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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第3話 慟哭 10 ―このマイペース野郎!!―

 10


 リュックの中にボッズーを入れて正義は歩く、青木麗子の見舞いに行く為に秘密基地を出たが、まず向かうのは青果店だ。青木麗子への見舞いの品を買う為だ。


「ねぇ、せっちゃん?」


「ん? なんだよ、愛?」


 正義と愛の歩調は二人三脚の様によく合う。

 どちらかが合わせているのではなく、自然と合う。気の合う二人は歩きながらも会話を続けていた。


「勇気くんの事も心配だけど、約束の日が過ぎてるのに、まだ(ゆめ)ちゃんと(まさる)くんからも連絡が無いじゃん? だから昨日ね、私ね、勇気くんにメールを送った後、二人にもしてみたの――」


 愛が言う夢と優とは、《黄島(きじま)(ゆめ)》と《緑川(みどりかわ)(まさる)》の事だ。

 夢と優も正義達の旧友であり、同じく世界を救う英雄に選ばれた者でもある。

 この二人も本来ならば、約束の日に輝ヶ丘の大木に来なければならなかったのだが、何故か未だに姿を見せていない。


「一昨日、せっちゃんにも話したよね。二人とは時どき連絡を取っていて、つい一週間くらい前にも私と勇気くんで『約束は覚えてる?』って内容のメールを送ったって」


「あぁ、聞いたぜ。(まさる)には愛が送って、(ゆめ)には勇気だろ? 確か、優からは『覚えてます、絶対に行きます』って返ってきたんだよな?」


「うん、そうだよ。夢ちゃんからも『約束の日までには輝ヶ丘に戻る』って感じの返信があったの」


「だよな、それにしても夢には驚くよなぁ。父ちゃんの仕事の都合とはいえ、海外暮らしだもんな! ニューヨークだっけ? ホットドッグとか喰ってんのかなぁ?」


 三年前、黄島夢はアメリカに渡っていた。現在はニューヨーク暮らしだという。『輝ヶ丘に戻る』というのも『日本に戻る』という意味だ。


「う~ん、ホットドッグ食べてるかは分かんないけど……あっ、じゃあこれは知ってる?」


 高校生の会話は移ろい易いものだ。愛は昨日送ったメールの件は置いといて、自分が知っている夢に関しての情報を揚々と話し出した。


「夢ちゃんさ、『ハリウッド映画に出るような有名な俳優になりたい』って昔からよく言ってたでしょ? アメリカに行って、本気でレッスンを始めたらしいよ。最近はオーディションも良いところまで行けるようになったんだってさ!」


「あぁ、らしいな!」


 正義はニカッと笑って答えた。


「えっ、らしい?」


 愛はこの笑顔に驚いた。否、『らしいな!』という返答に。


「あれ……ちゃんと待って。この話って一昨日してたっけ?」


「いや、してねぇよ。俺が聞いたのは約束の日の前に二人にメールしたって事だけ、オーディションとかに関しては夢本人から聞いたんだよ!」


「え……夢ちゃんから?」


 愛は驚くが、正義は「あぁ! 」と頷き、「それじゃ、これは知ってるか?」と続けた。


「優さぁ、輝ヶ丘高校の推薦に通ったらしいぜ!」


「え、そうなの?!」


 愛が知らない情報だった。


「アイツ、英雄として頑張る為に『受験は早いとこ終わらせよう』って考えてたらしくて、推薦で入学出来るようにめっちゃ頑張ったんだって、スゲーよな!」


 正義は「へへっ!」と笑うと、誇らしい顔をした。


「これで四月からは優も一緒の学校だな。因みに俺も輝ヶ丘高校の転入試験受かったんだぜぇ! ありゃヤベーな、めちゃくちゃ難しかったぜ!!」


 緑川優は正義達よりも二つ下の中学三年生。夢はその間の高校一年生だ。「夢も受かったのかなぁ? そしたら五人とも同じ学校になんだけどなぁ」と正義は話を続けるが、愛は「ちょ……ちょっと待って!」と遮った。


「私、優くんが輝ヶ丘高校に受かったなんて知らないんだけど、せっちゃんが何でそんなに知ってんの?」


 愛が目を見開いて聞くと、正義はキョトンとした顔で「え……だから、優から聞いたんだよ」と答えた。それから、「あ、そっか。言ってなかったな」とも付け加える。


「ごめん、ごめん! 実は俺もさ、前々から夢と優には連絡入れてたんだよ。あの二人は英雄に選ばれた時、まだ小四と小三だったろ? だから、もしかして『約束の日っていつだったっけ?』とかなってんじゃないかなぁ~~って思って! 全然取り越し苦労だったけどな!」


