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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第3話 慟哭 8 ―慟哭―

 8


「恐怖だと……俺はそんな物と友になったつもりはない!!」


 勇気は否定した。『お前の友は、死であり、恐怖だ』と言った声を。だが、謎の声は止まない。勇気の脳内に響き続ける。


『抵抗するな、受け入れろ、お前のこれまでの人生は、常に死への恐怖と共に、あったではないか、』


「笑わせるな……そんな事はない!!」


『己に嘘をつくな、父が死んだ日、お前は死への恐怖を知った、その日から恐怖はお前の友となった、恐怖こそ、お前の本質、恐怖こそ、お前の力、』


「ほざくなッ!!」


『受け入れろ、受け入れるのなら、お前は民となれる、選ばれし民へと、』


「煩い……黙れ、黙れ!!」


 声は耳を塞いでも聞こえてくる。気が付けば勇気は声に抗う事に気を取られ、眼前の"化け物"を注視出来なくなっていた。勇気は無意識の内に謎の声の虜になってしまっていた。


『否定、するな、受け入れろ、』


「違うッ!!」


 勇気は耳を押さえ、激しく頭を振った。

 頭を振ると刺される様な痛みが襲ってくる。


「うぅ……」


 勇気は呻きながら背後の木に寄り掛かり、力無く座り込んだ。


『否定すれば、する程、お前は、肯定してるのが分からないのか、お前の友は恐怖だ、受け入れろ、受け入れるので、あれば、お前は力を得られる』


「勝手な事を言うな……俺の友はそんなんじゃない! 俺に恐怖なんて無い!!」


『否、お前の友は恐怖だ、どうしても否定するの、ならば、いま、分からせてやろう』


「分からせる……何をするつもりだ!!」


 ゾクリとして勇気は聞くが、答えは返ってこなかった。

 

「さっきから何を一人で喋っているんだ、もしや幽霊の声でも聞こえているのか? フハハハ……ん?」


 勇気の眼前の"化け物(デカギライ)"も嘲笑いを止めた。辺りを見回し始める。


「おぉ、これはこれは! 刑事(デカ)共のお出ましか!」


「動くな! 今すぐ少年から離れろ!!」


 ――その理由は警官達が現れたからだ。

 デカギライと勇気に追いついた五人の警官は、一人一人が木を盾にして、デカギライを取り囲んでいた。


「キミ、聞こえるか?」


 勇気の背後にも一人居た。

 勇気が寄り掛かった木の後ろに立つ警官は、「意識はあるよね?」と勇気に問い掛けた。


「今から私達があの怪物を惹き付けるから、その隙にキミは逃げるんだ、いいね?」


「に……逃げる」


 勇気の脳内は謎の声に惑わされて鈍くなっていた。警官の言葉の意味を理解出来ていない。ただ耳に入った言葉を反射的に返しただけだ。だが、勇気が反射的に返した言葉を「そうだよ。分かったね?」と、警官は了解の意味に捉えてしまった。


『丁度良い、まずはこの男に、しようか』


 謎の声がまた聞こえた。


「"まずは"……それはどういう意味だ」


 謎の声の言葉だけは勇気の脳に届く。警官の言葉は理解出来なくても、謎の声の言葉は理解出来た。


「な……何をする、この人に何を……」


 勇気は問い掛けるが、謎の声の返答は得られない……が、答えを待つ必要は無かった。勇気に『逃げるんだ』と命じた警官が動き出したからだ。

 警官は草を踏み鳴らして木の陰から出てくる。『怪物は惹き付ける』と言った筈であるが、何故なのか、その動きは鈍かった。ゆっくりと歩き。銃も構えていない。腕は垂らし、力無く揺らしている。


「何だぁ、その顔は?」


 勇気の前に立った警官の顔を見て、デカギライは首を傾げた。

 警官の顔が怯える様に歪んでいたからだ。


「あぁ……あ……あぁ……」


 顎はガクガクと震え、漏れる吐息も震えている。


「おいおい、お前、自分から俺の前に立ったんだろ? それなのに怖いのか? フハハッ! 勇敢なのか臆病なのかどっちなんだよ、まぁ良い……狙いやすい標的だ!!」


 デカギライの嘲笑いは復活し、警官には銃が向けられた。


「あ……あぁ……か、体が……」


 銃を向けられても警官は逃げようとはしない。腕を垂らした棒立ちで、震えた体をデカギライに向け続ける。


「フハハッ! 良い度胸だッ!!」


 デカギライの嘲笑いが林の中に響く――笑っていたのはデカギライだけではない。勇気に囁き掛けてくる謎の声の中にも笑みがあった。


『警官が動けない、理由を分かるか、彼はもう、我の操り人形だからだ』


「操り人形……あっ! や、止めろッ!!」


 勇気は察した。警官は謎の声の持ち主によって体の自由を奪われてしまっている……と。

 しかし、気が付いても手遅れであった。


『今からお前に、恐怖が友だと、いう事を分からせてやる』


「BANGッ!!!」


 デカギライの銃が火を吹いた。

 弾丸は放たれ、飛んでいく。もう止められない。もう誰も警官を救う事は出来ない。


『お前が殺した、お前が友を受け入れないから、彼は死ぬのだ』


 警官は断末魔を叫ぶ事すらも許されなかった。

 警官の頭部に直撃した弾丸は爆発し、直後に目映い光を放った。瞬いた光はすぐに消えるが、しかし、光が消えると共に警官の肉体も消滅していたのだ。


「うわぁぁぁぁ!!!!」


 勇気は叫んだ。絶望の叫びだ。

 この時、警官の死亡を理解している人物は勇気だけだった。勇気だけは、警官の肉体が消失する前に聞こえた謎の声の言葉で全てを理解していた。だが、勇気以外の人物は警官の消失をすぐに死に結び付けられてはいなかった。


