第3話 慟哭 3 ―敵の名はデカギライ―
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「何ッ!!」
「フハハハッ!!」
バケモノは高笑いを上げながらセイギの手を振り払った。
それからバケモノはコートを翻す。すると、バケモノのコートを燃え上がらせていた炎が一瞬にして消えてしまう。
「騙して悪かったな……こんな炎なんざ、俺には熱くはないんだよ!」
真っ白なコートを取り戻したバケモノは再び銃を構えた。
「人間に戻るか……フハハッ! 悪いが却下だな、俺は俺のまま生きるぜ!」
「この野郎……」
バケモノの改心が無いと知ったセイギも戦闘体制に戻ろうとする。
大剣の柄を両手で持ち、地面に向けていた剣先を持ち上げた……がしかし、「おっと動くな!」と、バケモノが左手を上げて止めてくる。
「少しでも動けば、撃たれるぞ……」
セイギはこの言葉に違和感を持った。『男自身が銃を構えているのだから"撃たれるぞ"ではなく"撃つぞ"が正しいだろう』と。だが、深くは考えない。『男が言葉を間違えただけだ』と判断したからだ――刃を立てる形で、セイギは体の前に大剣を構えた。
「いや、だから動くなって言ってんだろ」
「え……?!」
構えた直後、背後から声が聞こえた。
聞こえると同時にセイギのうなじに固い物が当たる。
― なんだ、どういう事だ……
セイギは混乱した。
何故ならば、背後から聞こえた声は眼前のバケモノのものと全く同じ声だったからだ。
「フハハハハッ!!」
背後の声が笑った。眼前のバケモノと同じ笑い方だ。同じ笑い声でもある……
「フハハッ! クソガキ、お前その仮面取れよ! 今のお前がどんな顔をしているのか見たくて仕方がない……」
眼前のバケモノも笑った。
背後の声が聞こえた瞬間にセイギは一瞬体を震わせた。驚いた為だが、バケモノはその反応を馬鹿にしたのだ。
「お前……仲間がいたのか!!」
バケモノに聞きたい事は本当はこれではない。しかし、混乱するセイギの口から出た言葉は、この言葉だった。
そんなセイギをバケモノは更に馬鹿にする。
「仲間だと……馬鹿を言うな、俺に仲間なんてものは必要ない。仲間なんて、邪魔にしかならない存在だからなぁ。お前も知ってるだろ、俺が率いていた奴等を。チョウとボンって奴等だ。あの二人とは長い付き合いだったが、結局は奴等もただの邪魔者にしかならなかった……だから俺は決めた、俺は俺しか信じないと!!」
「俺は俺しか……って事は――」
「フハハハハッ!!」
背後から二度目の笑い声が聞こえた。
眼前のバケモノの発言から背後に立つ者の正体をセイギは察した。後ろを振り向き確認をしたいが、うなじに当てられた物のせいで振り向く事が出来ない。何故ならば、うなじに当てられた物が何かの察しもついているからだ。それはバケモノの右手にある物と同じ物……そのために、動けば撃たれるだろうとの察しもついてセイギは動けなかった。
「そんなに俺の正体が知りたいか?」
背後の存在は、笑いを押し殺しながらセイギのうなじを突いた。
背後の存在はセイギに向かって質問をする様な言い方をしたが、セイギが答える隙は与えてくれなかった。与えずに、自ら答えを叫んだ。
「俺が誰が、それはなぁ――俺だよ、俺自身だよ!!!」
「そう……俺だ!!!」
背後の存在が叫ぶと眼前のバケモノも叫んだ。
"眼前"と"背後"は声を合わせる。
「お前にも見せてやるよ――」
「―― 神から与えられた俺の能力をッ!!!」」
二つの声が重なると"眼前"は全身から光を放ち始める。それは粒子状の光。光は眼前の真横へと集まり、形を成していく。
「俺は――」
「俺しか――」
「――信じない」
声が三重になった。
粒子状の光は、テンガロンハットを斜めに被り、ロングコートを着ている形を成した。