 正義にとって夢と優は友達でもあり、妹や弟の様な存在だった。二人を語る正義は優しく笑う。


「そ、そう……なんだ」


 愛も同じだ。正義と同様に夢と優を想っていた。愛にとっても夢と優は友達であり、妹と弟だった。

 だが、正義が二人と連絡を取っていたと知り、愛の表情は曇った。理由は単純だ。正義は約束の日の当日ですら愛と勇気には連絡をくれなかったからだ。その為、『本当にせっちゃんは輝ヶ丘に戻ってくるの?』と愛は心配で堪らなかった。

 勇気には『ねぇ、勇気くん連絡は来た?』や『勇気くん私達みんな揃うよね?』と幾つもメールを送り、辟易とさせてしまったくらいだ。


「私と勇気くんには全然連絡くれなかったのに、二人にはしてたんだ……」


 愛は素直に不満を吐露するが、「あぁ! そりゃ~なぁ、勇気と愛は大丈夫だろうって思ってたからな!」と正義は軽い調子で答るだけ。

 だから愛は、


 ― なにそれ! このマイペース野郎!!


 と頬を膨らませた。


 一昨日に再会するまで正義からのメールや電話は殆ど無かった。愛が最後に貰った連絡は一年前の2月15日に来たメール。内容は『ついに一年後だな! 頑張ろうぜ!』というシンプルなものだった。しかも二年前にも、三年前にも『ついに二年後だな――』『三年後だな――』と送られてきていたのだから、愛からすれば定型文でしかなく、返信を送っても以後は正義からのメールはなかった。電話は更に少なくて、最後に貰った時は中学三年生の三学期だった。それも『どこの高校に決まったんだ?』という確認だけをされて、すぐに切れてしまった。それ以降は全く無く、愛がかけても出てくれない……約束の日が迫るにつれて愛の心配は募っていった。

 だから愛は頬を膨らませる。


 ― 勝手に決めないでよ! 全然大丈夫じゃなかったんだから! 心配で心配で……もうっ!!


 ……と。

 頬を膨らませた愛は「そっか、まぁ良いや」と言いながら、約束を添える。


「そういう事なら後で頭突きね」


「えっ?! ず……頭突き??」


「うん、頭突き、約束!!」


「え……なんで?」


「いいの! なんでも!!」


 正義が愛と勇気に全うな連絡をしなかった理由は、正義が連絡無精だからという理由もあるが、二人に対して絶大な信頼を置いていたからでもある。

 正義は正義で『返信しなくちゃなぁ~』だとか、『あれ? 愛から着信入ってるじゃん、後でかけ直そっ!』だとか、『愛達にも今度の日曜に電話してみよ!』だとかを常日頃思ってはいたのだが、そんな気持ちは実際に行わなければ伝わらない。


 伝わらないから愛は心配を募らせ、頭突きの約束を添えた――けれど愛は切り替えた。『不安にはなったけど、目の前の現実が大事だ!』と。『せっちゃんが帰ってきたならそれで良い!』と。

 そして、同時にもう一つ切り替えていた。それは正義から連絡を貰っていた夢や優への嫉妬だ。

 愛は自分でも分かっていた。『妹や弟の様に想う年下の友達に情けなくも嫉妬してしまった』と。そんなマイナスな感情よりも、愛にとっては最初に話そうとしていた話題の方が大事だった。

 気持ちを切り替えた愛は、話題を年下の友達に送ったメールの件に戻そうと考えた。


「あっ……ていうか話題がズレてた、昨日したメールの話が全然進んでないよ!」


「あっ……そ、そっか、そうだったな」


 話題をズラしたのは愛自身でもあるが、愛は「あのね」の一言で軌道修正を図った。


「昨日、夢ちゃんと優くんにもメールしてみたんだけど、まず優くんの方から話すね。あのね、この前は私がメールをしたら、優くんはすぐに返信をくれたの。でも、昨日のは全然返信が無くてね――」


 愛はスマホを取り出して、正義に画面を見せた。縦にメッセージが並んだメール画面の最後には愛が送ったメッセージがあり、その横には『既読』と付いていた。


「――既読はついてるのに返信くれないって、いつもの優くんじゃ考えられないんだ……なんか変じゃない?」


「う~ん、そうか? 確かに返信が早い印象はあるけど、なんか事情があるんじゃないのか?」


 けろりとした正義の返答。この返答に愛は眉をひそめる。


「事情……それってなに? だって、優くんはマメなタイプだよ。つい先日のメールも、私が送ってから数分で返信くれたし」


「う~ん、じゃあ送ったの何時だよ?」


「昨日の夜の十一時……」


「へへっ! なんだよ、まだ一日も経ってないじゃん。だったら、もうちょい待ってみようぜ!」


 正義はやはりけろりとしていた。

 メールを送った相手が連絡無精な正義であれば"既読"が付いても返信が来ないのは心配はしても当然とも思える。しかし、相手はマメな優だ。愛は「優くんぽくなくて変なんだけどなぁ」……と納得しなかった。