「そんな……そんな……」


 勇気は目の前に落ちた警官の制服をかき集め、強く抱き締めた――


「俺のせい……俺のせいだ!!!」


 制服は暖かく、汗の匂いもした。

 警官の生きていた証が色濃く残っていた。

 勇気の悲しみも尚更濃くなり、抑えきれない感情に勇気は慟哭する。


 しかし、勇気とは反対に嘲笑う者もいた。

 

「そうか、そういう事か!!」


 デカギライは泣き叫ぶ勇気を見て、己が何をしたのかを知ったのだ。


「なるほど、神が言っていた通りだな! 俺の能力(ちから)は忌み嫌う存在を消滅させられる能力と……正にその通りじゃねぇか、フハハハハハッ! そうか、これが俺に与えられた能力か!大嫌いな刑事(デカ)共を消せる力――ハハッ! 良いねぇ! 良いねぇ! 《デカギライ》、俺の新しい名前の意味も分かったぜ! 嗚呼、最高だ!! ――それじゃあ次は誰を消そうかッ!!!!」


 デカギライは辺りを見回し始めた。

 次のターゲットを決める為だ。


「ハハッ! 良し、次はお前だ!」


「あっ……!!!」


 狙いを定められた警官は木の陰から半身を出してデカギライに銃を向けていた。

 狙いを定められたのが自分だと知った警官はデカギライに向かって発砲する。が、放たれた弾丸はデカギライの肩に命中するも、傷一つ負わせられない。


「あぁ……あぁッ、何で! 何でッ!」


 警官は、人間の常識を逸脱した存在を理解出来ずに繰り返し発砲するが、結果は最前と同じだった。デカギライには傷を負わせられない。


「撃てッ!!! 頼むッ!!! 援護求むッ!!!」


 仲間に向けての要求だ。だが、仲間の頼みを誰も聞かなかった。否、聞けなかった。


「あ……あぁ……」


「か、体の自由が……」


「動け……ない……」


 何故なら、残された警官達は消失した警官と同じだったからだ。謎の声によって体の自由を奪われていた。


『また死ぬぞ、お前のせいで』


「フハハハハハッ! 無様だなぁ!」


 デカギライはターゲットに選んだ警官に近付くと銃を突きつけた――


 ―――――


 デカギライは、その後も高笑いを上げ続け、一人、また一人と警官を消していった。


「あぁ……あぁ……」


 警官達が消される度に、勇気の脳内では謎の声が響く。『お前が殺した、お前のせいだ』『命あったものが、また消えた』……と。


 次第に勇気の視界は、黒く染まっていった。

 視界を染める物は《王に選ばれし民》が現れた時に見えた黒い影、漆黒の闇の塊だ。


「消さないで……消さないで……」


 闇に視界を染められた勇気は、まるで子供の様な言葉遣いで嘆いた。視界を染められると共に、勇気は悪夢の中へと堕ちてしまったから。


 それは、現実逃避なのか……否、勇気は操られたのだ。警官達と同じく、謎の声によって。

 心の奥底に眠っていたトラウマを使って、謎の声は勇気を恐怖の海へと堕としたのだ。


『どうだ……やはりお前はそうじゃないか、お前の友は、(せい)ではない。お前は、恐怖の囚われ人だ、受け入れろ、受け入れろ』


 勇気の脳内で、声は語り掛け続けた。


「やめて……やめてよ……撃たないで! 殺さないで!!」


 頭を抱えて倒れていた勇気は、わなわなと震え出す。


「BANGッ!!!」


 また、デカギライが警官を消した。最後の一人だ。


「撃たないで! 撃たないで!!」


 震えながら立ち上がった勇気は、デカギライの居場所を探す。闇に覆われた視界は晴れない。それでも勇気は、手を振り回し、手探りでデカギライを探した。


 しかし、


「フハハッ! 何やってるんだアイツは? 本当に気持ちの悪い奴だな!!」


 最後の一人を消したデカギライは林の中を走る勇気の姿を嘲笑った。何故なら、勇気は全くの見当違いの場所に向かって走り出していたからだ。

 悪夢の中にいる勇気がどんなに必死になろうが、正常な判断は不可能だった。無力でしかなかった――そんな勇気にデカギライは軽蔑の眼差しを向ける。


「もう良い……あんな情けない奴の相手はしたくない、時間の無駄だ! また別の刑事(デカ)でも探しに行くか。フハハハッ! この力気に入ったぜ!!」


 デカギライは右手に生えた銃を撫でながら、勇気の前から去っていく。


「撃たないで! 撃たないで! 殺さないで!!」


 残された勇気は叫んだ。


 叫び、走った。


 叫び、走ったのだ。


 恐怖の海に溺れながらも、警官を『撃たないで!』と。警官を『殺さないで!!』と。殺戮を止めようと、叫び、走ったのだ。

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