顔もある、キュビズムが如く不統一な顔だ。
形を成せば光は輝きを失い、白くなる、禍々しい程の白になった。
「お前、分身が出来るのか……」
「フハハッ! ガキらしい幼稚な言葉で言えばそうだな!」
三体になったバケモノはセイギの言葉を腹を抱えて嘲笑った。
それから、眼前のバケモノは光を放ち続ける――
「どうだ? 俺は最強だろ?」
「まだまだ増やそうか?」
「俺達に囲まれて、絶対絶命だなぁ!」
放たれた光は再び形を成す。白いテンガロンハットを被り、白いコートを羽織った姿に。
四体、五体と増えたいったバケモノは一体一体がセイギを馬鹿にしていく。
「何が人間に戻れば助けてやるだよ」
「フハハッ! お前が俺達に助けを求めるべきじゃないのか?」
「おい、言ってみたらどうだ、『助けてください』ってよぉ……」
数分の僅かな間でセイギは四面楚歌に陥った。しかし、セイギは諦め知らずな男だ。バケモノに助けを求めはしない。笑われ続けても降伏はしなかった。
「誰が……お前なんかに助けを求めるか!!」
「フハハハハハッ!! 懸命だなぁ。求められても俺達は応えないからなぁ!!」
「なぁ? お前さっき『罪を償え』とも言ってたよな? それってどういう意味だよ?」
「罪って何だ? 俺は俺の生きたいように生きているだけだ。俺の人生にとっての邪魔者を消しただけ」
「それが罪だって言うのか?」
「当たり前だろ! 人を殺して良い訳ないだろうがッ!!」
「フハハハハハッ!!」
セイギはすぐに切り返したが、バケモノも同じだった。バケモノはすぐに高笑いを上げた。
「出た出た! お前みたいな正義ヅラした糞が言いそうな言葉だ、人を殺しちゃいけない……か。なぁ、おい? それは一体誰が決めたんだ?」
「人間だ、人間なんだよ、愚かな人間が勝手に決めた事だ! 何故だか分かるか、クソガキ? 」
「それはなぁ、強い者を淘汰する為だ! 弱い奴等の群れは、そうでもしないと生きれないからな!」
「下らねぇ……下らねぇよ! マジで下らねぇ!」
「弱者はサッサと死ねば良いんだよ! それが自然の摂理だ!」
セイギを囲んだバケモノ達は唾を撒き散らして怒鳴り続けた。
対するセイギも黙ってはいられない。セイギにとってバケモノの言葉は正に暴論だったから。
「勝手な事を言うんじゃねぇ!! 人の命に、弱いとか強いとか、そんなもんは無い!! 死んで良い命なんか無いんだ!!」
「ハハハッ! 綺麗事をご苦労様だ!……だけど、俺には効かないぜ」
「俺には俺のポリシーがあるからな。俺以外の命は、俺が生きる為だけにあるんだ!」
「俺は俺らしく生きる、その為には俺は人間など棄ててやる!」
「そして、新たな世界を作るんだ! 先ずは今まで俺の生き方を邪魔してきた大嫌いな刑事どもを一人残らず消してやる……そして、いつかはお前も消す」
「神は言ったよ、自らの望みを叶えれば俺は更に進化出来るってな!」
セイギを囲んだバケモノは一体一体が順番に破壊的な持論を叫んでいたが、ここで一斉に声を重ねる。
それは、己に与えられた名を名乗る為――
「覚えておけ、俺の名は《デカギライ》……鬱陶しい刑事共を世界中から一人残らず消し去り、そして次にはお前を消す力を掴んでやるぜッ!!!」
「何を言って――」
「黙れよ……」
セイギの反論は打ち切られた。
セイギを取り囲むバケモノ達……否、《デカギライ》が一斉に発砲したからだ。
――ここからのセイギの記憶は曖昧だ。
覚えているのは一斉射撃を受けて膝をついた所をデカギライ達に更なる銃撃を浴びせられた事と、リンチの最中に現場へと戻ってきたボッズーに助けられた事。
映像的に記憶出来ているものはデカギライの弾丸を被弾した時に己に纏った爆発の眩い光、ボッズーに救出された後に見た夕日の紅さ……そして、逃げていくセイギを見上げるデカギライ達の嘲笑い顔だった。




