ばれし民》が現れてからの一哉は常にナーバスな状態であった。笑顔は少なく、常に不安げな表情を見せて、結衣に"子供の心は繊細だ"と痛い程教えていた。

 そんな一哉がやっと笑った。結衣は嬉しかった。嬉しくて、最前に流した涙とは違う、また別の涙が頬を伝った。


「何で泣いてんの? 俺たち助かったんだよ?」


(おれ)』の『れ』が上がり調子になるのが特徴の一哉。その『(おれ)』を数日ぶりに聞いた結衣の顔には涙は止まらずも、笑顔が戻った。


「ううん、嬉しくて泣いてるの。かっちゃんの笑顔が見れて」


「えぇ? なにそれ、変なの!」


「変でも良いの!」


 結衣は、首を傾げる一哉をもう一度強く抱き締た。それから、また空を見上げる。大きな翼を生やした、一哉曰く『ヒーロー』を見たかったからだ。


「あの人がヒーローなの?」


「そうだよ! お母さん気付いてなかったの? あの人、白い化け物をずっと追っ掛けてたんだよ!」


「そうなの?」


「うん。最初は白い奴の仲間なのかな? って思ってたけど、違かったんだね!」


 結衣はこの言葉で気が付いた。一哉を守りたい一心で化け物以外の存在を全く見れていなかった自分に。


「そうか。そうだったんだ」


「そうだよ! きっとあの人、この前聞こえた声の人だ! 名前なんだっけ? ねぇ、何て言ってたっけ?」


 一哉はヒーロー番組が大好きだ。

 瞳を嬉々と輝かせて、テレビ番組を見る時と同じ顔をしている。


「あっ、思い出した、ガキセイギだ! ガキセイギだよ、お母さん! スゲーやっぱヒーローって本当にいるんだね! 俺もなろ!!」


「うん、うん、なろうね。かっちゃん、なろう。ほら、お礼を言おう! ありがとうって!」


 結衣は助手席側の窓を開いた。


「応援しよ! 頑張ってって!」


 結衣の涙は溢れて止まらない。


 結衣は感謝の言葉と共に、ガキセイギに声援を送った――

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