 だが、結局正義の共感は得られずに終わり、話題を次に進めるしかなかった。


「そっか……じゃあ、次に夢ちゃんだけど。メールは返ってきたの。でもね、来た返信がね、よく分からないんだ、コレなんだけど――」


 愛はスマホを操作してメール画面を変えた。それから正義に見せる。


「ん? 何だコレ?」


 愛のスマホを覗き込んだ正義は首を傾げた。


「変だよね、意味が分からないよね?」


 愛が見せたメール画面には、夢から送られてきた写真があった。空港の中から撮影されただろう飛行機の写真だ。そして、写真の下にはメッセージがある。全部で五つ。愛の返信を挟まずに連発されたものだ。


『たら、忘れちゃった』


『パパ怒ってる』


『またぶーんする!』


『遅れるね!』


『ごめんね』


 この短い文章を読んで、今度の正義は頭を掻いた。「ど、どゆこと??」……と。


「ね? どういう事、だよね? だから、私も『?』って送ったんだけど……」


 夢の『ごめんね』のすぐ下には、『?』を頭に浮かべたウサギのスタンプがある。愛が送ったスタンプだった。


「でもね、結局私の『?』に対しての返答は無くて、次にこんな文章が来たの」


 愛は画面をスクロールし、次のメッセージを見せた。

 これもまた短い文章である。


『ギッチョンがんばってんじゃん!』


『伝えといて』


 ギッチョンとは正義のあだ名である。『ギッチー』と呼ぶ友達は数名いるが『ギッチョン』と呼ぶ友達は夢しかいない。


「多分、この二つの文章は一昨日のせっちゃんの活躍を知って『がんばってんじゃん!』なんだろうけど。でも……結局、先に送られてきた文章の意味は分からないまんまなんだ」


「いやぁ、これは意味不明だなぁ。それで、この後は? 何も送ってこないのか?」


「うん、一応『日本には帰って来てるんだよね?』って送ってはみたんだけど、ここからは返信が来てないんだ」


「そっかぁ……」


 正義は首を傾げたまま、髪の毛を掻き回し、「『遅れる』って事は、日本に到着するのが遅れるって事かな?」と言ったが、愛は「『パパが怒ってる』って書いてるから、日本には居るけど私達に合流するのが『遅れる』って意味にも取れない?」と答えた。


「だって、今は無闇に出掛けるのは危険だって言う人もいるしさ……」


「そうなのか?」


「うん、うちの両親もそうだよ。今日は勇気くんのお母さんのお見舞いに行くって言ったら何とかなったけど。昨日ボッズーに呼び出された時は、ちょっと苦労した」


「あぁ、勇気の母ちゃんを病院に連れて行く時に協力してくれたんだもんな」


「うん、お父さんもお母さんも土曜日だったから家に居て、自分の部屋の窓からこっそり抜け出すしかなかったんだ」


《王に選ばれし民》が現れてからは、僅かな時間の外出ですら避けようとする住民が増えていた。愛の両親も同様で、娘の外出には厳しくなっていた。


 ――この後も二人は夢のメールの解読を試みたが結局真相は分からずじまい。謎は謎のままで、二人は青木麗子へのお見舞いの品を買おうと決めていた青果店に着いてしまった。


「へへっ! メロンとか買っちゃう? 奮発しちゃおぜ! うわっ旨そう!!」


「せっちゃん、勘違いしないでね。せっちゃんは食べられないからね、おばちゃんの為に買うんだからね!」


「分かってるよ! へへっ! どれにしようかなぁ~勇気のヤツがいれば、おばちゃんの好みも分かんだけどなぁ~~! 何にしよっかなぁ!!」


 正義はそう言いながら、軒先にある真っ赤なリンゴに目を付けた。


 ―――――


 現実から逃げる事は簡単だ。現実を見なければ良いのだ。ただそれだけで、嘘の世界で生きられる。

 しかし、嘘には逃げず、現実逃避に身を任せないと勇気は決めた。

 現実を生き、己の心の中を見詰め直す。『それが贖罪の始まりになる……』と、勇気は信じた。

 そして、見詰めれば見詰める程に、己に眠っていた恐怖が、色濃く、根深いものだと勇気は知った。


「こんな奴が……『世界を救う』と(のたま)っていたのか……罪だな、罪深い……」


 勇気は真空色の空を見上げた。既に涙は出ていない。一夜をさ迷い歩きながら、枯れる程の涙を流したから。


「良く晴れてやがる……、別れを告げる日の空にしては晴れ過ぎだ」


 勇気の気持ちは既に固まっていた。一夜の内に、己の生きる道は何か、その答えを勇気は見付けていた――勇気は決意を込めて、腕時計を叩いた。


「正義……聞こえるか、今すぐ会いたい」


 親友(とも)と決別する為に。

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